凶暴なファズ・ギター、生まれ変わった3ピースのサイケデリアーーTHE ANDS『euphorium』を1週間先行でハイレゾ配信スタート
いよいよTHE ANDSがセカンド・アルバム『Euphorium』をリリースする。いや、この作品はむしろ「2作目のデビュー・アルバム」と呼ぶべきだろうか。2012年にデビュー作『FAB NOISE』をリリースし、順調にそのキャリアを歩み始めたかに思えたTHE ANDS。しかし、その後にフロントマンの磯谷直史をのぞく2人のメンバーが脱退することになり、バンドは突然のリセットを余儀なくされたのだ。早くも試練のときを迎えたTHE ANDSだが、磯谷はそこでバンドの動きを止めることなく、松尾貴教(ベース)と祢津隼(ドラム)を新たに加えて、そのままライヴ活動を継続。演奏を重ねていくなかで新体制の手ごたえをたしかなものとした彼らは、壮大なスケールのバラッド・シングル「Sunny Day」を挟み、ついにここで渾身のフル・アルバムを世に放とうとしている。
新生THE ANDSがどのような変化を遂げたのかは、前作『FAB NOISE』と聴き比べていただければ明らかだろう。まず、バンドの打ちだすグルーヴが一変した。リズムの重心がグッと下がったことでアンサンブルのボトムが強化され、それに引っ張られるようにサウンド全体がビルド・アップされているのだ。軽快なロックンロールを主軸としていた前作と比べて、曲調のレンジも一気にひろがったし、磯谷によるポスト・プロダクションもさらに緻密さを増している。そして、何よりもアルバム終盤に配置されたミドル・テンポのナンバー「Euphoria」「I will」が素晴らしい。相変わらずの凶暴なファズ・ギターを掻き鳴らしながらも、中期ビートルズを思わせるキラキラとしたサイケデリアがまぶしいこの2曲は、生まれ変わったTHE ANDSへの期待を確信に変える、まさに最良の成果だと思う。
さあ、ここからは本人たちに登場していただこう。会心のアルバム『Euphorium』を手にした彼らは今、このバンドへの自信を揺るぎないものとしている。松尾と祢津がバンドに加入してからの変遷を辿りつつ、現在の心境を3人に語ってもらった。
インタヴュー & 文 : 渡辺裕也
「2作目のデビュー・アルバム」と呼ぶべき新作を1週間先行ハイレゾ配信!!
THE ANDS / euphorium
ALAC、FLAC、WAV(24bit/44.1kHz) 単曲 216円 / まとめ購入 1,836円
【収録曲】
1. If You Say So
2. Obbligato
3. Ride On
4. Songster
5. Sunny Day
6. Over The Times
7. Another Phase
8. Euphoria
9. I Will
「絶対にこのバンドをとめたくない!」って
ーー『FAB NOISE』をリリースする際のインタヴューで、磯谷くんはあのアルバムで目指していたものに最も近い作品として、ひとつ例を挙げてくれたんですよ。なんだったか覚えてます?
磯谷 : えーと、なんだったかなぁ。『パブロ・ハニー』?
ーー違います(笑)。スーパーグラスのファースト。ああいうスピード感があるデビュー作にしたいと。
磯谷 : ああ、『アイ・シュド・ココ』か!
ーーでは、今回のアルバムに関してはどうでしょう。前作における『アイ・シュド・ココ』のような作品は何かありましたか。
磯谷 : いや、今回のアルバムに関しては、あまりそういうことは意識しなかったかな。メンバー・チェンジを経て自然にこういう作品が生まれた感じなので、『アイ・シュド・ココ』みたいな上手い形容詞が浮かばない。あと、とにかく必死だったからね。「絶対にこのバンドをとめたくない!」って。
祢津 : それで結果的には立ち止まらずにここまでやってこれたんだから、いま思い返すと順調でしたね。
磯谷 : そうだね。とはいえ、やっぱりバンドはメンバーありきだから、2人がついてきてくれたのは、本当にありがたいよ。
ーーそもそも松尾さんと祢津さんはどういった経緯でTHE ANDSに加入することが決まったんですか。
祢津 : 僕の場合は、磯谷さんとの面識がまったくないところから始まったんです。それまでやっていたバンドが解散して、ドラムを叩く場所を探していた時に、共通の知り合いから「THE ANDSっていうバンドのドラムとベースが抜けることになったらしいから、試しにやってみたら?」と言われて。それで磯谷さんを紹介してもらって、まずは一緒にスタジオに入ってみようと。
磯谷 : 祢津ちゃんは旧体制の頃のライヴも何度か観に来てくれてたんだよね。だから、THE ANDSがどういうバンドなのかは加入前から見えていたと思うし、仮にそこで自分が叩いたらどうなるのかも、想像してくれてたみたいで。
ーーTHE ANDSへのファースト・インプレッションはどんなものだったんですか。
祢津 : ものすごくポップなバンドっていう印象でした。だから、そこで自分がドラムを叩くことになったら、どうしたってイメージが変わるだろうなとは思って。つまり、このバンドのポップな要素を自分のドラムは削っちゃうんじゃないかなって。そういう懸念があったんです。で、本当に削っちゃったんですけど(笑)。
磯谷 : 初めて2人でスタジオに入った段階から、「これは間違いないな」と思ったよ。お互いのことを何も知らない状況で、粗削りではあったけど、感覚としては確かなものがあった。
ーーなるほど。では、松尾さんは?
