酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ベンジーの白い焔~新作“natural”の世界

2005-03-15 08:18:58 | 音楽

 浅井健一(ベンジー)がリーバイスのCMに出ている。格好良さに感心しつつ、何かやらかさなきゃいいかと、少し心配している。

 先日発売されたSherbetsの新作“natural”は、昨年春に録音したもの。タワーレコードの特設コーナーでは「動のJude 静のSherbets」なんてコピーの下、ズラッと陳列されていた。

 “natural”は昨年秋に出たJudeの“Zhivago”と触感が似たアルバムだ。沈みつつ浮揚する内面が、切なくて美しいメランコリックなメロディーで紡がれている。始原の孤独と愛を歌ったかのような「フクロウ」から、水彩画みたいな「並木道」まで楽曲の質は高い。モノトーンの万華鏡を覗き込んだみたいだ。

 繰り返し聴くうち、郷愁が込み上げてきた。薄皮一枚でロックと接していた20年前、レコードを聴いて過ごした一日を思い出す。エコー&バニーメンの“Crocodiles”、コクトー・ツインズの“Treasure”、キュアーの“Pornography”、スージー&バンシーズの“A kiss in the dreamhouse”。日本ならルースターズの“φ(ファイ)”だ。締めがジョイ・ディヴィジョンの“Closer”とくれば、精神的深海魚というべき趣向だが、“natural”はUKニューウェーブの湿度や温度に極めて近い。

 ベンジーの多産ぶりには驚かされる。オリジナルアルバムは、ブランキー・ジェット・シティー(BJC)で10枚、Sherbets5枚、Jude4枚、UAと組んだAjicoで1枚。ソングライターとして14年で20枚を世に問うている。パフォーマーとしての自信の表れか、ライブ映像は5月発売分を合わせ11作になる。さらに小説とかデザインとか、その才能は無尽蔵といえよう。

 自らの青春期がBJCの10年と重なるファンは、当時のベンジーこそピークと感じているだろう。BJCとは狂気、反抗、暴力、絶望といったロックに不可欠な要素が混ざり合った坩堝だった。ライブ会場では、ファウルラインを越えていそうな若者がひしめき合い、異様な切迫感が漂っていた。

 俺は年も上だし洋楽派だから、BJCとは一定の距離を保っていた。並行して立ち上げたSherbetsや解散後のJudeの方に共感を覚えたのである。BJCでのベンジーは、聴衆とのコミュニケーションを第一に、クリアな詩を書いていた。SherbetsやJudeでは、イメージの連なりを追求しているように思える。

 焔の色は、発火体の温度が上がるにつれ、赤→黄→青→紫→白と変化するという。“natural”に似合うのは白だ。本作には「君と僕」にこだわった詩が多い。凡人が天才を邪推しても詮方ないが、ベンジーは恋しているのかもしれぬ。真っ白な焔を発して昇華する、純粋でひりひりするような恋を。

 「ジュース物語」ではこう結んでいる。♪氷みたい冷たい宇宙で暖かな光になるんだ……。アンビバレンツな自らの世界を言い当てた表現だと思う。
コメント (3)
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