連載
余録
毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。
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「勝手は北向きにて師走の…
2024/12/29 02:03 637文字「勝手は北向きにて師走の空のから風ひゆう〳〵と吹きぬきの寒さ」。身にこたえる冬の奉公勤めのつらさが伝わってくる。樋口一葉の「大つごもり」の一節だ。伯父から金策を頼まれていたお峰は大みそか、主人宅のお金につい手をつけてしまう▲作品が発表されたのはちょうど130年前。12月30日発行の雑誌「文学界」だ
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日本の学校給食は…
2024/12/28 02:16 614文字日本の学校給食は、山形県鶴岡市が発祥の地とされる。1889(明治22)年、寺に作られた小学校に弁当を持参できない貧しい家庭の子どもたちのため、住職が寄付を募り食事を提供した。僧侶たちが托鉢(たくはつ)で資金集めに協力したこともあったという▲発足時から「無償」と深い関係があった学校給食を巡る動きだ。
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「飛べるかどうかを疑った瞬間に…
2024/12/27 02:03 619文字「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」。9年前の講演でピーターパンの名文句を引用したのは黒田東彦前日銀総裁。「大切なことは前向きな姿勢と確信」と異次元の金融緩和への疑念を払(ふっ)拭(しょく)しようとした▲だが空を飛びネバーランドに行けるのは子どもだけ。著者の英劇作家、J・M・
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「ずるけてサボるんでねえんだ…
2024/12/26 02:05 617文字「ずるけてサボるんでねえんだ。働けねえからだよ」。北洋漁業の過酷な労働実態を暴いた小林多喜二の「蟹工船(かにこうせん)」の一節。「サボる」はフランス語のサボタージュ(怠業)を略した動詞だ。労働争議が盛んだった大正期に使われ始めた▲名詞に「る」をつけて動詞化する例は古代からある。雲から「くもる」、畝
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江戸の下町文化の中心だった東京・深川の生まれ…
2024/12/25 02:05 617文字江戸の下町文化の中心だった東京・深川の生まれ。青年期には「故郷、出自などは捨て去りたいと思っていた」。「米問屋に生まれた自分など卑小な江戸の市民文化の端くれ」とみなしていたからだ▲アフリカや欧州を足掛け20年近く彷徨(ほうこう)した末に気持ちが変わった。母の長唄の声や川の匂いなど幼時の記憶に吸い寄
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母親が宮中の厩舎の戸に…
2024/12/24 02:03 632文字「母親が宮中の厩舎(きゅうしゃ)の戸に当たった時に生まれた」。日本書紀が記す聖徳太子(厩戸皇子(うまやどのおうじ))の誕生説話だ。明治の歴史家、久米邦武は馬小屋で生まれたキリストの降誕伝説の影響を指摘した。真偽は別に歴史のロマンを感じる話だ▲歴史上のキリスト教伝来は16世紀。宣教師フロイスは、堺の
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言い得て妙とは、このことか…
2024/12/23 02:05 618文字言い得て妙とは、このことか。「魂柱」と呼ばれる一本の棒が弦楽器の内部にある。表板と裏板をつなぎ、音色や響きを豊かにする。バイオリンならば直径約6ミリ、長さ約5センチ。どの楽器にも先人の知恵と技が施されている▲多数の楽器が登場するのが交響曲だ。コンサート会場には、縁もゆかりもなく、職業や年齢などがば
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漫画家、水島新司さん(故人)の人気作…
2024/12/22 02:02 615文字漫画家、水島新司さん(故人)の人気作「ドカベン」には、坂田三吉という名の高校球児が登場する。得意技は通天閣打法。大阪市・新世界の名物、通天閣のように打球を高々と上げ、目測を誤った野手の落球を誘う。坂田はその後当時の在阪球団、近鉄バファローズに入る▲近鉄ではなく、南海と連携した通天閣である。運営会社
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大正デモクラシーが高揚する中…
2024/12/21 02:03 622文字大正デモクラシーが高揚する中、女性への参政権を求める「婦人参政権獲得期成同盟会」が結成されたのは、100年前の1924(大正13)年12月だった。男性の普通選挙実現の動きに沿ったもので、運動家の市川房枝らが中心となった▲戦後、国会議員として活躍した市川は、発会式の模様を自伝に記している。出席した約
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東京の開成中時代…
2024/12/20 02:04 684文字東京の開成中時代、むやみに暴力をふるう教練の配属将校に橋の上から罵声を浴びせた。戦争末期、東大入学後に2等兵として召集され、古参兵に殴られた。理不尽な暴力に「反軍精神」が燃え盛った▲98歳で亡くなった読売新聞主筆の渡辺恒雄(わたなべ・つねお)さん。政治記者時代に大野伴睦(おおの・ばんぼく)元衆院議
