現在(2025年)放送中のNHK大河ドラマ「べらぼう」の主人公は、喜多川歌麿・東洲斎写楽などをプロデュースした江戸の出版人、蔦谷重三郎である。重三郎が活躍した時代は、老中の田沼意次が江戸幕府の政治を牛耳っていた。 田沼意次(1719~88年)は戦前戦後を通じて、賄賂を好む汚職政治家として、たいへん評判が悪かった。こうした田沼意次像を鮮やかに転換したのが、歴史学者の大石慎三郎氏が1991年に発表した『田沼意次の時代』(岩波書店)である。 大石氏は、田沼意次が金権政治家であったことを示すとされてきた史料のほとんどは、意次失脚後、世間に流れた噂話の類を書き留めたものであると論じた。そして大石氏は意次の政策を再評価し、「すぐれた財務家であるが、誠実一筋の人間であるうえに常々目立たぬよう目立たぬよう心掛けていた、たいへんな気くばり人間であった」と結論づける。 そんな田沼意次が失脚したのは、家柄が低い