goo

『神曲』(読書メモ)

ダンテ(平川祐弘訳、ギュスターヴ・ドレ画)『神曲』河出書房新社

ギュスターヴ・ドレの挿絵がきれいなので買ってみた。

生きているダンテが、古代の詩人ヴェリギリウスを案内人として、「地獄、煉獄、天国」を巡る(想像上の)見聞録のようなものである。神曲というタイトルからして神々しい本かと思ったが、けっこうドロドロしていて人間くさかった。というのは、ダンテは、自分の嫌いな人物を地獄篇に、気に入った人物を天国篇に登場させたりしているからだ。

解説を見ると、もともとのタイトル「Commedia」は、本来「めでたく終わる作品」「喜劇」という意味であって、『神曲』という訳は森鴎外がつけたことで定着したらしい。これを読み、タイトルと内容のギャップに納得した。

本書の中で最も印象に残ったのは「煉獄篇」。

煉獄とは、地獄と天国の中間にあって、天国に行くために罪を洗い清めるところ(なお、煉獄はカトリック教会だけで認められている考え方)。煉獄では、高慢、嫉妬羨望、怠惰、貪欲、大食らい、好色といった罪を持った人達が、さまざまな懲罰を受けている。

例えば、貪欲の罪を持った人々は、地面にうつぶせになって泣いている。煉獄に落とされたある元ローマ法王は、次のように反省する。

「私らの目は生前、地上のものに吸いつけられ、天を仰ごうとしなかったから、それで[神の]正義がここで私らの目を地面に押しつける。善にたいするあらゆる愛を貪欲が消し、そのために私らの行為は無に帰したが、そのために[神の]正義がここで私らの手足を縛りつけ、わたしらをしっかりと取り抑えている。そして正義の主が思召すかぎり、私らは身じろぎもせず地に平たく伏せているのだ」(p.348)

実際にこのような世界があるかどうかわからないが、「今の自分の生き方」を振り返る上で有益な本である、と感じた。



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )