ファンクの軽快さとジャズやソウルのしなやかさ、ロックのダイナミズムが混じりあう鉄壁のグルーヴ。その上を豪快に滑走する不敵なラップ。曽我部恵一が「胸騒ぎの混血音楽」と表したカテゴライズ不能の6人組バンド、チムニィ。ROSE RECORDSからセルフ・タイトルを冠した1stアルバム「チムニィ」をリリースする。OTOTOYでは、このアルバムを1週間先行でお届けします。彼らの無自覚の犯行は、きっとあなたの胸を刺すだろう。
チムニィ / チムニィ
【価格】
mp3 単曲 150円 / まとめ購入 1,200円
WAV 単曲 170円 / まとめ購入 1,300円
【Track List】
1. 西武球場
2. ナショナルリズム
3. エコロジー
4. 歩けメロス
5. 同情するなら
6. 東京のど真ん中
7. スーパーNG
8. 犯人
9. マイルスデイビス
INTERVIEW : チムニィ
チムニィのMCを担当するユーテツは相当に変だ。長く音楽も創っているし、何本もインタビューをしたけれど、こんなに変な人に出会ったことはない。いや、違う、僕のほうが、長い人生のなかで、変になってしまったのかもしれない。音楽は、かっこつけないほうが響くってことに、まさかいまさら気づかされるとはね。チムニィ、記念すべき1st albumをドロップ。思い出したのは、THE BLUE HEARTSの1st album『THE BLUE HEARTS』でした。
インタビュー&文 : 飯田仁一郎(OTOTOY編集長 / Limited Express (Has gone?))
ちょっとずつ誰かが「いいね」って言ってくれたから、少しずつ素直になってきた
――いまのメンバーになった経緯を最初に教えてもらいたいのですが、最初はふたりでしたよね?
ユーテツ(MC) : いや、最初はみっちゃんたちがバンドをやってたんですけど、2007年にそのバンドのヴォーカルがやめちゃったんで、僕が入ったんです。
――2007年以前は光永くんはどういうバンドをやってたの?
光永渉(Dr.) : それは、小さい「ィ」がなかった、「チムニ」ですね。ギター・ロックやったね。
――なぜユーテツくんを誘ったんですか?
光永 : 前にいたヴォーカルの水上のシャウトする感じがすごい好きで。ユーテツくんもすごいシャウトが迫力あったから、それで呼んだって感じです。
――ユーテツくんが合流したころは、どんな音楽をしようとしてたんですか? というか、なぜ突然変異でこんな音楽になっていったのかが、俺は今日1番知りたい(笑)。
ユーテツ : …や、あんまり覚えてない(笑)。自分が、音楽をそこまで聴いてなかったんですよ。自分に音楽の基礎がないんで、チムニィに入っても提案できないから、「こういうのやろう」というのは、引き出しが少なすぎてなかった、というかできなかったです。最初、「こういうのをやりたい」ってみっちゃんがランタンパレードのCDを貸してくれたんですね。
光永 : 俺、やりたいって言って貸したんだ…。「これいいよ」って言って貸したんじゃなくて?
ユーテツ : 「こういう感じがいいからやってみたい」って言った感じだったと思う。今までの「チムニ」は、ガガッって感じだったから、ちょっと言葉を入れたいって。僕もランタンパレードさんを聴いて、すごい好きになって、いいなと思ったんです。
光永 : とりあえず、今までやってきた、ギターのわりとサイケな感じじゃなくて、整理整頓されたもの、ビートとかもラウドな感じじゃないのをやりたかったのかな。
――初期のころに観させてもらったときは、模索してる感じがすごいあったのですが、それがアルバムをつくるにあたって、どっかのタイミングで自分たちが見えたのではないか、と思いました。その見えたような曲っていうのはどの曲で、いつごろなんですか? それとももしかして見えずにずーっときてる?
