昨年11月から今年1月にかけて、草彅剛主演の舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』(白井晃演出)が、KAAT神奈川芸術劇場をはじめ各地で上演されました。「異化効果」などで知られる20世紀の劇作家・ブレヒトの戯曲を基にした公演で、普通なら「熱狂」が起きにくい舞台と考えられていますが、実際は客席に大きな熱狂が巻き起こりました。 昨年12月に公演を見た演劇の研究者である松本俊樹さんは、その舞台が良質な「ファシズム体験プログラム」とも呼べるような性質を持っていたと言います。ブレヒトという作家の特徴とわせて、本公演の特徴を松本さんが紹介します。 ブレヒトの「異化効果」 「ブレヒトで熱狂?」最初は耳を疑った。白井晃演出、草彅剛主演のKAAT神奈川芸術劇場主催・製作による『アルトゥロ・ウイの興隆』のことである。本格的なコロナ禍を迎える直前、まだ私たちがこの災禍を海の向こうの出来事だと思っていた2020年1月に迎