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2019年5月30日木曜日

CANVASを柱とする吉本☓NTTの超教育事業

■CANVASを柱とする吉本NTTの超教育事業

吉本興業・NTT・クールジャパン機構による超教育配信プラットフォーム「ラフ&ピース マザー」。
ネットフリックスやアマゾンのような海外向けプラットフォームができなかった日本が、教育という分野で挑戦する。
しかも国策ファンドから100億円の出資を得て。えらいことです。

そのコンテンツはぼくらが17年やってきたCANVASの創造力・表現力学習、遊んで学ぶ、を基にするとされました。
ぼくらデジタルキッズの活動が17年を経て、ようやくNTTなど大人に認知され、100億円の値がついた、ということでしょう。

PCでアニメやゲームを作る。プログラミングでロボットを作る。
デジカメやウェブで町のCMを作って発信する。
未来のクルマや未来の学校を設計する。
みんなで、つながって。
各種ワークショップを集めた「ワークショップコレクション」は、2日で10万人が集まる世界最大の子ども創作イベントに育ちました。

課外ワークショップはできる。
でも学校の壁は厚い。
だから教科書をデジタルにしよう。
デジタル教科書教材協議会DiTTを作り、抵抗勢力とドンパチやって8年、昨年ようやく法律が改正され、デジタル教科書の制度が実現しました。
プログラミング教育の必修化も決まりました。

でも課題は2つ。
活動を進めるための資金的な裏づけ。ぼくらはおカネとは無縁でした。赤字赤字赤字赤字。
そして海外展開。国内の制度や空気を換えるのにヒイヒイ言ってました。
だけど、学校への導入という山を超えたので、次を設計するタイミングでした。

しかも、テクノロジーが新時代を迎えました。
デジタル(PC+ネット)からスマート(スマホ+ソーシャル)、そしてAI+IoTの超スマートへ。
教育も「超教育」が求められるタイミング。
これを進める母体として「超教育協会」という団体も去年設立され、4月からDiTTも合流しました。

そこでプラットフォーム「ラフ&ピース マザー」の発足です。
100億円という資金的裏付けと、海外展開という、2大課題をクリアする取組が始まることとなったのは、流れ上、必然ではないかと感じています。

リーダー石戸奈々子さん(CANVAS理事長、超教育協会理事長、慶應義塾大学教授)「世界中の多様な価値観、文化の人と協働しながら新しい価値を作る力。新しい技術を使った思考・想像型の教育。おもしろく楽しく学ぶ、自分のやりたい、なりたいを大事にすることを、このプラットフォームで実現したい。」

始まりは、ぼくが石戸さんを吉本の大崎社長(現会長)に紹介したこと。
CANVASと吉本は実に相性がいい。
実はCANVAS創設に当たり最初に相談したのが吉本興業なのです。
漫才ワークショップをやってほしいというお願いでした。
ドツいて人を笑わせる高度なコミュニケーションをモデル化し、輸出したい。

これまでワークショップには、ペナルティ、トータルテンボス、レーザーラモン、くまだまさし、2700、天竺鼠、鉄拳、さまざまな芸人が参加し、さすが天才集団、親和性の高さを立証してくれています。
6000人の芸人が寄り合って才能を発揮するNPOのようなものなのです吉本は。

「吉本は教育の会社になる」と明言する大崎会長。
ぼくはもともと吉本は他に行きどころがない連中を芸人になるという催眠術にかけて鍛え上げる教育企業だと見ていますが、それをいよいよ外に力を発揮するビジネスに換えるということでしょう。そこでCANVASに目をつけた。

大崎会長は石戸さんに「CAVASちょうだい」って言ったら石戸さんが「いいですよ」と即答したという。
大親分同士というのは、そういうものなのでしょう。
既に2019年3月には新宿の小学校跡地にある吉本本社でもワークショップコレクションを開いています。

CANVASの知見を基に、全国47都道府県にいる吉本「住みます芸人」を動員して、ワークショップを開いていく計画もあります。そのための常設施設を設ける計画も。
世界中のチルドレンズ・ミュージアムを巡り、日本にないことを嘆いてきましたが、ようやくアクションが起こせそうです。

MITでプログラミングなどデジタルキッズ活動と関わり、創造・表現のSTEAMは日本の子どもたちのほうが刺激的なアウトプットを出すと考え、日本でワークショップやデジタル教育を推進するようになって17年。
やっと認知されるところまで来たと感じています。

