「衣食足りて礼節を知る」という言葉もあるが、人間は極度の貧困に陥れば、目先のことしか考えられなくなる。それはそうであろう。今日一日をどう生き延びるかが問題であるときに、10年先、20年先のことなど考えられないのは、今さら説明するまでもないほど当たり前のことである。そのようなとき、人はたとえばおかしな儲け話にころっと騙されたり、やむにやまれずに犯罪に手を染めたりということもあるだろう。 かのジャンバルジャンは、空腹を満たすためにパンを盗んで捕まったわけだが、収入の道が閉ざされた結果、ただで飯を食わせてくれる刑務所に入るために、犯罪を繰り返す人らも今の時代には現にいる。 今日一日、食べるものが得られるかどうかも分からないような極度の貧困は、人間の心の余裕を失わせ、未来への希望を失わせ、冷静な判断力もしばしば失わせるものである。その結果、そのような貧困にはまり込んだ人間は、アリ地獄にはまったよう