日本の宗教はと問われれば、概ね仏教もしくは無宗教との回答が多数を占めると思います。日本人の自画像としては、そういうものなのかも知れません。そしてイスラムやカトリックの原理主義者がテロ行為に及んだりするのを対岸に見て、彼らと違って宗教的に寛容な日本では、そういうことは起こらないのだと自画自賛している日本人も多いのではないでしょうか。でも本当にそうなのかな、とも。
ムハンマドを笑いのネタにでもすれば、イスラム過激派が黙ってはいないわけです。では、日本においてはどうなのでしょう。日本において「○○を冒涜したら○○が黙っていない」ものとは? そこから日本の「宗教」が見えてくるように思います。ここで最も当てはまりやすいのは国旗や国歌が象徴する国家であり、天皇である、それを笑いのネタにすれば右翼が威嚇してくる、時には刃傷沙汰に発展したこともあったはずです。仏教のように単に習俗として残るのみで信仰が形骸化している代物よりも遙かに日本の宗教として根付いているのは、今も昔も一貫して国家神道なのではないでしょうか。
で、この国家神道の聖地と言うべき靖国神社へ参拝するという小泉以来の愚挙に、現首相である安倍が踏み切ったわけですが……
安倍首相靖国参拝:野党は猛反発(毎日新聞)
安倍晋三首相の靖国神社参拝は、与野党にも波紋を広げた。
自民党の石破茂幹事長は26日午前、党本部で記者団に「平和を願い、国のために殉じた御霊(みたま)に哀悼の意を表する思いで参拝を決意された」と説明。「真意を分かってもらえれば外交問題に発展することを避けるのは十分可能だ。中国、韓国にも冷静な対応を期待したい」と述べた。首相からは同日朝、電話で参拝の意向を伝えられたという。
(中略)
日本維新の会の松野頼久・国会議員団幹事長は「国のために命を落とされた先人に哀悼の意を表されたことは評価する」としたうえで「国会での特定秘密保護法や国連平和維持活動での(韓国軍への)弾薬提供など安全保障問題と絡んだ時期に参拝したのは、少しタイミングを考えるべきではなかったか」と疑問を呈した。みんなの党の渡辺喜美代表は「個人の信仰の問題であり、とやかく言うことはない」とのコメントを発表した。
この毎日の報道では「野党は猛反発」と見出しに掲げられています。しかし、維新やみんなと言った極右政党から出されたコメントを見るに「猛反発」が実在しているのか大いに首を傾げるところです。最大野党の民主党にしたところで靖国に参拝していた議員は少なくありません。あたかも与党の対抗馬であるかのような虚像が作り上げられがちな民主党ですけれど、デフレ継続か不況脱出かという点を除けば自民党と決して大きな違いはないはず、本当に野党が猛反発しているのか、反発している議員は意外に少数派なのではないかと、そんな疑問も頭に浮かびます。
公明党は靖国参拝に反対していたと代表が公に発言しているものの、結局のところ歯止めになっていない辺りに限界を感じさせるのはいつものことでしょうか。いつもは日本経済を崩壊させるようなことばかり主張している財界筋も、この件に関しては概ね妥当な見解を述べているところですが、まぁ「無能な怠け者と無能な働き者」と言いますか、往々にして本人の思い入れの深い分野でこそ間違った方向に力を入れてしまうもののようです。外交に関しては現実を見る目のある財界人も経済に関しては狂気としか言い様がないように、経済に関しては久々に真っ当なところのある安倍晋三も、やはり自身が本当に関心のある分野では、現実を見るよりも己の脳内設定にしがみつく方を優先してしまうのでしょう。
安倍のコメントも大差ないのですが、冒頭に引用した石破の説明(自称)からも、まぁ「いかに分かっていないか」が伝わってきます。政府の幹部の認識がこんなものなのですから、諸外国から理解が得られないのも当たり前、日本とは縁が少ない故に問題の本質を知らない国からならともかく、事情を分かっている隣国から許容されることは、とうてい考えられませんね。外国に説明して誤解を解いていく云々などと政府筋は述べているようですが、誤解しているのは安倍や石破の方であって、説明を受けるべきは日本の方でしょう。
