第7回 『書を捨てよ、町へ出よう』 一冊の本との出会い…。同じ本でも、いつ、どこで、どのような状況で読むかによって、受け取るものは違ってくる。時を経て、再びその書物を手にしたとき、今度はまったく別のものを見いだすこともある。岩本宣明氏が、かつて読み、心に残った名著との再会を通じてその魅力を紹介する。 背広もアパートも食事も、なべてバランス的に配分したら、ぼくらは忽ち「カメ」の一群にまきこまれてしまう。そこで、自分の実存の一点を注ぐにたる対象をえらび、そこにだけ集中的に経済力を集中するのである。背広派、美食主義者、スポーツ狂といった若ものをつかまえて、親父たちは不具だというが、こうした経験の拡張は、実はきわめて思想的な行為である。多岐に発達する情報社会は広く、バランスのとれた情報を配布することで、ますますぼくたちの存在の小ささを思い知らせようとする。停年までのサラリーの計算をしてしまって、そ