ひとりにさせてくれる歌声
突然の寒波に部屋で身を小さくさせながら、ドット・アリソンの新作『Room 7 1/2』を聴いている。遠い異国の地で作られた、どこか浮世離れした音楽。それなのに、不思議と懐かしさも感じている。
ドット・アリソンはスコットランド出身のシンガー・ソング・ライター。91年にワン・ダヴのヴォーカリストとしてデビューし、「White Love」のヒットにより英米でその存在を知らしめた後、99年に『アフター・グロウ』でソロとしてのキャリアをスタートさせている。4作目となる本作は、前作『イグザルテーション・オブ・ラークス』から数えると2年ぶり。これまでのペースを考えると、非常に短いスパンでのリリースとなった。
「曲作りは2004年には始まってたわね。それからだんだん曲がたまってきて、プロデュースされるのを待ってた感じね。そう、私は最近どんどん多作になっているのよ。90年代の頃ほど、遊びに出かけて時間を無駄にしなくなったからね!」
ワン・ダヴの頃からエレクトロニック・サウンドは彼女の楽曲の主軸だったが、作品を重ねる毎に徐々に生演奏の比重が高まっていき、本作においてはもはやエレクトロニカ的要素はほぼ見当たらない。このオーガニックなバンド・サウンドを重視する路線が意識的だったのは、PJハーヴェイとの仕事で知られるロブ・エリスを共同プロデューサーとして迎えた事、そしてそのロブの紹介でバッド・シーズのメンバーをバックに招いた事からも想像に難くない。
「(バッド・シーズのメンバーとのレコーディングは)素晴らしかったわ・・・。彼らの創造力、それにチョイスするサウンドが凄いの。荒涼としたものと美しいものを合わせた感じね。本当に“ゴージャス”としか表現の仕様がないわ。ロブとの経験も素晴らしいものだった。ロブは本当にクリエイティヴなプロデューサーなのよ。お互い似た考えの持ち主だし。」
それでも、彼女の生まれ育ったスコットランドの気候のような、熱量の上がりきらないアンビエントな雰囲気は失われていない。それもこれも、やはり彼女の甘く囁くような歌声がそうさせているのだろう。この作品を通して漂う、どこか寒々しくて幽玄な空気を演出しているのは、他の何でもなく、彼女の声だ。そこに更なる彩りを加えているのが、ゲストとして参加しているポール・ウェラーとピート・ドハーティの二人。特にピートとは、すでに彼の作品でも共作、そしてデュエットを果たしており、親交を深めているようだ。
「彼らの方から声を掛けてくれたの、一緒に仕事をしないかって。一緒に仕事をして、すごく良い勉強になったわ。本当に素晴らしいミュージシャンだし、二人ともアーティスト(芸術家)なのよ。まるで空気自体が芸術で、それを呼吸している感じね。」
「I Wanna Break Your Heart」のよれたアコギの音色は、もう笑ってしまうくらいに、一聴してピートだとわかる。触れると壊れてしまいそうな脆さを孕んでいる両者の掛け合いを聴いていると、この二人が惹かれ合うのも自然と納得させられる。この『Room 7 1/2』というタイトルは「人と人との距離」を意味しているらしい。タイトル・トラックの歌詞に目を通すと、自身を蔑みながら、何度も「ああ、神様」と嘆願している。そしてこの曲に限らず、作品を通して「痛み」を感じさせる言葉が並んでいる。
「(アルバム全体に)もしコンセプトがあるとすれば、愛にまつわる様々な経験を物語ったアルバムにしようと思ったことかしら——それは例えば相互依存や、不倫、喪失、結束といったもの。それにリリック・ライティングの面でもさらに発展させて、とことん追求したいと思ったの。」
ストーリー・テリングを用いながら、どの言葉も生々しさを失わずに彼女の口から発せられる。決してカジュアルな印象は受けない。だが、聴き進む程に、内側から浄化されていくような感覚にさせられる。外はまだ寒い。晴れ間が見えるのもまだ先のようだ。そこでもう一度、彼女の声に身を委ねてみると、こういう時間も悪くないと思えてくる。
(text by 渡辺裕也)
PROFILE
1991年にバンド、ワン・ダヴを結成。「Top of the Pops」に出演し、1993年に全米ダンス・チャート6位まで上りつめた「White Love」でイギリス、アメリカの双方で成功を収める。
1997年、ソロ・アーティストとしてヘヴンリィ・レコードと契約。
高い評価を得たアルバム『アフター・グロウ』をリリースし、アメリカ中のカレッジ・ラジオで1位を記録。アルバムにはマニ・マウンフィールド(ストーン・ローゼズ)、ケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)とのコラボレイションが収録されている。
2000年、マントラ・レコード/ベガーズ・バンケットと契約し、デイヴ・フリッドマンとの共同プロデュースによるアルバム『ウィ・アー・サイエンス』をリリースし、絶賛を浴びる。
2007年、クッキング・ヴァイナル・レコードから、伝説的なクレイマー(ブロンディ、ダニエル・ジョンストン)のプロデュースによるアルバム『イグザルテーション・オブ・ラークス』をリリース。
- official website : http://dotallison.com/
透き通る歌声を持つ女性ヴォーカリスト
バラ色の世界 ep / ACO
2006年に発表したミニ・アルバム「mask」以来、約3年半ぶりに発表するソロ活動復活の第2弾配信シングル! その名も「バラ色の世界」。第1弾「MY DEAREST FRIEND」のカラフル・ポップ・チューンとは打って変わり、シンガー・ソング・ライターACO、渾身のバラッドが遂に完成。
Trust / ツジコノリコ
大好評を得た『SOLO』から1年後に発売されたミニ・アルバム。本作はその『SOLO』からのリミックスに加え、7曲もの新曲・CD未収録曲をおさめたミニ・アルバムとはいえボリュームたっぷりの作品。今までのツジコ作品にはなかったアコースティックな”goopii”や、”pure”からはじまる”opening”は太いビート感漂うインストで、リミックス含めたミニ・アルバムとは言い難いほどの世界観を打ち出す1枚になっている。リミックスをしたアーティストも、デビュー作から爆発的な売り上げを上げたausをはじめとし、精力的な活動を行うMASのリーダー山田達也氏のソロ名義Tyme.、 UAの『泥棒』をはじめとし様々なアーティストのエンジニアを勤める安宅秀行、HEADZのコンピ『weather』やSPEKKのロングセラー・コンピ『small melodies』に参加するRdL、RATNから彼女の作曲などをつとめるPPA、海外からはDamien Shingleton。
合奏/ ハンバートハンバート
9月公開の映画「プール」主題歌原曲「妙なる調べ」、小田急電鉄CM曲「待ち合わせ」を収録。スコットランドのフィドラーズ・ビドを迎えてレコーディングされたこれらの曲はすでにコンサートでは人気曲でファン待望のリリース。SHIBUYA-AXでのワンマン・ライヴも目前、注目の男女デュオ。