2024-08-25

物流業界のはしくれのオタクラストマイルを見る

オタクわい、ラストマイル製作から業界問題物語への落とし込みをくらって、えらい目に遭いました…… 

さすがですほんと……見事すぎる。

現実のいくつもの問題を、エンタメとして質を犠牲にせずに誇張も矮小化もせずに書いている。

ロジスティクスセンターとはあまり関わったことがなく、運送会社側の話が多くなりますが、物流業界問題という視点個人の感想を書いておきます

(人から聞いた話もあるので、違うこと書いてたらすみません

めちゃくちゃラストマイルネタバレありです。


まらないベルトコンベア

タイトルシーンからとあるごとに出てくるベルトコンベア

まらない社会の流れ。本作では誰かの辛さ、誰かの欲望、誰かから圧力が止まらない連鎖となって事件が起こり、このメタファーとしてベルトコンベアを据えているのが印象的でした。

ドライバー給与

映画の序盤で、羊急便のドライバー賃金について触れる場面が何回かありました。

(「1個運んでいくらだぜ」、「いくら運転しても荷物受け取ってもらわなきゃ金もらえない」、「配送止めた分の運賃は……」という呟き)

実際ドライバー低賃金はかなり問題になっていています

平均賃金が他業界より2割低く、平均労働時間が2割長いのが物流業界です。

特に最近残業時間にも規制がかかり、長く働きにくくなることから残業でも稼ぎにくくなってきており、ますます人手不足にも拍車がかかっております

ドライバー給与を上げればよいのでは、という問いの回答は、給与は結局荷主(荷物の依頼主、映画だとDailyFast)が払う運送から払われ、その運送料が上がりにくいのは映画のとおり…

そしてその結果、緊急時でもリソースが集められないという事態になるわけで、終盤の八木さんのタバコシーンが一層やるせなかったです

以下は補足なので流し読みでも。

ドライバー給与運送会社によってだいたい以下が代表的だと思います

①歩合制

②日給(時間給)制

シンプルなところだと歩合制すらなく固定給ですし、複雑なところだと歩合も複数の要因から組み合わせて構成されます

歩合制の代表的ものは、映画に出てきたような1配達いくらというもの。ほかに時間距離いくらというものなど。

以前は時間制が主なところも多かったようですが、俗に言う2024年問題残業時間規制が強くなり、ドライバー時間で稼ぐより成果で稼げるようにして残業時間の低下のモチベーションを上げる取り組みが増えてきています

また、映画中の運送会社である羊急便はロジスティクスセンター荷物個人に届ける画一的配送が多かったようですが、実際には荷役と呼ばれる作業配送前後の積み込み荷下ろしやパッキング、棚入れなど多岐に渡り、これもこれで問題が山積してるのですが…)が課せられることもあったり、資格必要配送があったりというケースもあるので、そういったケースごとに歩合を出している会社もあるようです。

アナログ現場

映画中盤で、荷物のチェックのフロー運送前に組み込まなければならず、医薬品配送が滞り、どこにあるのかを追おうとしてFAXで追えない!?というシーンがありました。

また、慌てふためく事務所に大量の紙書類。チラリとボカシで見えるExcelのような画面。

これもすごく胃が痛くなった……

トラック業界で働く人間の45%以上は40代以上、29歳以下は10%以下。

事務員ドライバーあがりの場合もかなりあります経理系は女性若い方もいますが、特に配送手配、計画系はことさらベテランドライバーあがりも多く、PCキー操作もおぼつかない人も一定数います

また、忙しい際は事務員や所長自ら配送に出る場合もあり、そうなるとメールすら満足に見れないわけで、未だに電話FAXがはびこる業界になっています

また、自拠点PCを使いこなせたとしても、連絡先の拠点(や、他の協力関係にある他の運送会社倉庫など)も使いこなせない限りはアナログでの連絡は残ります

ただ、羊急便はある程度大きな会社ぽかった(本社でなくてもそこそこの事務人員がいた)ので、これを機に改革しようと思えばある程度は融通を利かせられるかもしれません。

仕事を渡す側と仕事を貰う側、競合と協力

映画を通して、様々なストレスがDailyFastと羊急便に押し付けられます

警察から捜査協力要請、DailyFast上層部からの売上の圧力、受取り手から荷物が届かないクレーム

そして羊急便にはDailyFast西武蔵野ロジスティクスセンターからの、責任と、低料金の負担押し付け

同じ物流業界でも、仕事を渡す側と仕事を貰う側、つまりお金を払う側と払われる側、お客様側とサービス提供側という立場の差がこの押し付けにあります

特に羊急便は6割の仕事をDailyFastから貰っており、これを切られるというリスクがある以上常にイニシアチブをDailyFastが握っています

また、賃金交渉をしようにも、そういった立場差の他に競合企業存在もあります

運送会社提供するサービスとは、物をある場所からある場所に運ぶこと。他社との差がつけにくいのです。

(もちろん資格特殊車両必要荷物の扱いや、積み下ろし後の作業など、独自価値提供して差をつけようとしている会社もあります

そのため、依頼主から要求を受け入れなかったり交渉しようとすると、簡単に切られてしま可能性があり、ドライバー社員を食わせていけなくなる。

八木さんの、本社から電話にキレるシーン。DailyFastにばかり依存して、おまえらが安い金額で請け負うから……という話の背景にはそういった事情もあるのではないかとおもいます

そして終盤のストライキ報告時の、「脅しは立場が上の者が下の者にやること、これは交渉です」という言葉

すべき交渉を、かれらはやり切りました。

このストライキの裏には、中盤の医薬品のように、その間「届かない荷物」の存在があることを忘れてはいけません

ストライキをしたドライバーたちは、運んだ先の相手の、「医薬品が届かなかったときの困る姿」も「備品が届かなくて仕事が進められない姿」も、「誕生日プレゼントが届かなかったときの悲しみ」も容易に想像できるし、届けることの責任と喜びも知ったうえでその選択を選んだ、あるいは選ばねばならないのですから……

個人としては、SNS賃金愚痴を言う人が増えたこ社会で、もっとストライキは起こっていいと思うのですけど。

また、それを支えるのは羊急便以外の(おそらく大手の)運送会社の連名意見書でした。

運送会社では、荷物が溢れたときに他の会社に溢れた荷物を頼んだり、頼まれたりする協力関係も、競合関係の他に持ち合わせています

これはこれで多重下請け構造の発生などのよくない側面も持ち合わせているのですが、今回は運送会社としての連帯感がこの会社間に作用したように見えます

正直胃のキリキリとやるせない感情で本当に爆泣きしてしまってところどころの記憶曖昧です。こんなはずでは……久々の伊吹藍の供給だぞ……

でも胃が本当に痛くなるのでしばらくは見られなそう……助けて……

社会必須インフラである物流業界に山積する問題

本当に、10年後どうなっているんでしょうね

どう、変えられるんでしょうか 

あなたはどう変えますか?

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