国内レベルで見てもどうなのかも問われるべきところです。現代に置き換えて見ると、「英霊」とは過労死など会社によって死に追い込まれた人もまた該当するでしょうか。「国のため」という旗印の下わざわざ国外まで出征させられて、挙げ句に待っているのは餓死や病死だったりする、そうして「日本のために尊い命を犠牲にされた~」などと祭り上げられた人もいるわけです。会社から無茶な職務やノルマを押しつけられて、過労や鬱病で身心を害して自殺してしまう人も少なくない昨今ですが、これを「我が社のために尊い命を犠牲にされた英霊」などとして顕彰する制度を作っている会社があったら、どう思いますか? ワタミ神社で、ワタミに殺された人が「英霊」として勝手に(そして死に追いやった側の人間まで一緒にして)奉られていたらどうなのでしょう。
戦没者は決してやむにやまれぬ犠牲などではなく、自国の愚かさのために不必要な犠牲を強いてられた被害者でもある、にも関わらずその犠牲者に謝罪するのではなく、被害を「貴い犠牲」へとすり替え、賛美してきた、犠牲を強いることを正当化してきたのが靖国というものです。そのことへの反省と自覚が安倍や石破には微塵も見られません。結局のところ、「何も反省していません、悪いとは思っていません、何が問題なのかすら分かっていません」というメッセージを国内と国外の双方に向けて発信しているわけです。戦犯の合祀や日本が侵略した先の国への配慮と言った問題を取り除いてもなお問われるべきものは残ります。
←ノーモア・コイズミ!
靖国参拝「失望している」…在日米大使館が声明(読売新聞)
在日米大使館は26日、安倍首相の靖国神社参拝について「日本は大切な同盟国だが、日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに米国政府は失望している」と批判する声明を発表した。
米政府が、日本の首相の靖国神社参拝を批判する声明を出したのは極めて異例で、日本政府関係者は「過去に同様な声明があった記憶はない」と語った。
英紙「中韓の激憤買った」…欧州メディアも速報(読売新聞)
【ロンドン=佐藤昌宏】欧州各メディアも26日、安倍首相の靖国神社参拝を東京発などで速報した。
英紙ガーディアン(電子版)は、「26日の参拝は中国や韓国の激憤を買った。参拝は、日本と近隣国との関係をさらに悪化させるだろう」とした。
英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は、「皮肉にも、第1次安倍政権時に参拝しなかったことで(近隣国との)関係改善を果たしたのが安倍氏だった」と指摘。その上で、「今回の参拝は、日本が統治する尖閣諸島を巡り、(中国との関係が)行き詰まっている中で、関係をさらに悪化させることになった」と強調した。
【パリ=三井美奈】安倍首相の靖国神社参拝について、仏紙ル・モンド(電子版)は26日、「日本と中韓両国の関係は(尖閣諸島や竹島の)領土をめぐる係争ですでに最低水準にあるが、さらに悪化することになる」と評した。その上で、靖国神社は、過去の日本の帝国主義と関連付けられていると紹介した。
首相靖国参拝は「日本のオウンゴール」(日刊スポーツ)
安倍晋三首相の靖国神社参拝について、有力紙オーストラリアンは28日付の社説で「国際関係における日本のオウンゴール」との表現を使って国益を害する行為だったと指摘、東アジアの緊張が高まっている中で「参拝は有益ではなかった」と批判した。
オーストラリアの保守連合政権は日本を「アジアの最良の友」(アボット首相)と位置づけ、中国による防空識別圏設定問題でも、再三にわたって中国側に懸念を表明している。
しかし同紙は、安倍首相による靖国参拝は、日本の軍国主義を口実に軍拡を進める中国を利するだけだとした上で「(沖縄県・尖閣諸島をめぐる日中対立で)危険を冒して安倍首相を支えてきたオーストラリアなどの同盟・友好国にとって事態をより困難にした」と述べ、自制を求めた。(共同)