ユーテツ : 制作の過程で、どんどんアイディアを詰め込んでやってたんですよ。それが模索、というか整理されてない状態だったと思うんですけど。途中から引いていって、そしたら「西武球場」ができて、それがポイントになった気がする。いままでギターがふたつあって、ぐわーっとあるなかに、さらにしゃべるとなると、結構大声で「うわー!」ってやんなきゃいけないんじゃないですか。自分の居場所が爆音のなかで、意味が聞こえるようにしゃべるのはむずかしくて。それが、役割がはっきりしてきて、kasugaくん(gigi kasuga(Gt.))の得意とするギター・ソロと、和生くん(佐藤和生(Gt., AG.))の得意とするリフのループのあいだに自分の場所が空いて、しゃべってるように歌っても聴こえるのが、あの曲になったんですね。
――そこでバンドのバランスが見えたんですね。
光永 : そうですね、思い返してみれば。
――トラックはああいうふうにファンクだけど、前に出てこないじゃないですか。常にバックであろうとして、ユーテツくんの歌を聴かせようとしているのをこのアルバムを通して思ったんですよね。
光永 : そうか。そうなのかな? でもギターとか、昔ほど、圧で押してやろうとか、そういうのはなくなったのかもしれない。
ユーテツ : そうですね。昔、20代とか若いときって、お金払って観にきてくれてるのに、自分以外の人を「殺してやる!」みたいな気持ちで、やってる状態だったんですよ。憎しみというか。
――その憎しみがあったのはなんでですか?
ユーテツ : 褒めてもらいたい裏返しなんじゃないですかね。誰も褒めてくれないから、じゃあ敵に回ってやるみたいな。それが、ちょっとずつ誰かが「いいね」って言ってくれたから、少しずつ素直になってきた。せっかく来てくれた人にちょっとは楽しませようとしたら、自分がライヴとか聴きにいって歌が聴こえなかったら、すごくフラストレーションが溜まるっていうのがわかったのでそうならないようにしようとか思って。それですっきりさせていったように思います。
「20年ぶりに西武球場に来たらよかったよ」っていうことが言いたいこと
――歌詞にセンセーショナルな言葉を使ってるなと思ったんです。聴こえれば聴こえるほど過激だな、と。ユーテツくんが書きたい歌詞の世界っていうのはどういう世界なんですか?
ユーテツ : いまこのアルバムに入ってる曲に関しては、「西武球場」だと西武球場に行ったときの気持ちよさというか、開放感が歌いたいことであって。「ナショナルリズム」は、僕が歌ってて、全世界の美女が踊ってる、みたいな、そういう感じを歌ってます。
――結構自己発散だということ?
ユーテツ : 自己発散ですね。
――自己発散が歌いたいこと?
ユーテツ : いや、「西武球場はこんなにいいところですよ」っていう、…紹介。
光永 : 紹介なんか。
ユーテツ : 紹介もありますし、音楽で表せてると思います。
――すごく生々しい歌詞で、言いたいことがあるのかなあと思ったんですけど、実はそんなに言いたいことはない?
ユーテツ : 言いたいことは…、全部入ってると思います。歌詞カードが、言いたいこと。「20年ぶりに西武球場に来たらよかったよ」っていうことが言いたいことです。
――なるほど。…そうか。
光永 : 主義主張、思想とかがあるのかってことを聞きたいんじゃなくて?
――いや、僕がたくさんインタヴューしてるなかで、実はすごいピュアなことを言ってて。良い意味で、「そうか」って思いました。音楽って普通に書いていいはずだけど、もっとかっこつけてるというか。だからそれが1番特徴なのかな、と。それに実は惹かれるのかなとは思うんですけど。光永くんはユーテツくんの歌詞に関してはどうですか?
ユーテツ : ピュア(笑)
光永 : ピュアじゃないか。
――でも「フェラチオカフェ」とか「アナルファック」とか、なかなか入れにくい言葉が入ってますよね。それをやっちゃうと、これは語弊ある言い方かもしれないけど、スカム・バンドと思われちゃうこともあるわけじゃないですか。でもそれを光永くんにしろユーテツくんにしろ、それを普通にいれれてしまうのはなぜなんでしょう?
光永 : ユーテツくんの全体の歌詞を見たら、「アナルファック」とか「フェラチオ」とか言ってるけど、全体はこのひとの物語で、その中のひとつの単語なので、だからうちらがやってても、「俺らスカムだぜ」とは思わないし、どぎつい言葉とは思わない。
――あれは語り? ラップ?
