3つの引力が交差する奇妙な空間。階段を昇降する人間たちは、同じ建物内にいるように見えて、異なる世界に住んでいる。 オランダ生まれの奇想の版画家、マウリッツ・コルネリス・エッシャーの名作「相対性」。非現実の空間だが、整然とつじつまが合っているように思えるから不思議だ。こうしたエッシャーの魔術的なイメージは映画や絵本、漫画などファンタジーの世界と相性がいい。近年でも米映画「ナイトミュージアム エジプト王の秘密」(2014年)の中で、主人公らが「相対性」の空間で右往左往するシーンが描かれている。 エッシャー独特の版画表現はいかに生まれたのか。上野の森美術館(東京)で開催中の「ミラクル エッシャー展」は、8つのキーワード(科学/聖書/風景/人物/広告/技法/反射/錯視)を通じて希代の版画家のオリジナリティーをひもとく企画だ。展示作152点はイスラエル博物館(エルサレム)が所蔵するもので、日本初公開