先日、芥川賞作家・市川沙央が現代の「異世界小説」を語った記事がちょっと話題になった。 https://bunshun.jp/articles/-/73450 そのなかで、市川は『異世界食堂』などの「異世界料理もの」に「日本スゴイ」の欲望を見て取っている。 いずことも知れない異世界の人間たちが、現代日本の料理に舌鼓を打ち、興奮し、絶賛する様子を描くこの手の作品は、その実、テレビなどで発信されているナショナリスティックな「日本スゴイ」番組と何ら変わらないということだろう。 一理ある。というか、じつは料理ものを含む現代文化礼賛的なウェブ小説に「日本スゴイ」的なるものを見る視点は、何年も前から存在したのだ。 話は変わりますが、異世界に近現代のテクノロジーを持ちこんで主人公が活躍するエンタメって、どこか「日本スゴイ」に似てませんか。 インターネットでは、テレビでよく見かける「日本のモノ・テクノロジー
八尺様、くねくね、きさらぎ駅、コトリバコ、ひとりかくれんぼ…今や「ネット怪談」として多くのインターネットユーザー達の間で知られるようになったこれらは、たらこ唇のお化けが運営するインターネット掲示板から生まれた。 2000年代前半、2ちゃんねる、オカルト板。 ニコニコ動画もまだ存在せず、YouTubeもまだまだマイナーだった時代に、インターネットの申し子(或いは忌み子)として生を受けた俺たちのもっぱらの遊び場と言えば「2ちゃんねる」だった。 インターネットの掲示板文化全盛期、VIPやニュー速、ふたばなど、悪名高きネットの盛り場と並んで暗く怪しい輝きを放っていたのがオカルト板…中でも、洒落怖スレこと「死ぬほど洒落にならない怖い話を集めてみない?」の存在だ。 そこでは日夜、怪談好き達が実話という体裁をとっては身の毛もよだつ恐ろしい話をこぞって投稿していた。くねくねやきさらぎ駅など、10年以上経っ
youkoseki.com 鬼 まだ年初の、寒い雨の金曜日。新年特有のうかれた気持ちも消えてしまって、もう会社など行きたくないとグズグズ準備をして出たら、電車を乗り過ごしてしまった。渋谷駅であれだけの人が下りて行ったのに、自分だけはまったく気付かなかったらしい。 次の駅で下りて反対のホームにゆっくりと向かい、渋谷まで戻る。雨は待ち構えていたように強くなって、職場のあるオフィスビルに着いた時には足下がだいぶ濡れて冷たくなっていた。ビルの入口にあるカフェはバレンタイン仕様。ハートマークのデレコーションが派手に飾られ、スーツ姿の会社員やら外国人観光客やらで賑っている。 オフィスフロアまでのエレベータに一人で乗る。先程までの喧騒が嘘のように静かである。受付を抜けて執務室へ向かうと、何人かの社員が泣いている。なにかあったのだろうが、見かけるのはあまり親しくない社員ばかりである。かける言葉が見つからず
近年、現代的な価値観に合わせるために過去の小説や映画の内容を改変する事例が増加しています。そんな中、スティーヴン・スピルバーグ氏が「E.T.」の20周年記念版で「銃をトランシーバーに変更する」という対応が行われたことを例に挙げて「過去作を改変すべきではない」という見解を示しました。 Steven Spielberg: ‘No film should be revised’ based on modern sensitivity | Steven Spielberg | The Guardian https://www.theguardian.com/film/2023/apr/26/steven-spielberg-et-guns-movie-edit 小説や漫画、映画には「発表当時と価値観が変化した現代では不適切とされる表現」が含まれることがよくあり、価値観の変化によって差別的とみなされ
【無料公開】はじめに/済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』より 日本に住みながらルーマニア語で小説や詩を書いている日本人の小説家。 この文章を見て「なかなか面白い〈設定〉だね!」と言ってくれる人はいるだろう。だけども「へえ、そんなことが実際にあるんだね!」と言ってくれる人、つまりこの文章を「現実」のものと思ってくれる人はいるだろうか。「いや、そもそもルーマニアってどこの国?」と言ってくる人の方が多いんじゃあないかと感じる。しかし、こんな問いかけをする俺自身がその「日本に住みながらルーマニア語で小説や詩を書いている日本人の小説家」なんだ。 まず少し、形式的な自己紹介をさせてほしい。 俺は一九九二年九月十日千葉県生まれ。今もここに住んでいて、三十年間千葉と東京からほとんど出たことがない。海外には一度たりとも行ったこと
