先日、国債を相続税で回収する戦術を述べた。むろん、相続税だけで財政赤字を解決できるものではないが、どのくらいのポテンシャルがあるかを大まかに試算してみた。おおよそ、消費税で言えば2%強、5兆円以上の増収の余地はあると考える。大きさがつかめれば、若い人たちにとってどんな選択肢があるか、示すことにもなると思う。
高齢者が家計貯蓄の大半を持っていることは、全国消費実態調査(平成21年)で分かる。家計全体の持つ「貯蓄-負債」(純貯蓄)の総額は466兆円であり、これは、家計資産編(総資産)の世帯数分布と貯蓄負債高を掛け合わせることで得られる。そのうち、世帯主年齢60~69歳が43%、70歳以上が38%を占めており、合わせれば8割にもなる。
消費税を上げるということは、現役世代を含む全体から税を徴収し、高齢世代が政府に貸している借金を返していく行為とみなせる。他方、相続税の増税は、政府に貸していた借金を、亡くなったときに消却を進めるものとも言えよう。政府の借金は、ある意味、返さないまま消えていくわけである。
では、年間、どのくらいの資産が相続税の対象になるのか。70歳以上の持つ純貯蓄は177兆円、住宅宅地資産は520兆円だから、合計697兆円である。30年経つと、ほぼすべての人が亡くなるとすると、1年当たりでは23.2兆円になる。60~69歳については、64歳の人は10年で15.6%減ることが生命表(男)から分かるので、合計資産713兆円×15.6%÷10で、1年当たりは11.1兆円である。50~59歳も同様に計算し3.2兆円だ。三つの年齢階層を足し合わせると37.5兆円である。(正確を期すとコラムの範疇を超えるので大概にしておく)
これをベースとして、現在の利子課税の税率20%を乗じると、税収は7.5兆円ということになる。実際の相続税の税収は、1.3兆円(2010年度決算額)であるから、実効税率は3%半ばと言えよう。税務統計では、課税件数は死亡者数の4.1%だけだし、課税された場合でも、課税価格に対する納付税額の割合は11.5%にとどまる。そもそも、今の税制では、配偶者+子2人なら、課税価格が2億円でも負担割合は4.8%にしかならない。
税率を他税と比較すると、所得税+住民税は、年収300万円でも実効税率は6%程になるし、年金と医療介護の社会保険料(本人分)を加えると負担は20%近くになる。更に消費税も負担しなければならないわけで、相続税がこんなに軽くて良いのかという気がする。日本でも、米国でも、資産所得に対する税率が低いために、高所得者の税負担は中所得者より軽いとされて、問題視されている。相続税にも同様の課題がある。
ちなみに、高齢者の資産は、1/4が金融資産、3/4が住宅土地資産なので、20%の課税とは、金融資産は、社会保障を行っている国が受け取り、住宅土地は子が受け継ぐというイメージになる。今後、高齢社会の進展に伴い、死亡者数が20年後には3割増しになり、相続する子の数も減って、何もせずとも相続税は増えるが、公平の観点での見直しも必要ではないか。
筆者は、世代間の不公平論には組しないが(
11/28参照)、もし、それを正そうとするなら、高齢者の資産に課税する相続税は、真っ先に検討対象になりそうなものである。それなのに、若い人たちを始め現役世代の負担する消費税ばかりがクローズアップされるのは、なぜなのか。しょせん、不公平論は、消費増税のために、分割統治をする道具でしかないということなのだろう。
(今日の日経)
テルモが統合を提案。スペイン国債7.7%。欧州合意は仮面の結束・菅野幹雄。最低賃金7円上げ平均744円。鉄道の消費電力2割削減。株式利回り国債上回る2.7%。台湾・株式売却益に15%課税。輸入車販売1割増に。大機・企業の役割・魔笛。経済教室・国際標準化戦略・平松幸男。
※最近は魔笛さんのように国民経済の観点から正論を言う人が少なくて困るよ。