ワークショップコレクションの会場として使っていた慶應義塾大学からは、人数が多すぎるなどを理由に追い出され頭を抱えていましたが、国を含めこうして理解を示す大人や、ホスト役を買って出る九州大学など理解者も広がり、ようやく次のステージです。

そして令和。
テクノロジーも刷新です。
NTT澤田社長が言うとおり、5GにAR、AIにIoT。
この30年、教育はテクノロジーから距離を取ってきました。
ですが本来、教育とテクノロジーは近い。
「マザー」を母体に、教育テック=超教育を進めたいと考えます。

2019年5月27日月曜日

吉本とNTT、超教育プラットフォームを構築へ


■吉本とNTT、超教育プラットフォームを構築へ


吉本興業とNTTが教育コンテンツなどを発信する事業「ラフ&ピース マザー」を始めると、「第11回沖縄国際映画祭」を開催中の那覇市で発表しました。
政府系ファンドのクールジャパン機構が100億円を出資します。

この事業は「遊びと学び」をコンセプトに、教育コンテンツやアプリを制作・配信することと、バーチャルなコンテンツ、アプリをリアルに体感できるアトラクション施設を設置すること、つまりバーチャルとリアルの双方を進めます。
事業開始は礼和元年10月を目指します。



記者会見には、吉本興業大崎会長、NTT澤田社長、クールジャパン機構北川社長の3人が登壇。 
同僚の石戸奈々子さん、NHK「チコちゃんに叱られる!」などで知られる伝説のテレビプロデューサー小松純也さんらも登場し、ぼくと木佐彩子さんがモデレートしました。

冒頭「日本を牛耳るお三方が、東京を離れて、沖縄でというのは、ただならぬ会見です」と申し上げました。
吉本NTTという異例のタッグによる教育デジタル世界という挑戦を国が100億円で応援。
東京で会見を開いたらスゴいざわつきだったでしょう。

100年間、小屋やテレビのアナログでエンタメを作ってきた吉本は、いまデジタル+地方創生+海外展開に舵を切るとともに、教育やソーシャルという「公益」領域で第二創業を立ち上げています。
吉本興業の興業は業を興すと書きますが、また新たな業を興すということです。

もともと吉本は教育企業だったのです。
大崎洋会長「吉本は全員がビリギャルみたいなもん。ぼくも含めてダメダメ人間の集まり。だから、いろんな人たちのお世話をするというのがベース。ひとりひとりの子供が、自分で考えて、強く生きる力を持つための新しい学びが必要だ。」
言葉に力があります。

大崎会長はネットフリックスやアマゾンとコンテンツ制作で協働しながら、対抗する国産プラットフォームを模索してきた。
そして教育という国内の放送局と対立しないジャンルに目をつけた。
非上場化からデジタルへのシフトの社長10年を経て、4月から会長となった大崎さんの大勝負が今回の「マザー」。

日本で一番やわらかい吉本が、一番硬いNTTと組むというのは大事件。
でも教育コンテンツやアジア市場という未開の領域に切り込むにはいい座組です。
NTT澤田純社長「現代の教育はよくできる子には物足りない、遅れる子には冷たい。ひとりひとりに対してのパーソナルコンテンツの基盤ができるのではないか」。

「5Gの電波割当が行われました。新しい通信サービスに乗る新種のコンテンツとして期待できそう。
そしてNTTは研究所で世界最高の面白い技術を開発しています。その技術のショウケースとしてもこのプラットフォームは期待できる。」
ぼくは会見でそう紹介しました。

そしてクールジャパン機構による海外展開の後押しです。
ソニー・ミュージックCEOとしてコンテンツ事業を知り尽くしている北川さんが、今度は機構のトップとして事業を後押し。
「新しい見方で遊びと学びを考え世界に届ける。響く可能性がある。誰もやったことがない仕事。応援する。」

このお三方が組んで打ち出す教育コンテンツが肝心です。
教育といっても勉強ではない。「遊びと学び」。
大崎さんは「CANVASで行く」と明言しています。
ぼくらのNPO CANVASが培ってきた、子どもの創造力と表現力を高めるワークショップ活動を軸に据えます。従来の教育へのアンチテーゼでもあります。

教育内容の方向付けはCANVAS理事長の石戸奈々子さん。
石戸さんは昨年、教育テクノロジーを開拓するネットワーク「超教育協会」も立ち上げ代表に就任しました。
先進教育に先端技術をかけ合わせ、壁を破る。
今回の件は、そのパンクな運動に、アプリ化、配信、資金という肉がついたものです。

それを映像化するのが小松純也さん。
フジテレビの伝説的なヒット番組を作り続け、NHKのチコちゃんに叱られる!という国民番組も作られた小松さんが、独立して最初に仕掛けるのがこのネット・プラットフォームというのも大事件です。
教育やテクノロジーをどう料理されるか、注目!

