経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

巨額経済対策のリアリズム

2021年10月10日 | 社会保障
 財務次官が「巨額経済対策は必要か」と述べて話題となっているけれど、結論から言うと、数十兆規模の経済対策は必要ない。それが本当に需要になるなら。もし、GDPの4~5%もの需要が一気に追加されたりすると、供給が追いつかなくて、経済は混乱をきたしかねない。むろん、実際の経済対策は、融資などを含んで膨れ上がっていて、そのまま需要になるわけではないから、心配は無用なのである。

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 それでは、追加的に必要な需要はどのくらいか。消費増税後コロナ前の2019年10-12月期GDPと、直近の2021年4-6月期GDPを比較すると、-8兆円ほどだから、これが目安になる。そのうち、民間住宅が-1.2兆円、設備投資が-1.7兆円である。住宅は消費増税後の落ち込みから回復してきたし、設備投資も輸出の好調さから伸びが期待されるので、意外かもしれないが、政策的に引っ張り上げるまでもないように思う。

 問題は、8兆円も減ってしまった家計消費をどう埋めるかである。それに、政府消費がコロナの医療などで5.2兆円も増えているから、これを減らさない必要もある。その意味で、医療、介護、保育の公定価格を引き上げ、賃金水準を改善しようという岸田政権の方針は、理に適ったものだ。あとは、消費を埋める8兆円の給付を、いかに「低所得者」を対象に「定額」で行うかである。そうしないと、苦境を救い、消費に結びつけることができない。

 一つの方法は、厚生年金の加入者のうち低所得の人に対して還付をすることだ。徴収を代行する企業に還付を指示し、後で清算すれば良いから、迅速にできる。次に、非加入のパートの人などに対しては、企業に定額の臨時手当を出してもらい、その全額を補助してはどうか。そして、これらから漏れる低所得の人や働けていない人に対してのみ、申請に基づいて地方自治体から給付するのである。

 こうした方法を考えるのは、岸田政権が「勤労者皆保険」を目標にする以上、低所得でも無理なく厚生年金に加入できるよう、低所得での保険料の軽減措置を導入せざるを得ないと見るからである。そうでないと、実現はいつになるか分からない。したがって、軽減の原型となる形での経済対策が望ましい。いかに再分配の制度的インフラを整えるかに、新しい資本主義の正否はかかっている。

(図)


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 財務次官は信念の人かなと思う。筆者は自信がないので、財政が破綻すると言われて数十年が経ち、兆しすらないことに、何が真実なのかと不安を覚えてしまう。少なくとも、日本の財政赤字はパッシブなもので、企業黒字があるうちは、現状が続くと考えられる。この構図を変えるには、企業が投資を増やして赤字になってもらわないとならないが、国内消費が伸びなければ、まるでインセンティブがない。それには、賃金を増やしても半分が税と保険料で抜かれる現状にあって、再分配が必要だ。このインフラの立案も官僚の役割に思える。


(今日までの日経)
 利益14兆円分に課税の網 デジタル企業など対象。TSMC・ソニー、熊本に工場 8000億円投資。給付金・賃上げ、分配前面 首相所信表明「改革」触れず。米、海中戦力で優位死守。東京・埼玉 震度5強。日本の迎撃網を無力に 北朝鮮ミサイル開発。経済教室・公的家賃補助の整備急げ。首相、地域・業種絞らず給付金。


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