司法修習生給費、続ける?やめる?…貸与化目前(読売新聞)
司法修習生に国が給与を支給する「給費制」から、国が生活資金を貸す「貸与制」に移行するまであと10日余りという“土壇場”に来て、給費制を維持するため、議員立法で裁判所法を改正しようとする動きが強まっている。
国会で審議をしないスピード可決を目指す動きだが、なし崩し的な給費制維持には「司法制度改革の流れに反する」との批判も強い。
(中略)
全会一致には自民党の協力が不可欠だ。同党は10月20日に予定する法務部会で方針を決めるとみられる。5日の部会には、宇都宮会長が出席し、「国が給与を払うからこそ、弁護士が公に奉仕しようとする気になる」と給費制の意義を訴えた。平沢勝栄部会長は「裕福な人にも一律に給与を払うのは国民の理解が得られない」と疑問を示したが、日弁連の組織を挙げた要請に同調する議員も増えつつあるという。
ただ、こうした動きには異論も強い。最高裁によると、新制度の対象となる今年の新司法試験合格者2074人のうち、生活資金貸与を申請したのは79%の1648人。ある最高裁幹部は約2割が申請しなかったことについて、「経済的にゆとりがある人も少なくないのに、十分な議論がないまま全員に国民の税金から給料を支払っても良いのだろうか」と疑問を投げかける。
現在、司法修習中の男性(27)は「法科大学院の学費などで数百万円の借金を抱えている人もいる」と日弁連の主張に理解を示しつつも、「財政事情を考えるなら、過疎地で弁護士として働くなど公益的な活動をした人に返済を免除することも検討したらどうか」と提案する。
給費制の維持を、法曹人口拡大などを目指す改革への逆行と見る関係者も多い。
早稲田大総長に就任する鎌田薫・法科大学院協会副理事長(62)は「改革の流れに沿って、志願者や合格者を増やす努力をしなければならないのに、給費制を維持すれば予算の制約上、合格者を減らすことになるのではないか」と懸念する。第二東京弁護士会の元会長で、企業法務に精通する久保利英明弁護士(66)も「法曹人口の拡大を減速させる給費制維持より、企業や自治体で働く弁護士を増やすことをまず考えるべきだ」と指摘している。
現行の制度では法曹資格を得るためには司法試験合格後、ここで言及されている「司法修習生」として1年間の実習を受ける必要があります。この期間、アルバイトなどの副業は禁止されており、従来の制度では代わりに月額20万円ほどの給与が国から支給されていました。しかるに制度改正によって11月からは支給ではなく「貸与」となることが決まっています。司法試験に受かるまでが結構な長い道のりになるのが一般的と思われる中、そこからさらに1年間、強制的に無給の期間が設けられてしまうわけで、元から裕福な人でもなければ法曹資格を得る頃には借金漬けになってしまうことが予想されます。それだけに日弁連は前々から給費制の維持を訴えてきたのですが、それに対する反応はどうでしょうか。
肝心の与党筋はといいますと、まさしくこの「土壇場」になって法改正に動き出したようです。貸与制度は来月からスタートするだけに、いくら何でも動きだしが遅すぎるとしか言いようがありません。よもや「(民主党は)制度改正を止めようとしたけれど、間に合わなかった」とアリバイ作りだけして済ませようという腹ではと勘ぐりたくなってきます。どうも野党、特に自民党筋に反対が多くて給付制維持のための法案が通るかどうかは微妙なところだとか。う~ん、こうした問題が発生することはずっと前から報道されていましたし、日弁連だって前もって要望を伝えてきたわけです。政権与党が衆参両院で過半数を占めていたうちに、さっさと給付制維持で法改正しておけば何の問題もなかったはずです。それなのに制度変更ギリギリのタイミングまで動き出さなかったのは完全に手落ちでしょう。本音では貸与制に切り替えたい、しかし自党が日弁連などからの批判の矢面に立つことは避けたい、だから代わりに自民党が反対してくれる、自民党が法案成立を阻止してくれるタイミングを計っていた、そんな気すらしてきます。なにしろ夫婦別姓法案に関して「これまでは野党だから(否決前提に)提出できた」なんて漏らしたとされる党です(参考)。否決前提に給付制維持の法案を出して、日弁連に義理立てしてハイおしまい、なんてシナリオを思い描いているとしても不思議ではありません。
大事なのは何よりも与党の本気度の方ですが、自民党サイドの言い分も酷いものです。「裕福な人にも一律に給与を払うのは国民の理解が得られない」なんてコメントも出ていますが、税の累進制を一方的に緩和し続けてきた党の議員がこれを語っているのですから笑止千万と言うほかありません。それに名古屋辺りの例を見れば「裕福な人にも一律に減税する」政策で有権者から絶大な支持を集めてもいるわけです。裕福な人を優遇する類の政策は、十二分に国民の理解を得られていると思いますけれどねぇ。
また「ある最高幹部」は「約2割が申請しなかったことについて、『経済的にゆとりがある人も少なくないのに、十分な議論がないまま全員に国民の税金から給料を支払っても良いのだろうか』と疑問を投げかける」とのこと。いやいや、申請しなかった2割ではなく、申請した残りの8割の方が問題なのですが、何とも露骨な問題のすり替えです。必要としていない人は2割しかいない、8割の人間が必要としているのに給付を不必要と判断するとしたら、それはもう算数すらできないバカと言われても仕方がないでしょう。ましてや申請しなかった2割の中には、保証人を用意できずに申請「できなかった」人もいると聞きますが……
さらに早稲田大総長に就任するという鎌田薫氏は「給費制を維持すれば予算の制約上、合格者を減らすことになるのではないか」などと言っています。この人、司法試験の合否がどういう基準で判断されているかご存じないのでしょうか? そりゃ早稲田大学の入学試験なら定員という形で合格者数にも制約があらかじめ設けられるのでしょうけれど、司法試験は違うわけです。絶対評価で一定以上の点を取れば合格できるものであって、「今年の合格者は○○人まで」みたいに決められているものではありません。合格者が増えるか減るかは受験者次第なのですが、そんなこともわかっていないようです。あるいは企業法務に精通するという触れ込みの久保利英明氏は「法曹人口の拡大を減速させる給費制維持」なんて自明の真理のごとく語っていますけれど、逆に給費が絶たれることで経済的理由から法曹への道を諦める人の存在は念頭にないのでしょうか。これが経済誌だったら、根拠のないハッタリでも自信満々に言い切ってしまえば済まされるのかも知れませんが、こういう場面ではせめて法曹志望者の生活事情にも考えを巡らして欲しいものです。
←応援よろしくお願いします