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モータースポーツの黎明期だった…
2024/12/19 02:03 617文字モータースポーツの黎明(れいめい)期だった1964年。第2回日本グランプリでプリンス自動車のスカイラインGTが一時、ポルシェを抜いてトップに立ち、観衆を沸かせた。ホンダは最高峰のF1に初参戦した。「自動車王国」の基礎ができつつあった▲日産がプリンスと合併したのは66年。完成車の輸入自由化に対応を迫
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「盗難ということもあるし…
2024/12/18 02:03 624文字「盗難ということもあるし、火災ということもある。銀行の個人用貸金庫がもっとも安全であろう」。与党の総裁選びを背景に全共闘崩れのゴーストライターや議員秘書が暗躍する松本清張の「迷走地図」。41年前に映画化されたミステリーのカギとなる文書は貸金庫に保管されていた▲保有者の代理人となり中身を手にした男は
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「マニフェストデスティニー…
2024/12/17 02:02 610文字「マニフェストデスティニー(明白な天命)」は米国の領土拡張を神の意思とする思想。19世紀半ばに唱えられ、テキサスやオレゴン、カリフォルニアなどの併合に結びついた▲「併合論」で初めて用いたジャーナリスト、ジョン・オサリバンはカナダや中南米も例外にせず、星条旗の下に3億人が集う将来像を描いた。そんな歴
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京都・三条大橋のたもとに…
2024/12/16 02:03 644文字京都・三条大橋のたもとに「駅伝の歴史ここに始まる」と記された碑がある。1917年、日本で最初の「東海道駅伝徒歩競走」のスタート地点となった場所だ▲首都が東京に定められて半世紀となる「奠都(てんと)50周年記念大博覧会」の行事として行われた。旧東海道五十三次を舞台とする23区間、総距離516キロに及
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はがきに肉筆で書かれた文面は筆者の人柄や…
2024/12/15 02:03 616文字はがきに肉筆で書かれた文面は筆者の人柄や、置かれた状況をしのばせることも多い。森鷗外記念館(東京都文京区)で開催中の「111枚のはがきの世界」は、そんな関心をそそる企画展だ。明治から昭和まで、89人の文化人が差し出したはがきを展示している▲作家、夏目漱石が自作の絵について年下の画家に「明日(中略)
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新聞には特定の業界の報道を主な領域とする…
2024/12/14 02:12 612文字新聞には特定の業界の報道を主な領域とする、多くの専門紙がある。仏教や神道など宗教界の情報を中心に扱う「中外日報」(本社・京都市)は、1897(明治30)年創刊。宗派に偏らない方針の下、週2回発行している▲同紙12月6日付社説は、能登半島地震の被災地状況がテーマだった。「目立つ復興復旧の遅れ」と題し
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能の演目にもなった源頼政のヌエ退治…
2024/12/13 02:06 616文字能の演目にもなった源頼政のヌエ退治。頭はサル、胴はタヌキ、尾はヘビ、脚はトラというキメラのような妖怪を射止めた。出典の平家物語にはその後、やはりヌエの名の怪鳥を退治した話も出てくる▲「目ざすとも知らぬやみ」に包まれた夜、見事に仕留めた。目を刺されてもわからない闇夜とも、目当ても見つからない暗闇とも
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「正直な人間なら十本の手の指よりたくさんのものを数える必要はめったにない」…
2024/12/12 02:05 609文字「正直な人間なら十本の手の指よりたくさんのものを数える必要はめったにない」。19世紀半ばに米マサチューセッツ州の湖畔の丸太小屋に住み、自給自足の生活実験を行った米作家、ソローの言葉だ▲2年余の暮らしを記録した名著「森の生活」で初めて使われたという言葉が「ブレーンロット(脳の腐敗)」。狭い常識にとら
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死んだ兄と自分を取り違えた新聞の訃報に…
2024/12/11 02:03 613文字死んだ兄と自分を取り違えた新聞の訃報に「死の商人」の見出しがあった――。ダイナマイトを発明したノーベルが平和賞を作ったきっかけとされる逸話だが、確たる証拠はないという。より確かなのは元秘書のオーストリア人女性の影響だ▲反戦小説「武器を捨てよ!」(1889年)で名声を得て平和運動にまい進したベルタ・
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「北朝鮮パイロットがイスラエルと交戦…
2024/12/10 02:06 651文字「北朝鮮パイロットがイスラエルと交戦」。米国防総省が発表したのは1973年の第4次中東戦争時だ。通信傍受でエジプト軍のミグ戦闘機に朝鮮語を話すパイロットが搭乗していることがわかったという▲極東からの空軍部隊はシリアも支援した。翌年に訪朝した初代のアサド大統領は再び朝鮮戦争が起きれば「シリア軍を送る
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