ただ、自立していたい──励ましもせず、突き放しもしないステレオガールのアティテュード
オルタナティブ・ロック・バンド、ステレオガールのセカンド・フル・アルバム『Spirit & Opportunity』がリリース。双子の火星探査機からタイトルが名付けられた本作には、現在地からずっと離れた場所への好奇心がパッケージされているという。それは決して現実からの逃避ではなく、見たことがない世界への探究心やステレオガールが常に持っている向上心の現れである。そんな煌めきがパッケージされた新作について探りつつ、「女の子なのに」といった偏見やマイノリティに対する考え、また敬愛するバンド、ザ・スミスとステレオガールの共通項についても語ってもらった。
最新作はこちら
INTERVIEW : ステレオガール
数年前、はじめてステレオガールのライヴを観たときに僕が彼女たちに抱いた印象は「黒い」だった。「黒い」といっても、それはブラック・ミュージックの「黒さ」ではなく、ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのダークさのようなもの。「衣装が黒かったから」という単純な理由だったのかもしれないが、しかしながら、その数年後に彼女たちがリリースしたアルバム『Pink Fog』のジャケットが『Loaded』のオマージュだったことにはとても納得した。はじめてライヴを観たあとから音源も聴きはじめて、好きだったのは「ひとごろし」という曲だった。この曲で、ボーカルの毛利は「ぼくはひとごろし」と繰り返し歌う。この歌を聴いて、このバンドは「ぼく」という主語を決して安易に扱ってはいないのだと思った。裁かれてはいけない、それゆえに永遠に解決することのない、「ぼく」の心の話。そんなステレオガールの新たなアルバム『Spirit & Opportunity』がリリースされるというので、5人に取材を行った。ひとりに話を聞いていたら他の4人が勝手にお喋りをはじめるようなワチャワチャとした取材現場だったが、彼女たちは自分たちが何者であるか、とても明晰に語ってくれたような気がしている。
インタヴュー・文 : 天野史彬
写真 : 友野雄
バンドって、その人がいちばんいいと思っている世界観を披露する場所
──人はそれぞれ家庭や職場や学校や、いろんな関係性のなかで生きていると思うんですけど、バンドというのもまた、ひとつのコミュニティなのかなと思うんです。ステレオガールというバンドは、皆さんの生活や日常にとってどのような場所ですか?
吉田(Gt) : 私にとっては、すごく大事な友達ですね。スタジオに行ったり、レコーディングに行ったりするのも大事な友達に会いに行く感じで。そもそも友達が少ないので(笑)、この4人の友達に会いに行くのがすごく大事な時間です。替えが効かないものですね。
立崎(Dr) : バンドは、楽しいアトラクションみたいな(笑)。例えば、ライヴをしていると照明が当たるじゃないですか。あの照明をパンッと受けて、頭がパンっと飛ぶのがすっごい好きなんですよ。
一同 : (爆笑)。
立崎 : その感覚がジェットコースターに似ていて(笑)、すごく好きです。遊園地的な楽しさですね、バンドは。
──でも、似てはいても、その「パンッ」は遊園地ではダメなんですよね?
立崎 : そうですね、いまのところ生きている中では、バンドでしか味わえていないです。
──Chamicotさんはどうですか?
Chamicot(Gt) : 見ての通り、話の合う人たちが集まっているので、一緒にいて楽しいです。特別な感じではないんですけどね、私にとっては。ただ、週2くらいのペースで練習して、みんなと会う。これがないと自分のメンタルのバランスが崩れるんじゃないかとは思います。
──Chamicotさんは多くの曲で作詞作曲を担当されてきていますが、曲を作るのはどういうことなんですか?
Chamicot : 人間って、ストレスを受けるとどんどんダメになっていくじゃないですか。そのストレスを、怒ったり、暴力で発散する人もいれば、芸術で発散する人もいる。私がやっていることも、そういうことだと思うんですよね。怒りを全部アートにぶつけているわけではないけど、人間の生理的な反応として、日常であったことを自分の中で消化しようとしたときに、作曲という手段があった。そういうことだと思います。だから、バンドを特別なものだと思わないんですよね。ご飯食べたりするようなことと並んでいる感覚です。
大塚(Ba) : いま、宇佐美(Chamicot)が言っていたみたいに、生活していくなかに組み込まれているものなので、僕にとってもバンドは特別な場所という感じではないです。当たり前だと思っちゃいけないけど、生活の中の当たり前ものになっていて。でも、ライヴをして曲を作って、音源をリリースしたりすると、自分にとってバンドの存在はちょっと変わってきて、もっと壮大なものになっていくんですよ。自分たちだけど自分たちではない、強大ななにか、みたいな……そこに置いてかれないように、食らいついていく感じはあります。
──毛利さんにとってはどうですか?
