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分岐点 これからのコロナ対応

オミクロン株「若い人にはかぜ」 コロナ戦略の転換訴える救急医

神奈川県の新型コロナウイルス対策をまとめる阿南英明・医療危機対策統括官=横浜市中区で2021年4月6日午前11時31分、中村紬葵撮影
神奈川県の新型コロナウイルス対策をまとめる阿南英明・医療危機対策統括官=横浜市中区で2021年4月6日午前11時31分、中村紬葵撮影

 3年目を迎えた新型コロナウイルス感染症は、新たな変異株が広がる度に状況も目まぐるしく変化します。医療は感染急拡大に耐えられるのか。いつまで日常生活を制限するのか。先行きが見通せない中、どのような戦略を立てたらよいのでしょうか。専門家らに話を聞くインタビューシリーズ「分岐点」で考えます。

感染者の全員管理 もう限界を超えた

 「重症化リスクのない若い人にとってオミクロン株は『かぜ』だ」。そう言い切るのは救急医で、神奈川県の医療危機対策統括官を務める阿南英明さん(56)。この2年間、新型コロナウイルス感染症に対する同県の先進的な対策の立案を主導し、それを他の自治体や国が取り入れる構図が続いている。1月には厚生労働省の有識者会議のメンバーとして、オミクロン株の特性に合わせた戦略転換を提言した。どのような未来図を描いているのだろうか。【聞き手・原田啓之】

 ――神奈川県の1日あたりの新規感染者数が右肩上がりで伸びています。

 ◆オミクロン株の特性は、ものすごく足が速く、知らないうちに(他人に)うつしてしまうことです。感染したことが分かった人を隔離しても遅いのです。世の中にウイルスを出している人たちがいっぱい歩いている。感染者が増えるのは致し方ないと思います。とはいえ、1月頭の予測よりも(新規感染者数の)上昇が鈍化していて、海外ほどに一気に増えることはありません。粛々と相手に合わせた戦いをしていくことになります。

 ――今後、どのぐらいの拡大を予想していますか。

 ◆(新規感染者数は)今のペースで増えれば、単純計算で何万となりますが、そこまでいかない可能性があります。日本では、医療機関が(新型コロナの新規患者の)「発生届」を出し、保健所が処理したら「感染者数」として扱われます。しかし、オミクロン株の場合、医療機関も保健所も対応が追いつかず、実際の感染者と乖離(かいり)が生じるからです。

 直近のアンケートでは、県内の発熱診療などを行う医療機関の約6割が逼迫(ひっぱく)していると回答していて、患者が外来にかかりにくくなっています。ここで、ふるいにかけられます。発生届を電子(システム)で出す医療機関が半数を超えましたが、「(入力作業が)やりきれないから何とかしてくれ」と言ってきています。(医療機関が発生届を)紙で出して、保健所が(システムへの入力)処理をする場合もありますが、保健所も患者ヒアリングなどの業務がぱんぱんで、対応が追いついていません。

 ――2021年11月に各都道府県が「保健・医療提供体制確保計画」を作りましたが、新規感染者数が想定を超えつつあります。どのぐらいの感染者数に耐えられるのでしょうか。

 ◆オミクロン株の特性を考えなければいけません。(昨夏の「第5波」で主流だった新型コロナの変異株である)デルタ株の時まで行ったような、感染者を全部管理下に置くやり方はもう限界を超えてます。大阪も東京もみんなそうで、もう無理です。新規感染者数が第5波の倍を超えていて、処理できるわけがありません。

 仕組みを変えると対応できる数が増えますが、(オミクロン株では)全て(の感染者)を管理下に置く必要性がありません。もう言い切りますが、(オミクロン株は)肥満や基礎疾患など重症化リスクのない若い人にとって「かぜ」です。全部抱え込もうとするのはもうやめて、小さい子どもたちと年齢の高い方、重症化リスクのある方に注力しましょう。例えば、我々は患者10人まで対応できるとしましょう。患者が増えて20人になったけど、そのうち15人は若くて元気で「かぜ」なので、残り5人をちゃんと管理して治療する。すると、まだ対応できる余裕が生まれるのです。

 2年間のうちに国民に浸透したコロナのイメージが強すぎます。コロナは怖くて、マスクを着けて対応しなきゃいけないんだと。諸外国に比べて日本はきっちりしていて、素晴らしい側面がある一方で、フレキシビリティー(柔軟性)がなくなり、転換するのが難しいと思っています。私がよく言っているのは、「今はオミクロン第1波であり、オミクロン病と戦っています。(今までの)コロナとは別の病気と思ってください」と。イメージのリセットをしたいと思っているんです。

 ――若い人にとって「かぜ」だという理由は。

 ◆コロナで一番問題だったのは肺炎を起こすことですよね。でも、6歳から49歳の病気を持たない人は(オミクロン株に感染しても)肺炎をほとんど起こしていません。

守るべき人を守るシステムに転換を

 ――神奈川の病床使用率が上がっています(2月1日時点で中等症用54%、重症用25%)。このまま感染者が増えた時に緊急事態宣言を出さずに乗り越えられるのでしょうか。もしくは、宣言が必要なのでしょうか。

 ◆まず、病床の逼迫度合いを反映するために(感染状況を示す5段階の)レベルを作ったわけですが、オミクロン株では合わなくなっています。病床使用率の分母を(計画上の最大数である)「最大確保病床」にすると、医療がフルパワーで戦えることが前提になります。ところが、医療者が感染者や濃厚接触者になり欠員だらけで、病床を拡大することができません。私たちは今、(実際に確保できていてすぐに使える)「即応病床」をいつも注視していますが、使用率はだいぶ上がってきて、相当に医療は逼迫しています。

 じゃあ、その対策が「緊急事態宣言」なのでしょうか。オミクロン株の特性からすると、過去の緊急事態宣言くらいの(繁華街などの人出を減らす)人流抑制では感染が止まらず、空振りになるかもしれません。また、「街中を歩いてはいけません」とか「電車に乗ってはいけません」ということではなく、狭い空間でワイワイとならなければ、感染リスクが高いとは言えない。緊急事態宣言の根拠となる(政府の新型コロナ対策の方針を定めた)「基本的対処方針」を、オミクロン株の特性に合わせて作りかえる必要があるのです。保育園、幼稚園、学校の感染拡大も課題です。(休園・休校で)親御さんが働けない問題がすごく大きい。社会機能維持と感染対策の両方が重要で、これについてどうするかを考えないといけません。

 ――どうすればいいのでしょう…

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