吉本NTTクールジャパン機構。超教育デジタル世界。
平成にしこしこと育ててきたうねりが、令和の訪れとともに形を伴って爆発する気配です。
大崎さん「竜巻のように巻き込んでいく。」
巻き込まれたみなさん、その渦を爆発させましょう。

2019年5月23日木曜日

海賊版総合対策、議論大詰め

■海賊版総合対策、議論大詰め


知財本部の海賊版タスクフォースはとりまとめができませんでしたが、その議論を踏まえつつ、政府のアクションプランである知財計画に反映させるため、検証評価企画委員会で議論を続けています。
その区切りとなる会議が持たれました。

前回の会議で、総合対策メニューが提案されました。
以下の3点、ブロッキングを除き10項目。


1:できることから直ちに実施。
 著作権教育・意識啓発、正規版流通の促進、対策組織の設置、国際連携・執行の強化、検索サイト対策、広告出稿対策、フィルタリング、アクセス警告方式。

2:導入・法案提出に向けて準備。
 アクセス警告方式、リーチサイト対策、権利侵害静止画ダウンロード違法化。

3:他の取り組みの効果や被害状況等を見ながら検討
 ブロッキング。

これについて関係者のヒアリングを実施しました。
まず集英社の鈴木常務。
正規版配信「MANGA Plus」について報告いただきました。
2019年1月、ONE PIECEなど人気作を含め170か国に日本と同時で無料広告配信。
この正規版強化が第一の対策ですよね。

日本漫画家協会から里中満智子理事長名で意見が提出されました。
まずは正規版の充実、広告出稿規制、リーチサイト規制。
違法範囲が適切に設定されたうえでのダウンロード規制の模索、アップロードの重点的な取締。
うなづける内容です。

その上で「海賊版を無くそうとする、その目標が一つである以上、必ず理想的な対策方法が生まれてくると、信じて疑いません。」としています。
里中先生の肉声が響くような文章です。
意を強くする次第です。

会議に出席された赤松健さんは「ダウンロード違法化が対立構造で報じられたが、対策には感謝している」とし、リーチサイト対策はぜひお願いするが、ダウンロード違法化の規制範囲を制限すべきこと、アクセス警告方式やブロッキングには懸念があることを指摘しました。

全国消費者団体連合会も意見を提出しました。
「直ちに実施」とされた施策を着実に実施するとともに、「まずは海賊版サイトの開設者・運営者への取り締まりを徹底することが重要」。同意します。併せて「サイバー事件の操作を専門的に担当する国家機関の設置も検討すべき」とします。

これに対し、「通信の秘密に抵触するような施策の導入は、慎重であるべき」とし、ブロッキング導入への反対を表明するとともに、アクセス警告方式はブロッキングと同様の考え方に基づく手法であること、ダウンロード違法化は海賊版対策に必要な範囲に限定すべきことを指摘しています。

弁護士の藤原さんは、思考停止せずブロッキングの議論も続けるべきとしつつ、ダウンロード違法化に関しては、音楽・映像のダウンロード違法化を導入した経緯を踏まえつつ、「民事上にとどめる手もある」という新しい提案を示しました。

川上量生委員は、アクセス警告方式を進める政府方針に改めて異を唱え、総務省との応酬がありました。
まだ整理が必要なようです。

ただ、正規版、教育、国際連携、リーチサイト対策など、おおむね方向性と優先順位は一致をみた模様です。

この件、本ラウンドはここまで。
知財計画に向け整理します。

2019年5月20日月曜日

海賊版対策10項目、なお審議中。

海賊版対策10項目、なお審議中。


知財本部 検証評価企画委員会にて海賊版対策の状況を議論しました。
政府・緊急対策の発表から1年。
タスクフォースでは意見とりまとめができなかったのですが、そこで話された事項をもとに事務局が総合対策メニューの案を提出しました。3層立てです。

1:できることから直ちに実施。
著作権教育・意識啓発、正規版流通の促進、対策組織の設置、国際連携・執行の強化、検索サイト対策、広告出稿対策、フィルタリング、アクセス警告方式。