松尾 : 僕は以前、仙台でバンドをやっていたんですけど、その頃に磯谷さんと対バンしたことがあって。それで東京に出てきてからも、磯谷さんとはちょくちょく一緒にお酒を呑んだりするような仲だったんです。で、その当時やっていたバンドを自分が抜けることになった時期が、ちょうど旧体制のTHE ANDSからメンバー2人が抜けるタイミングと重なって。それで「ちょっと遊んでみようよ」と声かけられたんです。ただ、僕の場合は元々ギターなので、自分がベースをやるってことは、それまでまったく考えたことがなかったんですよね。
ーー本来はギタリストの松尾さんをベースに誘ったことには、なにか思惑があったんですか。
磯谷 : そこは後からついてくるところなんだよね。松尾くんの場合は、もし彼が同じ学校のクラスメイトで隣の席だったら、間違いなくバンドに誘ってたと思うんだよ。「今、ベースがいないからちょっとやってみてよ」みたいな感じでね。バンドが始まるときなんて、だいたいそんな感じだったでしょ? だから、誘った(笑)。
ーーまずは松尾さんとバンドがやりたいと思うのが先で、そこで空いているパートがたまたまベースだったと。
磯谷 : うん、そんな感じ。でも、そこからは「ギタリストの弾くベースってどんなもんだろう?」っていう楽しみができたね。普通のベーシストにはない視点を彼は持っているわけだから、おもしろいことになるかもしれないって。
祢津 : 僕も普通にベースをやってきた人が加わるものだと思っていたから、磯谷さんから「ギタリストでおもしろいやつがいるから、そいつにベースをやらせてみたいんだ」と言われたときは、ちょっとびっくりしましたね(笑)。でも、ベーシスト的な考えの人がいないバンドっていうのも、これはこれでおもしろくなりそうだなと思って。
松尾 : 磯谷さんも僕ができる範囲を最初からわかってくれてたし、いわゆるベーシスト的な演奏を要求されるわけでもなかったから、そこは最初から気楽にやらせてもらえました。とはいえ、一時はさすがにちょっと悩んだこともあって、ベーシストとしてのやり方を自分なりにイチから勉強したり、それらしい弾き方を意識した時期もあるんですけどね。今回のアルバムを録るにあたっては、そこからまた自分らしいプレイに戻ってこれた感じがしています。どうしてもフレーズとかはでしゃばっちゃうんで(笑)。
ーーそこはギタリストとしての感性が顔を出すんですね。
松尾 : そうそう(笑)。たまに「それはちょっとやりすぎじゃない?」とは言われますけど、そこも含めて2人はおもしろがってくれるので、楽しくやれてます。
ここから自分たちがどんな音楽をつくっていくかの方がずっと大事
ーーかなり順調な滑り出しだったと。とはいえ、当時のTHE ANDSは旧体制でファースト・アルバムを出したあとだったわけで、メンバーが入れ代わってもバンドのストーリーは引き継いでいるわけじゃないですか。そのへんは意識されませんでしたか。
磯谷 : メンバーが入れ代わったのは結成から一年後くらいの時期だったので、バンドとしてそこまで仕上がっているとは思ってなかったんですよ。だから、まだいくらでもやり直せる思ったんです。ひとつ懸念があったとすれば、既存の曲を演奏することに関して、新たに加わった2人がどう捉えるかってこと。当たり前だけど、同じ曲を同アレンジでやっても、演奏者が変われば別モノになるからね。
