水村美苗はファザコンである、日本近代文学は水村美苗にとって理想の父なのだ、「お父様、美苗はお父様のいない世界になんか生きていたくありません」って、いったいあんた幾つだよ——と書こうとしていたら、田舎から連絡が来て、父が急逝していた。享年73歳であった。 昔は、万が一そういう事態が起った時、「おやじっ、何故死んだっ」って暴力焼香((c)織田信長)をしたら顰蹙だろう、とか考えてにやにやしたりもしていたのだが、現実にXデイとして目の前にぶら下がってくると、そういう気持は失せるものだ。第一、叔父や、父と一緒に仕事をしてきた人たちが素早く駆け付け、あまりにも熱心に細心に万事を運んでくれるので、そういう馬鹿娘的悪行を働く隙はなく、結果的に、あんまり役には立たないが真面目な模範的遺族として過ごすことになった。週末の死だったので、土、日、月と三晩、遺体の側で夜明かしして、蝋燭と線香を換えていたのが葬儀の間