2:導入・法案提出に向けて準備。
アクセス警告方式、リーチサイト対策、権利侵害静止画ダウンロード違法化。

3:他の取り組みの効果や被害状況等を見ながら検討
ブロッキング。


以上(ブロッキングを除く)10項目。

その上で、(ブロッキングを除く)10項目について、2019年度の前半・後半に実施する事項と担当省庁を明確にし、それを知財計画2019に反映させる、という段取りです。

リーチサイト対策と権利侵害静止画ダウンロード違法化を含む著作権法改正は、文化審議会も議論が紛糾し、自民党との調整もつかず、文化庁は法案提出を見送りました。これに関しては「国民の皆様の声を丁寧に伺いながら引き続き法案提出に向けた準備を進める」と記述されています。

これに関し竹宮恵子さんは、「大きな網かけ」の恐れを主張したのであって、法制化自体が問題なのではないとコメント。そうですね。著作権法改正に遅れが生ずるのは残念ですが、仕切り直して早急によい着地点に収めてもらいたい。

ブロッキングもダウンロード違法化も、高度な難問で、会議が意見が割れるのはまっとうなことだと考えます。行政の意向に立法が待ったをかけるのも民主主義として正統です。知財とITを巡る問題に、正規の解決手法へぼくらがまだ到達していない。しばし高速な試行錯誤を続ける、その覚悟が必要かと。

EUは昨年12月、悪質とされる海賊版のウォッチリストとして、クラウドフレア社を含む社名を公開。2月には教育目的でのデジタル利用の権利制限、プラットフォームのコンテンツ権利者からの許諾取得義務などを内容とする著作権指令案に合意。動きを高めていることを事務局が報告しました。重要です。

総務省からは、青少年インターネット環境整備法の改正に基づくフィルタリング対策について説明。ぼくが主査を務める青少年安心・安全ネットタスクフォースでも議論をしており、海賊版対策とも連携して進める予定です。また、通信業界と権利者との協力関係を築くよう働きかけていると報告がありました。

福井健策さんから、通信と出版の有志十数社が参加し、対策協議の場を立ち上げたという報告がありました。タスクフォースでヒビ割れを見せた関係を修復し前進できるか。民間の対応が求められています。この融和に汗をかく各位の努力に頭が下がります。これを総務省もバックアップするとのことです。

瀬尾太一さんは、タスクフォースでの議論が長引いたため文化庁は苦しかったと同情しつつ、出版業界がより危機感を表明し、マンガ家と出版社が連携すべきことを説きました。民間の対応へのハッパです。

アクセス警告方式は意見が割れました。マルウェア対策などの実績を踏まえ進めるべしとする林いづみさんに対し、川上量生さんは「法制度を前提としない仕組はネットの自由を侵す恐れがあるのに、ブロッキングが監視社会をもたらすと反対した総務省が推すののは不可解」と反対しました。

話は教育に及びます。宮島香澄さんは、根本は国民の意識であり、著作権教育を強化すべしと強調。堀義貴さんは、自分に被害がないものを教育するのは難しいが、音楽は不当コピーで産業規模が半減したのであり、海賊版を作る人だけでなく見る人が悪いということを明確に教育に入れるべき、としました。

コンテンツ海外流通促進機構CODA後藤代表理事から、一時的に海賊版サイトが閉鎖されたがセッションは上昇傾向に転じていて、アクセスの過半数が日本から行われているという事例や、日本の放送番組を無料で視聴できる不正ストリーミング機器の事例、5Gの危険性などを報告しました。

林さんは海賊版対策の現状を憂うべきだとします。結局、実効的な対策は進んだのか?あと何年かかるのか。議論でなく、いつまでに実効対策とするのかが重要だ、と。
同意します。合意できるところは握り、早急にアクションに移す。知財計画の策定に力を込めながらも、動ける案件は動いていきましょう。

瀬尾さんからは、タスクフォースで意見とりまとめがなされなかったことに改めて遺憾の表明がありました。制度化を進める上での正しい手順が壊れる危険があるとの表明です。
これに関しては座長への警鐘としても受け止め、まずは1年がかりの本件への答案を仕上げてまいります。