ユーテツ : 2種類あって、「エコロジー」とかは語りだと思いますし、「西武球場」とかはラップだと思うんですけど。
――その違いはどこなんでしょう?
ユーテツ : 語りとかラップとか、特に分けることはないと思うんですけど、ラップだとしたら韻を踏んでるのがラップで、そうじゃないのは語りだと思います。
――ラップはラップでむずかしいじゃないですか。ラッパーからすると、韻を踏むだけがラッパーじゃねえって言われそうな感じじゃないですか。そういうふうなことは思ったりしたことはある?
ユーテツ : 別に、ラップじゃないって言われても関係ない。じゃあ「ラップじゃないです」って。
――例えばドラマーならドラマーで、ギタリストならギタリストで、技術っていうものが存在するじゃないですか。あんまりそういうとことは、関係のない場所でユーテツくんは自分を表現したい?
ユーテツ : 技術は必要だと思うんで。あんまり下手だと。… 下手ですかね? これ。
――あの…、うまくはない(笑)。それはまちがいない。悪いとは思わない。
ユーテツ : あの、それ、いま気付いたんで(笑)。
――バックがすごくうまいんですよ。だからもしユーテツくんじゃなかったら、もっとチムニィはスマートに聴こえてるはず。でも、やっぱりユーテツくんっていうのには理由があると思うんですよね。光永くんから思うユーテツくんの魅力が知りたい。
光永 : ユーテツくんがやってるから、うちらも成り立つというか。うちらは、もっとヒップホップっぽくて、うまいラッパーとやってもおもしろくないし。
――やっぱりそこがおもしろいと思ってるんですね。そのユーテツくんの持つおもしろさっていうのはどこなんですか?
光永 : … ピュア?
一同 : (笑)
ユーテツ : ピュアかあ(笑)。
光永 : ピュアでいこう(笑)。…いや、なんやろな。…マンネリズム。
――マンネリズム(笑)。
光永 : うちらは何年もやってるけど、ユーテツくんが突拍子もないことを言うわけよ。まんま。それがいいんじゃないかなあ。
――なるほど。もし最初に目指したのがランタンパレードだとすれば、スマートさのベクトルが全然違うなあと思って。
光永 : どうしてもユーテツくんが通して出てきてしまう言葉が、ユーテツくんっぽくなっちゃうというか。それが「フェラチオカフェ」だったりなんだりするわけで。…どう思います?(視線を担当者に向けて)
岩崎(ROSE RECORDS STAFF) : 良い意味で無自覚なんですよ。でも飯田さんがそうやって訊きたくなるのもすごくわかる。そこになんかあるって思いたいんですよね。そこになんかあるし、それに感動しちゃう自分がいるから、それがなんなのかを知りたいけど、バンドに問いかけてもこの人たち無自覚だから。飯田さんのその切り口だと永遠にこんな感じですよ(笑)。
――いや、でも、だからこそ実は今回「そうなんだ」って気付けましたね。けどもうちょっと訊きたくもなる(笑)。いやあ、ユーテツくんすごいですよ。
岩崎 : バンドのバランスも完璧すぎるんですよ。接してみるとこのふたりだけじゃなくて、他の人もなんかばらばらだけど、チムニィでいるときのバランスはすごいなって。
――ユーテツくんから見て、自分が入ってないチムニィの音っていうのは、どうですか?
ユーテツ : ただうまいとか、良いギタリストってわけじゃなくて…。例えば、ありがちな顔が並んでたとして、でも「おっ」って思う人っているじゃないですか。そういう音なんですよね。魅力があるっていうか。なんか…、色っぽい。そう、色っぽいです。
――じゃあユーテツくんが入ったチムニィは色っぽいですか?
ユーテツ : 僕は自分が色っぽいかはわかんないですね。
――今回できあがった音源を聴いて、色っぽいと思いましたか?
ユーテツ : 音源は色っぽいです。
――それはやりたい音楽が全力で詰め込めたってことですか?
ユーテツ : これはできました。
――光永くんはどうですか?