松尾 : そこに関しては、僕はけっこうすんなりと受け入れられましたね。わりと天邪鬼な性格なので、前のメンバーと同じことをやっても意味がないと思ってたし。そもそもそれまでのTHE ANDSと音が変わるのは当然だから。
ーー今までのTHE ANDSを無理に踏襲しようとはあまり考えなかったと。
松尾 : うーん。頭ではいろいろ考えたかもしれないけど、それはやっぱり頭のなかだけで終わっちゃってたと思います(笑)。どうしたって僕が弾く音になるんだから。
祢津 : 僕も前任者の真似したところで、同じようなニュアンスは出せないと思ってました。自分はどうしても感情的にドラムを叩いてしまう方なので、同じフレーズを叩いても、どうしたって同じようにならないというか。だから、それまでのフレーズはなんとか残しつつ、ビートでうまく自分の色を出せればと思ってました。
磯谷 : 今の自分たちは過去に残したものと対象物として比べられるからね。そればっかりはどうしても避けられない。だからこそ、新しいことを始めるときは過去をすべて捨てるくらいの勇気がないといけないんじゃないかな。それこそお客さんがゼロになってもいい、くらいの覚悟が。過去に残したものをどうするかより、ここから自分たちがどんな音楽をつくっていくかの方がずっと大事だし。
ーーなるほど。では、前任のふたりが抜けた段階で、磯谷くんがTHE ANDSではないバンドで仕切り直そうと考えたことはなかったんでしょうか。それとも、あくまでもTHE ANDSというバンドを続けることが重要だった?
磯谷 : それしかなかったかな。僕はTHE ANDSのこれからのことしか考えてなかったからね。それに、一度組んだバンドを簡単に辞めちゃうと、そういう癖がついちゃうと思うんだよ。バンドなんていくつも組むものじゃないよ。
ーー実際、あそこで続けると決めたからこそ、今のTHE ANDSがあるわけですからね。
磯谷 : こうしていま3人で作っている音楽にとても満足しているんだ。本当に楽しいし、思い描いてきた理想の音楽に近づいているのを実感してる。歳はとって肉体は衰えていくのかもしれないけど、音楽はどんどん豊かになっているんだよね。
こういう作品がつくれたときに、ようやく生きた心地がする
ーーまさにそれが今回のアルバムには表れていますよね。以前のTHE ANDSはショートレンジの曲をどんどんつないでいく感じだったけど、このアルバムはビートがものすごくヘヴィだし、なかでも5分くらいのミドル・チューンがすごくいいなと思って。
磯谷 : うん、以前よりも筋肉質なサウンドになったと思う。ただ、サウンドがマッチョになったからといって、バンドのキャッチーな側面は何ひとつ失われてないと思うんだ。曲を聴いてもらって、リリックややリズム、フレーズが人の胸に響けばそれでOKだと思ってる。ローリング・ストーンズみたいに、キースのギター白玉一音で何万人が沸き上がるようなバンドっているでしょ?そういうものになりたいんだよね。やりたいことは昔からずっと変わってないんだ。
ーーなるほど。では、現体制のTHE ANDSがこのアルバムの方向性を掴むきっかけとなった曲をひとつ挙げるとしたら、それはどの曲になりますか。
磯谷 : ひとつは難しいなぁ(笑)。「Obbligato」と「Songster」かな。そのふたつは大きかった。でも、さっきのミドルチューンの話を踏まえると、「Euphoria」か「I will」と答えた方がいい?
