自ら考えて選んでいくことの尊さ、気力を──FINLANDS、1年ぶり新作「まどか / HEAT」
昨年3月にコシミズカヨ(Ba)が脱退するも、大型野外フェスへの出演や、恵比寿 LIQUIDROOMでのワンマン・ライヴを開催しソールドアウトするなど、止まることなく精力的に活動を進めてきたFINLANDS。そんな彼女たちから1年ぶりのリリースとなる初の配信シングル「まどか / HEAT」が到着。2曲のシングルではありながらも、これまでの作品通りしっかりとコンセプトも伺える今作。リリースから2週間経ったいま、改めて塩入冬湖(Vo.Gt)に話を伺った。このタイミングで過去作『ULTRA』、『JET』、『PAPER』のロスレス配信もスタートしたのでこちらも要チェックです。
約1年ぶりの新作はデジタル・シングル
INTERVIEW : FINLANDS
新型コロナウイルスの影響で、多くの活動が制限され僕たちの生活に大きな変化をもたらすことになった。ライヴに行ったり、おいしいものを食べに行ったり、美術館に行ったり…… そういった当たり前の日常がいまなくなりかけている。こういう状況になってはじめて僕は“当たり前”の日常の尊さを感じた。と、同時にこういった日常がなくなってしまうことの怖さ、不安感や孤独感をひしひしと感じることになった。
そんなタイミングでリリースされたFINLANDS、1年ぶりの新作「まどか / HEAT」は、もともとは京都アニメーション放火殺人事件をきっかけに制作された曲だというが、ある意味でとても大きな力を持つ作品となった。僕はこの日常を手放したくない。だからこそこの曲を聴きながら、自ら考え、選択していくのだ。目に見えない敵と戦う不安感がとても漂ういまこそ、彼女に話を聞きたいと思い、取材を申し込んだ。
インタヴュー&文 : 鈴木雄希
「当たり前」をありがたがって、願わないといけない世界ってすごく嫌
──ライヴも延期や中止になっているかと思いますが、最近はどうやって過ごしていますか?
最近はずっと自宅で制作活動をしています。あと、このご時世で配信が多くなっているので、私も配信をしてみようと、機材を揃えたり、配信の練習をしたりしています。いままでやったことなかったことをしていますね。
──そういう意味でも大きな変化がありますよね。
そうですね、みんな変わらざるを得ない状況ですよね。
──そんな中で、3月末にリリースされた“まどか”で歌っていることは、いまの情勢にぴったりとハマる楽曲になったと思うのですが、この曲が生まれた背景を教えていただけますか?
題材になったわけではないんですが、この曲の歌詞や思想についてのきっかけとなったのは京都アニメーションの事件だったりして。あの事件をきっかけに、「もし自分が突然なにか奪われたときに私はなにができるんだろう」ということを考えるきっかけになったんです。京都アニメーションの事件(京都アニメーション放火殺人事件)以外にも、海外の女の子のメイク動画にも大きく影響を受けていて。
──メイク動画ですか?
私はインスタグラムでメイク動画をよく見るんですけど、その中で海外の女の子のメイク動画で印象的なものがあって。一見、すごくきれいでカラフルな動画なんですけど、その映像の中にはぐちゃぐちゃになった街とかプラカードの写真が映っていて。そのプラカードには「この街から紛争がなくなりますように」という内容が書いてあったんです。普通に生きていられたり好きなことができたりする日常に感謝しないといけないことや、世界の中で戦争が起こっていることもわかってはいた。だけどその映像や言葉を見て、そんな「当たり前」をありがたがって、願わないといけない世界ってすごく嫌だなと思って。そういうことから作った曲ですね。当たり前であることにさえ感謝するような日常を、我々は持ってはいけないと思うんですよね。
──“まどか”はいつ頃できた曲だったんですか?
はじめてライヴで演奏をしたのが昨年の11月のツアー・ファイナルだったので、9月ごろに作っていましたね。
──いま世界ではそれこそ当たり前の生活を願うような状況を強いられていますが、制作段階ではこのような状況を想定していなかったですよね。
まったく思っていなかったですね。そういう日常がきてしまったら嫌だとすごく思って作った曲だったけど、ウイルスの蔓延で命が脅かされることは想像だにしなかった。状況が違えど、そういう環境がこんなに早く訪れるとは思っていなかったです。だからこの曲には深い意味がついてしまったようで、ちょっと複雑な気持ちではありますね。
──深い意味というのは悪い意味で?
