歪でヘンテコな感性だって美しい──猫田ねたこがソロ活動を通してみつけた強さ
“プログレッシブ・ポップ”バンド、JYOCHOと、ピアノ・ロックバンド、heliotropeのヴォーカル・キーボードとして活動している、猫田ねたこがファースト・ソロ・アルバムをリリース。キーボードを軸に、ミドルテンポな曲でゆったりと構成されている本作は、感情が赴くままに、まっさらな気持ちで自身と向き合った1枚。そうすることで見つけた、彼女なりの強さや自身との向き合い方、陰から陽への心情変化などが歌詞に落とし込まれており、ピュアな目線で猫田ねたこのアーティスト像を見つめることができる。エンジニアは、heliotropeを通して交流があった、toeの美濃隆章、またレコーディングにもストリングスやクラリネット、ハープなどを入れたりと、ライヴでの再現よりも、音作りへの興味を優先させたとのこと。猫田ねたこが先で待つ希望を見据え、素直に束ねたアルバム『Strange bouquet』について話をきいた。
猫田ねたこの初アルバムはこちらから!
INTERVIEW : 猫田ねたこ
シンガー・ソング・ライター、猫田ねたこのファースト・フル・アルバム『Strange bouquet』が、4月27日にデジタル・リリースとなる。今作は、「自分が好きなものだけを詰め合わせた、変わったブーケ」というテーマのもとで制作されたとのこと。そして、そのテーマのなかで彼女が束ねた7曲は、変化の急流に疲弊した心を癒し、励ますものだった。いまの時代にフィットした今作は、どのような経緯で生まれたのか? また、JYOCHOとheliotropeのヴォーカル/キーボードとしても活動している彼女が、シンガー・ソング・ライターとして活動をスタートさせたのは何故か? など、作品の話にとどまらず、彼女の内面を知るべく色々な話をしてもらった。
インタヴュー・文 : 峯岸 利恵
写真 : umihayato
理想への入り口が見えた気がして、いまはウキウキしています
──猫田さんは、heliotropeとJYOCHOのヴォーカル/キーボードとしてバンド活動もされていますが、シンガー・ソング・ライターとしてソロ活動をするに至ったのはなぜですか?
Rinky Dinkライヴハウス統括の小牟田玲央奈さんに背中を押してもらって、2015年にリリースされた、アコースティック・スプリットアルバム『田』に参加させていただいたことがはじまりなんですけど、それまではソロで活動していきたいとは思ってなかったんですよ。バンドでやってきたからこそ、ひとりでステージに立つことが怖かったんですよね。でも、誰かとリズムを共有しないからこそ生まれる自由さだったり、ライヴ当日の気分に合わせて楽曲の世界観を表現できたりと、バンド・サウンドのなかで歌うこととは違う楽しさを見出してからは、楽しんでやれています。
──ソロ活動で得たものが、バンドでのライヴや楽曲制作にも還元されたな、と思ったことはありましたか?
バンドのなかで歌うと、楽器の音の中に声が埋もれてしまう感覚が少なからずあったんです。でもソロで歌いはじめたことで、ヴォーカルが生み出す微妙なニュアンスの大事さを実感しました。だから、一瞬たりとも気を抜けないんだということに改めて気付きましたし、より集中して歌えるようになりましたね。JYOCHOのメンバーやお客さんからも「表現の幅が広がったね」と言ってもらえるので、目に見える変化になっているんだと思います。あと、これはJYOCHOのライヴでイヤモニを導入したことがきっかけなんですけど、自分自身がわりとフラットに歌うタイプのアーティストだと思っているので、表現力をつけるために、表情豊かに歌うアーティストの方に話を聞いたり、個人練習のメニューや普段の話し方を変えたりもしました。
──普段の話し方まで変えるというのは凄いですね。
演劇が好きなシンガー・ソング・ライターの子のライヴを観た時に、曲ごとに全部違う人間の人生を歌っているように聴こえたんです。その後、本人にその理由を訊いたら、普段から役者に成りきったように、演技している感覚を持っているんだと言っていたんです。嘘っぽくする訳ではなく、例えば身振り手振りを交えたり、多少大袈裟に話すことで、自然と表現力が養われるという話をしてくれて、私もその方法を生活の中に取り入れています。その結果、小さい声の出し方が変わりましたね。重心が低めの、広くて太い声を出せるようになったと思います。
──それは、猫田さんが目指していた声の出し方だったんですか?
そうですね。自分が好きなアーティストが、BjörkやEGO-WRAPPIN’の中納良恵さん、ハネダアカリちゃんといった、低い声での歌唱が魅力的な方ばかりなんです。声帯の作りが関係するものなのでもちろん限界はあるとは思いますが、理想への入り口が見えた気がして、いまはウキウキしています。
──重心低めの声が出せるようになったという、いまのお話は、今作の“Minimize”を聴いて感じた印象そのままだったので、とても腑に落ちました。今作『Strange bouquet』の制作は、いつ頃から始まったんですか?
2021年の春頃からスタートして、夏には全曲のデモは出来上がっていました。前作『犬にも猫にもなれない』は、歌とピアノのみというシンプルな構成だったんですけど、今回はライヴでの再現度を気にせずに、やりたいことを全部詰め込もう!という方針にしたんです。なので、ストリングスやグロッケン、クラリネット、ハープ、EUB(エレクトリック・アップライト・ベース)などを入れてレコーディングをしたんですけど、これがもう、本当に楽しくて! いままで“ライヴで出来ないことをやりたくない“という枠が自分のなかにあったんですけど、それを打破して作れたことが嬉しくて、過去最速で出来上がりました。
──今作は、エンジニアにtoeの美濃隆章さんを迎えて制作されたとのことですが、元々繋がりがあったんですか?
heliotropeの作品制作時にお世話になったというご縁があって、今回依頼させて頂きました。美濃さんは機材にとても詳しい方で、音作りに対するこだわりと熱量が物凄いんです。EUBのレコーディングをするとなった時に、私が“ティンパニーのような音を出してほしい“という無茶なお願いをしたんですが、DIからいくつも試してくださって。みんなで何度も聴き比べをして選んだ音は、自分が想像していたもの以上の出来上がりでした。美濃さんにお願いして本当に良かったと思いましたし、感動しましたね。