戦前、戦中の研究実態 刺激的な本である。本書には、評者のような団塊の世代の者が学生のころ、東洋史や民族学、宗教学や文化人類学の 碩学 ( せきがく ) としてその名を記憶した研究者が次々と登場し、日本が帝国を名乗った時代、彼らが日本の植民地やその周辺地域で実施した調査の実態が明らかにされてゆく。 日清戦争後、清から台湾を割譲させた日本は、その後、朝鮮を併合し、南洋群島の植民統治に乗り出してゆく。1930年代には満洲に 傀儡 ( かいらい ) 国家を樹立させた。そして、各地域の古い慣わしを調査して、植民地の法律や土地制度を「整備」し、効率的な支配を模索した。台北とソウルに設立された帝国大学はそうした旧慣調査を担うだけでなく、東南アジア、満洲、蒙古、 新疆 ( しんきょう ) などで民族調査を進めてゆく。戦時中には、大東亜共栄圏建設という国策にそって設置された民族研究所が現地調査を推進し、日本