情報技術と先端技術がかつてないほど発展した今日、人々は便利さを得るのと引き換えに、個人的で肉体的な経験と出会うチャンスを決定的に失っている。そんな時代だからこそ、アートやスポーツといった五感を蘇らせるアクティビティーに人は惹かれるのかもしれない。 演劇のシーンでも、そんな肉体の体験をもたらしてくれる作品がある。12月から上演される『常陸坊海尊(ひたちぼう・かいそん)』は、半世紀以上前の東北を舞台に、400年以上生き続ける怪人・海尊を主軸にした物語だ。輪廻転生、不老不死、シャーマニズムなど、土俗的な主題を用いて、人の「生」と「死」、そして「性」を問うている。 そんな同作を演出する長塚圭史もまた、20代の頃から人間の暴力性や矛盾を追求してきた人物だが、彼はこの作品の音楽のために、とても意外な人物を招いた。田中知之。FPMとして活躍し、先端的な都市の音景を生み出してきた彼に、この濃厚で土の匂いが