いい意味でも悪い意味でもありますね。自分で言うのもナンですけど、この状況にめちゃくちゃぴったりハマってしまったなと。悪い意味でいうと、自分の中では狙ったわけではないのに、狙ったようなタイミングになってしまった歯がゆさもありますね。いい意味でいうと、音楽でこの状況が一変することがないかもしれないけど、すごく正直に言うと、この曲を聴いた人が、1分でも、1時間でも、1日でも、ちょっといい気持ちになって、ちょっとでも救われてくれたなら、この曲はすごく力を持つ曲になったんだなと。リリースした後にいろいろとコメントをいただいて思いました。
自分で考えて選んでいくことで守れるものって絶対に増えてくる
──ご自身の中でもこの曲の意味という部分で変化はあったのでしょうか?
今回のリリースについて話し合っている最中はこんな状況ではなくて。MVを撮影して、この曲をリリースしたくらいから、我々がいま置かれているような状況になったんですね。リリースするまでこの曲は「2019年に私が思ったことの記録としてこの曲が残っていればいいな」と思っていたんです。だけど、いまは歌詞にもあるように、「与えられたものを飲み込むだけではなくて、ちょっとでもいいから考えて選んでいくことの尊さ、気力だけは持っていてほしいな」と、この曲を聴いてくれた人に願わざるを得ない。そういう心情の変化がありました。
──リスナーに対して考えることの重要性を感じ取ってほしいということですよね。“当たり前”の生活がなくなってしまうとなったときに、塩入さん的にはどういうしていきたいと感じていますか?
これが答えと言えるかはわからないんですけど……。いまって情報がすごく多いし、語弊を恐れずにいうならば、TVやインターネットは誘導性が強いものだなと思うんですよね。民衆を怒りに導きたいのか、感動に導きたいのか、それとも笑いに導きたいのか、記事やTVで出た時点でその誘導ははじまっているなと思うことがすごく多いと感じていて。SNSとかがすごく発達してきたからこそ、そういうことを感じるんだと思うんですけど。
でもやっぱりその中にも「違うな」と思うことはいっぱいあるんですよ。「これは怒るようなことではぜんぜんない」とか「そんなに悲しむことでもないな」、「そんな作り込んだ感動では感動できないな」とか。与えられたものに対して受け入れるだけではなくて、まずは自分で考えて、怒るなり、悲しむなり、なにを選ぶか考えていかないといけない。それを無下にしている感じは結構あるんじゃないかなと思うんですよね。いろんなことに惑わずに、小さいところでいうと喜怒哀楽とかそういうものを自分で考えて選んでいくことで、守れるものって絶対に増えてくると思うんですよ。
──考えることの重要性って、いまの状況だと特に感じますよね。
SNSのイイねとか、バズる / バズらないとかで、群集心理がすごく左右されている感じってめちゃくちゃあると思うんですよね。それがいいのか、悪いのかはわからないですけど、やっぱりそれを受け入れるか受け入れないか、自分で選ぶことが大事ですよね。
──“HEAT”についても聞かせていただきたいのですが、これも“まどか”と同時期に制作されたのでしょうか?
そうですね。
──この曲はどういった心境で作られたのでしょうか?
