死の直前「漢字勉強したい」カメルーン出身者は救えなかったのか
念願だった1枚のカードが届いたのは、息を引き取った3時間後だった――。日本で難民認定申請中だったアフリカ・カメルーン出身の42歳の女性が1月23日早朝、東京都内の病院で亡くなった。死因は全身に転移したがんだった。2度にわたり入管施設に収容され、仮放免(条件付きの解放)されたが一時はホームレス状態に。複数の支援者の尽力で命をつなぎ、最後に在留資格が認められたが、手遅れだった。母国の出身地域は情勢が不安定で、頼れる親族もいない。病床で「日本で暮らしたい。漢字を覚えたい」と語っていた女性。公的な救いの手はなぜ差し伸べられなかったのか。女性の命は本当に救えなかったのか。関係者を訪ね、女性の人生の終盤を追った。【鵜塚健】
暴力や女性器切除から逃れるため日本へ
女性はレリンディス・マイさん。昨年11月16日夜、神奈川県座間市の街道沿いにあるコンビニエンスストアの駐車場で、マイさんはぐったりと一人で座り込んでいた。乳がんから始まり、全身に転移したがんは既に末期で、治療の手立てもなくなり病院を退院した。支援者の一人で、隣接する海老名市の「グレースガーデンチャーチ」牧師、阿部頼義さん(39)が声をかけた。片手には衣服一式が入ったビニール袋、もう片方には薬が入った袋を持ち、「わたし、ホームレスよ」と力なく笑った。退院後、家賃を滞納していたアパートに戻るとかぎが閉められていた。行き場所を失い、友人宅やネットカフェ、ラブホテルを10日間以上、渡り歩いていたという。衰弱した体で、どんな思いで歩いていたのだろうか。
ここまでの経緯をたどりたい。マイさんはアフリカ中部にあるカメルーン北西部の出身。現地の大学を中退し、親族を頼って2004年7月に来日。支援者の話を総合すると、在留資格が切れた後も、コンビニエンスストアや工場などで働きながら生活していた。ところが、2011年3月、オーバーステイが発覚し、東日本入国管理センター(茨城県牛久市・牛久入管)に収容され、一時的に仮放免された。2016年7月に東京出入国在留管理局(東京都港区・品川入管)に再び収容されたが、体調が悪化した2018年2月に2度目の仮放免となった。
マイさんは婚約者からの暴力や女性器切除の慣習から逃れるために母国を出たが、日本に滞在中に出身地の地域情勢が悪化。帰国のめどが立たなくなり、難民認定申請を繰り返した。サッカー強豪国でも知られるカメルーンは、大半がフランス語圏だが、マイさんの出身地域は独立機運が強い英語圏だ。2018年ごろ、双方の対立が深刻化して武力衝突が相次ぎ、多くの国内避難民が出た。
しかし、マイさんは難民認定も在留資格も長く得られなかった。入管から仮放免されても法律上、就労ができず、支援者がいなければ生活はできない。健康保険にも加入できないため、病気になると負担はさらに大きくなる。
がん発覚するも、健康保険なく医療費払えず
国や自治体からの助けが受けられない中、マイさんを支えたのが多くの支援者だった。最初にマイさんと接触したのが、原町田教会(東京都町田市)の牧師、宮島牧人さん(48)だ。2012年、当時牛久市の教会で牧師を務めていた宮島さんは、ボランティアで牛久入管の外国人との面会活動を続けており、マイさんと知り合う。「収容生活で頭が痛い、眠れないとよく訴えていました。『カメルーンには帰れない』とも」
宮島さんは一人前の牧師になる前、横浜市中区寿町の教会でホームレスの人たちの支援をしており、牛久では自然と外国人支援にかかわるように。宮島さんが原町田教会に移った後も、仮放免中のマイさんが度々教会を訪ね、宮島さんの子どもに英語を教えることもあった。
2度目の収容後も、宮島さんは品川入管にマイさんを訪ねた。宮島さんのメモによると、2017年2月時点で「胸が痛い。しこりが気になる」と話していたが、入管側では十分な医療措置を受けることができなかったという。宮島さんは「このままでは病気が悪化する」と入管に強く訴えると、2018年2月に再び仮放免となった。
その後、腹痛を訴えたマイさんは…
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