光永 : そもそもこれを録ろうってなったきっかけが、曽我部恵一さんにたまたまライヴ観て気に入ってくれて、「1発で録ろう」って言ってくれて。そしたらユーテツくんの良さが出るって。そのやり方のなかでは、やりたいことはやれたと思う。いまの状態を生々しく出せたからよかったなと思いますね。
横綱がレッチリだとしたら、一場所で1回はレッチリと闘う権利をもらうところにきた
――ROSE RECORDSから出せるっていうのはうれしい事件でしたか?
ユーテツ : はい。ランタンパレードを聴いて、本当にすごいなって思った人のレコード会社から出させてもらえるんで、本当にすごいうれしいです。本当に好きだったらそうなれるっていうのがあるじゃないですか。そういうのはあるんじゃないかな、って思いました。
――ランタンパレードと同じ土俵に上がったと思ったりはしましたか?
ユーテツ : ランタンパレードはサンプリングで歌ってて、僕たちはバンドなので、ランタンパレードと同じ土俵というか、レッチリと同じ土俵にあがったと思います。
一同 : (笑)。
――いや、なるほど。いい答えですね。
ユーテツ : 横綱がレッチリだとしたら、一場所で1回はレッチリと闘う権利をもらうところにきたと思います。
――光永くんはどうですか?
光永 : リリースは本当にうれしいし、いろんな人に聞いてもらいですね。どこの土俵にあがったとかはあんまりないけど。いいライヴをして、いい音源つくってさえ、っていう当たり前のことをやればもっとよくなっていくと思うから、そういうのをちゃんとやってきたいですね。
――アルバム以降は、目標をあまり設定せずにやっていく?
ユーテツ : 僕はフジロック・フェスティバルのグリーン・ステージで演奏したいですね。
――でかい(笑)。
ユーテツ : 広くて、気持ちよくて、すごくいいって思ったので。あと西武ドームで「西武球場」を歌ってみたいですね。
光永 : ユーテツくんは、フジロックでやることがステータスだとか、上り詰めて、とかじゃなくて。本当にただ、気持ちいいだろうからそこで歌いたいって人なんですよね。
――光永くんはどうですか?
光永 : いままでわりと限られたライヴハウスでやってたから、いろんなところでやりたいですね。いろんな人ともやりたいし。がんばって、音源をまた出せるような状態にしたいですね。
――チムニィはいつまでやっていきたいですか?
ユーテツ : 考えてないですね。
光永 : 考えてないね。さっき言ったみたいに出せることはうれしいし、いろんなところでやれるのもうれしいけど、そうじゃなくても、いままでシコシコやってきたから。
――その、ずっと続けていられる原動力ってなんなんでしょうか?
ユーテツ : 生きてておもしろいことってあんまりないじゃないですか。でもおもしろいんですよ、いま。BOØWYとか尾崎豊とか、規模はちがうけど同じことをやってて、なおかつおもしろいって。だからそのおもしろいっていうのが、原動力です。
光永 : 僕もそうかな。
――それは音楽をやることですか、チムニィでやることですか。
光永 : …音楽かな。
ユーテツ : 僕は、チムニィってすごく、音楽に時間をかけてきた人たちだから、そういう人と一緒にやっているっていうのが、いいですね。ぜいたくで。もっとぜいたくなことありますかね? ぜいたくで、おもしろいって思います。
チムニィの過去作はこちら
「異様な低音の渦の中に、アフリカ、日本の情緒、ドイツの缶詰の匂いがまとわりついている感じ。」
ー清水民尋 (Lantern Parade)
「「歌える歌を歌え」とは誰かの言葉。歌えない歌を歌うとうそ臭くなる(デビットボウイ以外は大概)。 かっこつけになるし、少なくとも僕は響かないことが多い。チムニィはチムニィだからこそ歌える歌、つまりチムニィが歌うべき歌を歌っていて、だからこそリアルだと思う。その証拠に歌風景が浮かぶ。ーーーなんやかんやとややこしいけど、今日は夕焼けがきれいね。帰ろっか。ーーーそんな日々の歌。そしてファンク! 明日は晴れるかな? 雨なら雨で傘をさそう。」
ー池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ・シグナレス)
ROSE RECORDSの作品はこちら
PROFILE
チムニィ
MC : ユーテツ
Dr : 光永渉
Ba : AYA
Gt&AG : 佐藤和生
Sax&Perc : 日永田信一
Gt : gigi kasuga