まず、“まどか”と“HEAT”をなぜ同じシングルにしたのかお話しさせていだいてもいいですか。この2曲は曲調も題材もぜんぜん違うんですけど、今回のシングルの象徴として「人と人の温度感」みたいなものがあって。
──人と人の温度感。
恋愛に関して、一緒にいればいるほど自分の存在価値が上がることももちろんあるんですけど、逆に、一緒にいればいるほど自分の存在価値がなくなっていくことがすごくあって。どれだけ毎晩一緒に肌を寄せ合って体温を揃えることができても、心の中はぜんぜん一緒にならないんだなと。なんか“悲しい”を通り越して“不思議”だと思ったんですよね。時代が進んでこんだけハイテクな世の中になっているのに、恋愛のハイテクさってぜんぜん変わらないですよね。
──たしかにそうですね(笑)。
インスタグラムのストーリーズにある「質問」ってあるじゃないですか。そこで「最近どうですか?」って投稿をしたんです。そうしたら「付き合ったばかりなのに、コロナで恋人に会えない」とか「いまいい感じの人がいたのに、会えなくなってしまって恋がうまくいかないかも」みたいなメッセージが届いて。コロナって恋愛にも弊害をもたらしているんだと深々と知って。一緒にいて、直接確認しないと進められない愛とか、直接会うことで退化していく愛ってすごくあると思って。そういうところで“HEAT”は、人間の温度と温度ってすごくおもしろくて不思議だなと思って作りはじめた曲で。だけどめちゃめちゃ暗い曲になってしまいました(笑)。
「孤独です。だからなに?」
──前作『UTOPIA』のテーマとして「壮大な孤独」があったと思うんですけど、今回のシングルは孤独というよりも、「共存」がテーマとしてあるのかなと。
シンプルに“まどか”という曲は、家族のことをすごく考えながら作ったんですよね。題材は違えど、「あなた」という言葉にいちばん直面するのが、私にとっては母親や祖母とか、すごく近い家族のことだった。ちょっと話が逸れてしまうかもしれないのですが、個人的に、恋愛をしているとき、私はすごく愛されて育ったんだなって感じるんです。恋人とかに傷つけられたときに、「なんでこんなヤツに傷つけられないといけないんだ」って思った経験がすごくあって。恋愛だけじゃなくても、生きていればいろんなところで傷つくことがあると思うんですね。
でも大半の人は親や兄弟、家族以外にもいろんな人に愛されていると思うから、なにかで傷つけられて孤独を感じたところで、そんなに簡単に傷つけられていいものではないし、芯の部分でそこまで壊れることもないなって確信があることに気づいて。だから「あなたが認めたのわたしを / 壊れたりしないさ」という歌詞があるんですけど。『UTOPIA』では「壮大な孤独」を歌っていたけど、いまはその感覚をひとつ超越して、「孤独です。だからなに?」みたいな感じになっている。孤独だけど、考えたり、なにかを選んだり、大切な人を守ったりすることもできるし、だから大丈夫なんだ、とひとつ乗り越えた感じはあるかもしれないですね。
──そういう感覚の変化が、歌われることにも影響しているんですね。
そうですね。昨年の私の一大変化の果てにその感覚があったのかもしれないですね。
──2019年は塩入さんにとって変化の年だったんですか?
昨年は新しくなにかを発見しにいくとか、なにか衝撃を受けに遠くに行こうとか、誰かと会って会話をしようとか、自分の中になにかを取り入れることが嫌だと感じていたんです。自分がずっと思っていたことに対して「本当にそれでいいのか?」って考えたかった。本当に小さいことで言えば、私は小さい頃から祖母に「高野豆腐が好きでしょ」って言われ続けていたんです。でも、大人になってみたら、別にそんなに好きじゃないな、むしろ年に1回も食べないなって思って(笑)。
──(笑)。
そうやってすり込まれて好きだと思っていたものとか信じていたものとかって、ちゃんと考えてみると「別に」ってことはすごくあると思うんですよね。昨年はそういうことを一から全部洗いざらい考えるという時期があって。そのなかで恋愛に関しても、家族に関しても、孤独に関しても、すごくフラットに考える時間を与えてもらっていたんです。その試行錯誤の果てが「孤独でも大丈夫だよ」という感覚でしたね。
──めちゃめちゃ強くなったというか、無敵状態な感じですね。
あははは! そうですね…… このままいくと無敵状態ですね(笑)。
──いままでの認識について考えるきっかけってなにかあったのでしょうか。
ちょうど1年前に『UTOPIA』をリリースをして、秋にDVD(『”BI TOUR”〜16th October, 2018 at Shibuya CLUB QUATTRO〜』)を発売してツアーをしたんです。そのツアーというのが、FINLANDSの結成当初からの曲を全部みなさんにお届けしようというコンセプトのもとやっていたツアーで。それもあって昔のことをたどっていく時間が多かったので、自ずと自分自身のことも一から見直すことになりましたね。
気力で負けたらおしまい
──変化の部分でいうと、昨年コシミズカヨ(Ba)さんが脱退されましたが、そういう部分も作品に影響する感じはありそうですか?
うーん、どうでしょうね……。当初は、彼女が新しい人生を歩んでいくことに対して、こんなに近くにいる人でも私と同じような未来を望んでいるわけじゃないんだということをすごく感じて。そうなったときに、すごく大切な人が新しく追い求めている未来をきちんと受け入れて、敬意を持って送り出してあげなきゃいけないと思ったんです。そういう感覚を29歳にして知って、「大発見だ」と。ただ、FINLANDS自身の変化でいうと、新しいFINLANDSをどうやって作っていくかをすごく考えてがむしゃらにやっていたので、制作のことはあんまり考えていなかったですね。
──なるほど。
でもいま制作期間になって、私が作りたいものに対してサポート・メンバーがいろんなアプローチを与えてくれていて。だから私が意気込んで、自ら変化しなくてもいいなぁという安心はすごく生まれていますね。
──今回のシングルのリリース時に、アルバムのリリースも発表されましたね。
そうなんです。いま作っているところです。めちゃめちゃ頑張って作っているんですけど、コロナの影響で、スタジオも入れないし、レコーディングさえもできない状況になってしまっていて発売が延期になりまして。でも我々もひとつも妥協をしないで、深く頷けるものを作ってお届けしようと思っているので楽しみにしていてほしいですね。
──このシングルの空気感を持ちつつ、いつも通りコンセプチュアルなものになる予定でしょうか?
