いまやGPSのおかげで道に迷うことも少なくなった。とはいえ、こうした利便性と引き換えにわたしたちは大切なものを失いつつあるのではないか? 本書はそんな問いかけからはじまる。 ナビゲーションは、「海馬」という脳の領域が主に担っている。海馬にある場所細胞・頭方位細胞・格子細胞などが、脳のなかに認知地図をつくり出しているのだ。 興味深いのは、海馬は記憶の構築にもたずさわっていることだ。探索行動と記憶は、海馬によって繋がっている。幼少期のエピソード記憶(個人が経験した出来事の記憶)が大人になると失われるのも、海馬が未発達なためであり、また探索する時間の長かった子どもほど高い空間記憶能力・流動性知能を持つという研究もある。 わたしたちの祖先による狩猟採集生活では、ウェイファインディングは生死に関わる技能だった。獲物を捕らえるためには、その行動を予測し、痕跡を読み、追跡し、道を記憶する・・・などの能力