吉田篤弘 (よしだ・あつひろ) #東京アパート 麻ちゃんとわたしは、東京の同じアパートの別の部屋に住んでいた。わたしの部屋は一階の右端、麻ちゃんは二階の真ん中だった。わたしたちはいつも自由を探していた。いま思うと、あのころの方がよっぽど自由だったのに――。 イラスト・吉田篤弘 975KB 第19話『うしろまえ』 new UPDATE:2025/1/8 バックナンバーをみる 著作権・ダウンロードについて PDFは無料で公開しておりますが、許可なくミラーを含む他サーバーへのアップロード、winMX / winnyなどのP2P共有を含む再配布を禁じております。営利 / 非営利を問わず、プリントアウトの配布もご遠慮ください。
吉田篤弘 (よしだ・あつひろ) #東京アパート 第十話『ストレイ・クリケット』 東京のはずれにある古いアパートに住んでいる僕は、ある冬の夜、甲高い鈴の音に似たノイズを聞いてしまい――。
youkoseki.com 会話税 四月の頭、ニュースで見た通りに郵便屋が荷物を届けに来た。 「マジかって感じですよね」と若い配達員は私のサインを待ちながら笑った。そう言う配達員には、もう首輪がつけられている。 適当な相槌を打ち荷物を受け取る。郵便屋は愛想の良いまま帰る。少し悩んでから箱を開ける。中にあるのはもちろんあの首輪だ。テレビで散々見せられた、いかつい首輪。装着すると会話の長さを音量や逐次計測する。そして会話税に換算される。 首輪の利用が正式にはじまるのは来月からだったが、受け取った国民は、ただちに利用を開始することが推奨されていた。起きているあいだはずっと装着し、寝る時には外して充電用アダプタに繋げる。そうすると一日のあいだでどれくらい話したかというデータが、国の傘下にある管理団体へ送信される。 首輪は自宅内では外しても良いが、外出中は必ず装着しなければならない。もし装着していな
桐野夏生の新作『日没』は、時代と激しく摩擦する一冊である。舞台はおそらく近未来の表現が「不自由」になってしまった日本、主人公は女性エンタメ作家、彼女が「総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会」(ブンリン)から召喚状を受け、携帯電話すら通じない作家収容所に入れられ“療養”が始まる……。 それだけを記すと、権力との対峙を描いた社会派小説だと思うかもしれない。しかし、この小説の真価は「対峙」にはない。全篇を通して鋭く問われるのは、誰が表現を不自由にしていくのか、誰が、綺麗で、正しく、美しい言葉だけが広がる社会を欲望しているのか、である。果たして、その答えは――。 現実が小説に追いついてきた 《最初に作家の収容所という構想を思いつきました。そこから収容所や全体主義を描いた小説を読んだり、資料を集めたりしていました。連載は2016年から始まりましたが、そのときから時代に追いつかれているかもしれないと思
更新日:2016/10/7 10月7日は「ミステリー記念日」です。 いまや小説の一ジャンルとして、年末には「このミステリーがすごい!」(宝島社)などでも盛り上がるミステリー小説に、記念日があったことをご存知でしたか? 実はあの推理小説家、エドガー・アラン・ポーが亡くなった日として制定されているんです。 果たしてこのエドガー・アラン・ポーとは何者なのか? 迫っていきたいと思います! 初代推理小説家!エドガー・アラン・ポー “世界初の推理小説”として名高い『モルグ街の殺人』や、暗号小説『黄金虫』などで知られるアメリカ人作家エドガー・アラン・ポー。 彼は、1849年10月7日に満40歳という若さで亡くなりました。死因は不明で、その死に至る状況にも謎が多いことから様々な説が取り沙汰されています。 ポーの作品の中でも屈指の知名度を誇る『モルグ街の殺人』は、1841年に発表された作品で、ポーが編集者を
[………………接続中………………] ……………………もしもし? こんにちは。 …………見えてます? 聞こえてますか? あぁ、大丈夫ですね………… リモートのインタビュー、3回目ですけど、慣れないですね………… はい、えぇ。今回で連載はいったん打ち止めということで。 いえいえ、致し方ないですよ。いろいろ大変な時代で、お忙しいでしょうし………… でもこんな時局でも、こういう話のニーズはあるんですね。不安な時代だからこそ、なんでしょうか………… 「一番怖かった心霊体験」でしたね。メールでいただいていた通りのテーマで。はい。 ぼく、メールをいただいてから何日か考えてみたんですけどね、やっぱり子供の頃の原体験というか、それが一番強烈だよなと思うんですよ。なにせ一番最初の恐怖体験、オバケとの遭遇なわけですから。どうしたってそれが一番鮮烈に頭に焼きつくんですよ。 ところがその肝心の、原初の心霊体験……ぼ
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