そうですね、コンセプチュアルなものになると思います。2019年と2020年の2年分の我々の記録としての側面もあると思うんです。自分でもバンド単位でも、この2年間でサウンドの感じ方が変わったなと思うんですね。「誰かの音を生かそう」という気持ちだったり、自分が明確に持っているサウンドの希望をみんなで共有し合う感じとかがあって、サウンドの面で変わっていく部分がすごくあると思います。
あと私の内面的な変化もあって。結婚して、子供を産んで母親になって…… みたいな人生を今後経験していく中で、一生恋愛について歌っていくワケないなとはもともとずっと思っていて。なにか大きな変化があったワケではないんですけど、ちょっと早くその時期が訪れたんじゃないかなと思っていて。“まどか”もそうですが、恋愛だけじゃないものをきちんと歌っていきたいなと素直に思えるようになってきていて。そこも変化の部分としてアルバムのコンセプトに練りこまれることになると思います。意気込んだ変化というよりも、自然な変化が感じてもらえるような作品になるのではないかなと。個人的にすっごくいいアルバムです。
──アルバムも楽しみです。先ほどスタジオにも入れないというお話もありましたが、音楽をはじめ、現在のカルチャー全般の状況を塩入さんはどう感じていますか?
未曾有の事態が起きたときに、最初にアートやエンタメ、音楽が煽りを受けるというのはみんな百も承知だと思うんです。自分の状況的にそうなのかもしれないけど、こういう風に虐げられていることに対して怒りとかはなくて。いまの場合で考えると、音楽にはウイルスを防ぐような命を助ける効力はないけど、アートや音楽って、命を補助する役割って絶対にあると思うんです。すごく辛かったときに少し気持ちを楽にしてくれる娯楽って、人生をどう進めていくかの指針を担うことになる場合もあって。だからアートや音楽のようなものが不必要だということは絶対にないと思う。
いま音楽をやっている人やライヴハウスに来てくれる人、音楽を好きでいてくれる人は、きっとそれをわかっていると思うんです。やっぱり気力を失わずに、状況が落ち着いたときにどういう形で音楽をやっていけるか、考えていきたいなと思います。やっぱり気力で負けたらおしまいだなと思うので、押しつぶされないように、家でできることをとにかく考えたいなと思います。
編集 : 鈴木雄希
編集補助 : 千田祥子
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PROFILE
FINLANDS
塩入冬湖(Vo.Gt)とコシミズカヨ(Ba.Cho)の二人で2013年に結成。
「RO69JACK」での入賞経験を持ち、全国各地で話題のフェスやイベント、大型サーキット・フェスにも多数出演。2017、2018年に出演したサーキット・フェスでは全会場入場規制となる。
2015年に『ULTRA』『JET』と2枚のミニ・アルバム、2016年にはフル・アルバム『PAPER』をリリース。『JET』に収録の“さよならプロペラ”は北海道日本ハムファイターズのテレビCMに起用されるなど、ポピュラリティも併せ持つ。2017年ミニ・アルバム『LOVE』、2018年フル・アルバム『BI』とコンスタントに作品をリリースし、オリコン上位に食い込む。『BI』リリース・ツアーのワンマン・ライヴにおいて、渋谷クラブクアトロをはじめ、追加公演含めすべてソールドアウトさせた。
2019年3月には初のEP『UTOPIA』をリリース。そのリリース・ツアー・ファイナルでもあった4月10日渋谷クラブクアトロのステージを最後にコシミズが脱退。以後、ベースにサポート・メンバーを迎えてライヴ活動を行っている。
【公式HP】
http://finlands.pepper.jp/index.html
【塩入冬湖オフィシャルサイト】
http://finlands.pepper.jp/fuyuko/
【FINLANDS Twitter】
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【塩入冬湖 Twitter】
https://twitter.com/fuyukofinlands