ーーそこは正直に答えてもらえればいいです(笑)。でも、たしかに僕は「Euphoria」か「I will」の2曲だと思ってた。
祢津 : 僕はまさにその2曲ですね。ああいう曲でバンドのふり幅を見せられるところが、今のTHE ANDSらしさじゃないかな。
磯谷 : 確かにそういう見かたもあるね。でも、作者として言えることだけど、その2曲は「Obbligato」と「Songster」を作れたから書けた曲でもあるんだよ。
祢津 : それくらいに個々のキャラクターがしっかりしたアルバムが作れたのは、すごく良かったと思ってます。このアルバムがつくれたおかげで、もう次に向けたイメージも頭の中に広がってきているから。
磯谷 : しかもこれは実験的な姿勢でやった結果じゃなく、自然に生まれたサウンドだからね。バンドって不思議だよ。
ーーなんか、もうバッチリじゃないですか。
磯谷 : もちろんバンド運営する上での悩みは尽きないけど、こうして音楽家でいれる事はとっても幸せなことだからね。ここで暗い話をし始めたら、そりゃいくらでも出てくるよ(笑)。でも、それはみんな一緒じゃない? ミュージシャンに限らず、サラリーマンだってさ。一生戦いでしょ。僕たちの場合はこういう作品がつくれたときに、ようやく生きた心地がするわけでさ。あとはツアーをしてこのアルバムをたくさんの人に届けたい。そしてまた3人でおもしろい音楽をたくさんつくりたい。そういう漠然とした気持ちさえあれば、いつまでもこのバンドをやっていけると思うんだ。
THE ANDSの過去作はこちら
THE ANDS / Sunny Day (24bit/48kHz)
新メンバー松尾貴教(Ba)、祢津隼人加入後、初となる音源『Sunny Day』をリリース。ライヴ会場販売と配信限定の発売により、来年のアルバム発売への弾みとしたいところ。より極太で新たなグルーヴを握りしめたTHE ANDSの新たなスタート。
THE ANDS / FAB NOISE
20THE ANDS結成後、突如ミニ・アルバム『ONE』を発売し、その後も自主企画やコンピレーション・アルバムへの参加を果たしてきた彼らが、満を持してファースト・アルバム『FAB NOISE』を完成させた。1曲平均3分以下、全ての無駄を削ぎ落としたシンプルでソリッドな直系サウンド計12曲35分。60年代のブリティッシュ・ロック、90年代のオルタナティヴ・ロックやブリット・ポップをバックグラウンドにあげる彼らがミュージシャンとして築いてきた経験値はそのままに、ぶつかりあうサウンドは新鮮な衝撃に満ちている。また、今作は磯谷の故郷である福島に拠点を置くレーベルNomadic Recordsからのリリース。サウンドのみならず、意識面でも原点回帰した作品。
THE ANDS / ONE
磯谷直史(monokuro)、朱雀佑輝(NANANINE)、大坪徹志(hare-brained unity)による新プロジェクトTHE ANDS(ジ・アンズ)。60年代ブリティッシュ・ロック、90年代オルタナティブ・ロックをバックグラウンドにもつ彼等が、ファースト・セッション音源をドロップ。今この瞬間を詰め込んだ、清々しいダイナミクスに溢れた一枚!
LIVE SCHEDULE
THE ANDS "euphorium" RELEASE TOUR
2014年12月4日(木)@大阪心斎橋Pangea
出演 : THE ANDS / THE TEENAGE KISSERS / カッパマイナス / NOTHINGNESS
2014年12月5日(金)名古屋CLUB ROCK'N'ROLL
出演 : THE ANDS / THE TEENAGE KISSERS / 33 Insanity’sVertebra / NeoN / RAT
2014年12月13日(土)新星堂 カルチェ5仙台店(インストア・フリー・ライヴ)
出演 : THE ANDS
2014年12月13日(土)仙台FLYING SON
出演 : THE ANDS / DEADMANS / THE PEROPETS / Dahlia / Donald Fauntleroy Duck / neutral
2014年12月14日(日)新星堂 エスパル福島店(インストア・フリー・ライヴ)
出演 : THE ANDS
2014年12月14日(日)@福島Out Line
出演 : THE ANDS / 佐藤漂白剤 / 地底人 / アブラボウズ / and more...
THE ANDS "euphorium" RELEASE TOUR FINAL ワンマン
2014年12月20日(土)@新宿Motion(ワンマン)
出演 : THE ANDS
PROFILE
THE ANDS
Vo&Gt 磯谷が中心となり2011年結成。彼のバックグラウンドである60年代ブリティッシュ・ロック、90年代オルタナティブ・ロック直系サウンドと繊細なコーラス・ワークが持ち味の3ピース・バンド。これまでに、avex内ロック・レーベルbinyl recordsコンピ『WHAT ABOUT US?』、配信サイトOTOTOY主催日本復興コンピ『PLAY FOR JAPAN 2012』などに参加。2012年にガレージ・リヴァイバルとも言えるデビュー・アルバム「FAB NOISE」をACIDMAN, theARROWSを輩出したレーベルNomadic Recordsよりリリース。ふくしまFM、MID-FM、奥州FMのパワープッシュ・ソングに選ばれる。2013年に新メンバーBa松尾、Dr 祢津が加入。初のバラード・シングル「Sunny Day」をリリース。その後も精力的なライヴ活動とスタジオ・セッションを重ね、ニュー・アルバム『Euphorium』が完成。2014年12月リリース。