毛利(Vo) : バンドメンバーでも、知り合いのバンドでも、ライヴハウスのスタッフさんでもお客さんでも、ライヴで会う人たちはみんなそうなんですけど、私は、そこにいる人たちが「音楽やアートが好き」ということで繋がるだけで対等に話し合えることが、すごく貴重なことだと思っていて。極論、なくても死なないのに、「なくても死なない」ものを好きでいることを選んだ人たちと話す……それは、自分にとってすごくおもしろいことです。バンドはそういう「学び」の場であり、みんなが自分のことを表現し合っているおもしろい場所だと思います。
──「対等に話せる」というのは、普段の生活のなかでは「対等じゃなさ」を感じることも多いということですよね。
毛利 : そう感じること、ありますよね? 私はすごくあって。対等になる前に会話もできないことが多いなって思います。最近は特に、人と会えないし、SNSとかだとすぐに相手のマウントを取りにいって、「どっちが正しいことを言っているか?」の応酬になっちゃって話し合いにならないこともあるし。でも、バンドって、その人がいちばんいいと思っている世界観を披露する場所だから。大仰な言い方かもしれないけど、ライフスタイルとか、その人の哲学の応酬がフラットに行われる。そこが楽しいなと思います。
──新作アルバムのタイトルの『Spirit & Opportunity』は、恐らく火星探査機の名前から来ていますよね。
毛利 : そうです、そうです。曲が10曲くらい出揃ったところで、宇宙を連想させる曲が多いなと感じて。それで、宇宙にちなんだ名前にしようと思ったときに、「Spirit & Opportunity」という双子の火星探査機の名前に行き当たって。直訳すれば「精神と機会」なんですけど……なんというか、潔い言葉だなと思ったんですよね。アルバムの全体を見て見ても、潔い感じが今回はあるなと思うので。「精神」という言葉がそのままポンッとタイトルになっているのも、似合っているなと思ったんです。
──今作の「潔さ」って、どういったことに起因するものなのだと思いますか?
Chamicot : 私は、わかんないです。なんでなんだろう……。曲を作っている最中に、大塚くんが「宇宙を感じる」って言っていたんですよね。それじゃないですか。
大塚 : 俺、ヤベえやつじゃん(笑)。なんというか、「この壮大な感じはなんだろう?」と思ったときに、自分の言葉のボキャブラリー的に該当するものが「宇宙」しかなかったんだよね。
Chamicot : そこから急にみんな、宇宙宇宙言いはじめたよね。私は「怖いな」って思ったけど(笑)。
大塚 : でも、先にアルバムを聴いた人にも「風通しがいい」って言われたんですよ。
立崎 : なんというか、今回は「食べやすい料理」っていう感じがする。
吉田:そうそう。ご飯とか、パンとか。宇宙食みたいな。宇宙の味噌汁。
大塚:凄いこと言い出した(笑)。
Chamicot:開けた感じ……どこかに行ってしまうような感じが、今回のアルバムにはあるっていうことですかね。
──「いまいる場所から離れて、どこかに行ってしまいたい」というような感覚は、僕は今回のアルバムからすごく感じました。そういう感覚が、皆さんのなかでは音楽と結びついているのかなって。
立崎 : 「どこかに行きたがっている」っていうのは、バンドをはじめた最初の頃からよく言われてたよね。
毛利 : うん。私は、「どこかに行きたい」って自発的に思うわけじゃないけど、ライヴのときとかは、いまいる次元からバンッと出ていけるように、心を「そっち」に持っていけるようにって思っているかな。目の前にいるお客さんというよりは、見えないけど、「さらに遠くまで、遠くまで……」って見据えながらやってるって、いつも思ってる。
大塚 : それは、逃避ではないっていうことだよね。「ここが嫌だから、どこかに行きたい」みたいな感覚ではない。
毛利 : うん。いまいる場所が嫌っていう訳じゃなくて、「理想のその先」みたいなものを私は結構考えるから。「いまよりもっと高いところにいくぜ!」みたいな感覚。そうとしか言いようがない感じなんですけど(笑)。
Chamicot : 私も逃避ではないかな。見たことないものへの好奇心みたいなもの。「ここが嫌だから逃げ出してやろう」みたいなことではない。別の空間や街があるのなら、行ってみたい……そういう人間のサガみたいなものだと思う。
──例えば4曲目の“PARADISO”って、タイトルからしても理想郷を目指していくような姿が歌われている曲だと思うんです。でも、この曲のなかでは「先の見えない僕らは」とも歌われているし、どこか先の見えない現実感が前提にあって、そこから「どこかに行ってしまいたい」と思っている……そんな印象も僕は今回のアルバムから受けたんですけど、そういう感覚はなかったですか?
Chamicot : 「PARADISO」はどっちかと言うと、前提として楽しい場所にいるんですよ。この曲の主人公がいる場所は、ダンスミュージックが流れていて、星も綺麗に見えて、決して悪くはなさそうなんです。でも、「それはそれ」として別のところに行ってみたいし、そもそも生きていくことって、先が見えないなかで進んでいてくことだと思うし。それに、どれだけ楽しいところにいても、「自分は楽しくない」と思ってしまう瞬間が私にはあるし……そういう感じの曲なんです、“PARADISO”は。