■自在化身体論
稲見昌彦さんほか著「自在化身体論」。
東京大学先端研のわがボス、そして超人スポーツ協会で共同代表を務める稲見教授が率いる「稲見自在化身体プロジェクト」。
身体情報学のもとに集う、脳科学、心理学、情報工学、機械工学、メディアデザイン学の若き学者たちによる自己紹介、引き込まれます。
近代に入り移動、生産、情報の技術が発展した。稲見さんは「脱身体化」「苦役からの解放」という。
そう、そしてさらなるテクノロジーでぼくは「超ヒマ社会」が来ると考える。
でも稲見さんは次は「自在化身体」だという。
ロボットやアバターを自己化するとともに、身体をサイボーグ・ロボット化すると。
自在化とは「機械によって拡張された能力を、人が自由自在に扱えること」としている。
体に第3・第4の腕を装着する「MetaLimbs」を見たことがある人はすぐイメージがつかめよう。
それをリアル空間・バーチャル空間に拡張し、分散し、共有する。
プロジェクトには5つの研究テーマがある。
1.感覚の強化(超感覚)
2.物理身体の強化(超身体)
3.心と身体を分離して設計(幽体離脱・変身)
4.分身
5.合体
稲見さんの前著にはSF、ポップカルチャーが満載で、その系譜だ。
ブログ「スーパーヒューマン誕生!」
http://ichiyanakamura.blogspot.com/2016/12/blog-post_93.html
「サイバー空間とフィジカル空間を縦横無尽に渡り歩き、超人的な能力を自由自在に操る人」=「ディジタルサイボーグ」を実現する基礎技術の確立がプロジェクトのゴール。
MITネグロポンテ「ビットとアトムの結合」を身体に引き戻す。これぞ「新人類」の誕生。
このため、「心と身体を分離して設計(幽体離脱・変身)」するという。
人のハードとソフトを分離してレイヤ別に脱構築する。
そして外の身体=ロボット・アバターを自分として操りつつ、機械を身につけて自分と感じるようにする。
遠くにいるロボット・アバターに自分の行動を自動化技術で引き継がせる。
リアルなロボットやバーチャルなアバターを、オートマとマニュアルを切り替えつつ、一つの自分と行き来して操る。
リアル+バーチャルのNか所でN個の身体を持つことになる。
稲見さんはXEROXマーク・ワイザーが唱えた機械の偏在=ユビキタス・コンピューティングをなぞらえ「意識の偏在」を説く。
意識や身体の偏在、つまり自己の偏在。地球征服の欲求をかきたてる。
他方それは、他者による自己の支配や共有も見据えることになる。
多くの者がひとつのみこしをかつぐような「合体」も研究テーマだ。
身体を他人やAIと共有する可能性も議論され、身につけたロボットアームを他者が操縦する実験なども進められている。
自分のモノや身体をシェアリングで拡張することも言及されている。
行動はデジタル化される。データとして分散され、共有される。地球規模で。
大衆が誘導されたり、自分が支配・管理されたりする可能性もある。
計り知れないインパクト。
本書に登場する学術領域をピックアップすると、機械工学、情報工学、制御工学、脳科学、神経科学、心理学、生理学、救急医学。そして東大・瓜生大輔さんの美学、倫理学、文化人類学。
研究は「中間点」だが、自己の分散・共有まで含む社会実装を想定すると、さらに、哲学(自己とは)、経済学(生産量、雇用、分配)、法学(表現自由・公規制)も要求される。
ワクワクします。
MITネグロポンテのビット・アトム結合を理解するためMITメディアラボで2年がかりで勉強し調査しインタビューして「デジタルのおもちゃ箱」を上梓したのが20年前。
次はそれくらい自在化身体論に突っ込んでみたい、そう思わせる、衝撃の書であります。
ところで。ついでに報告します。
先日、京都、大雨。
四条河原町を歩くと、フラつく。
へたりこみました。立てない。
約束で合流した親類が119し、初救急車。
救急士さんと。
この指何本? 1本。
これは? 4本。
これは何? This is a pen(初めて使った)。
病院についた。
お医者さん。
この指何本? 1本。
これは? 4本。
これは何? This is a pen(人生2回め)。
血ィ抜いて、心電図、CT撮って、点滴もろて、しのごの、
ぜんぶ異状なし、耳(三半規管)ちゃうかな、という診断。
どうやら超低気圧と加齢のせいらしく。
頭ハッキリしてて体うごかず、ハード・ソフト分離。
ひとごとじゃない、自分にも起きることなんだ。
これを意図してコントロールできればよいのだが。
三半規管に外部刺激を与えて人の動きを操る実験を見たことがあります。
そうか、あれは自分ごとだったのか。
技術と身体の融合、関わってまいりたく存じます。