2019年5月16日木曜日

ずばり東京。

■ずばり東京。

開高健「ずばり東京」。

1963年から64年にかけて1年半、週刊朝日に連載されたルポ40話。
東京五輪の前夜、怒声と煙に沸き返る盛り場、槌音高らかな建設現場、静かなる昼下がりの畑。
東京が脈動している。
なまめかしくも、筋肉をみせびらかす、若い東京が。
なんとも魅力的な半世紀前の都市。

闇に湿った場末と、ぎらぎら容赦ないお天道さま。
安化粧まみれの女、戦後20年立ち直れない老人、上京まもなくして夢をすり減らした工員。
新宿の深夜喫茶、後楽園の運転手、晴海の解体屋、錦糸町の交通裁判所。
練馬の百姓、ああ上野駅、神宮の屋台。
田舎者の聖地。権力者の闘技場。欲望の交差点。

佃島の渡船場は自殺の名所。
家康が摂津の漁師を連れてきて開いたので、地元ことばは「けつかる」大阪弁だ。
もうそんな佃島はない。半世紀前は、江戸があった。
浅草の演歌師は「日清談判破裂して」を歌う。
都内には1000人の流しがいた。カラオケで失せた。
隅田川向こうの紙芝居。テレビで失せた。

文京公会堂で開かれた自民党総裁選。
池田、河野、川島、三木、佐藤、藤山、岸、福田、石井という派閥乱立期。
カネをもらった派閥の数を表す生一本、ニッカ、サントリー、オールドパーなる用語が生まれた。
二世でない官僚派・党人派の叩き上げがむきだしの権力抗争を繰り広げた、エンタメ。

トルコ風呂編でトルコ協会名誉会長・大野伴睦が登場する。
まんまん中にも切り込む割に、登場する政治はそんな具合にどこか間抜けで、あくまで東京の主役は、泥まみれの市井であり、酒とネオン、工員服に馬券、満員電車と落とし物たち。

愛すべき東京は今も変わらない。

銀座。「首都の中心部にこれだけ広く濃密に酒場と料理店だけが集う例はない。」
今も変わらない。
「東京には中心がない。この都は多頭多足である。いたるところに関節があり、その関節にも心臓がある。」
今も変わらない。
むしろ節足度は増している。

いや東京は東京タワーという中心を得た。
タワーから、東京プリンスホテルの建設現場で粗末なノリ弁を食うニコヨン(死語)のおばさんを見下すシーン。
モスラ、キングギドラ、ガメラ、ガラモン、次々に壊されたが建て直した。
電波塔の役割はスカイツリーに譲ったが、今も睥睨する。

満を持して1964年10月10日「超世の慶事でござる」東京五輪開会式がルポされる。
下から上まで、東京タワーから整備率2割の下水道まで、顔と顔を舐め回したあと、万国旗はためく千駄ヶ谷の競技場、7万人の観客と万国の超人の集いが描かれる。見事。 

黛敏郎作曲の電子音楽が「ぶおっ、ぶおっ、古井戸に石を投げてるようなぐあい」に流れる中、選手入場。
「松脂入りぶどう酒のうまいぎりしゃ、羊の串焙りのうまいあふがにすたん、肉団子のあるじぇりあ」に始まり、「なんでも食べる日本選手団」まで。
このかたらしい。

開高さんはこう記す。長文だが引用する。
「東京は日本ではないと外人にいわれるたびに私は、いや、東京こそはまぎれもなく日本なのであると答えることにしている。都には国のすべての要素が集結しているのだ。」
「ものの考えかた、感じかた、職種、料理、下劣、気品、名声ある変化の達人の知的俗物、無名の忍耐強い聖者たち、個人的清潔と集団的汚濁、繁栄と貧困、ナポレオン・コニャックとラーメン、絶望と活力、ありとあらゆるものがここに渦巻いている。」

成長期を経て、東京はTOKIOに背伸びしていたら、バブルで凹み、落ち込んでいたら、気がつけばクールジャパンとやらで、創造的都市とあがめられ、インバウンドに賑わう。戸惑う東京。

心の準備も体の手入れも間に合わぬまま次の五輪を迎える。
どうしよう。
だけどそれは前回の五輪を迎える先輩方も同様だったと思われる。
本書は五輪がどこか絵空事で、だけど日々のリアリティーの真ん中に降り立つ巨大な塔として描かれる。

「私はこの都を主人公にして一つの小説を書こうとも考えて探訪しつづけてきたのである。」
この試みは成就した。
テレビの時代、ネットの時代を経て迎える次の五輪は、どんな描き手が紡いでくれるだろう。
その物語はもうとっくに始まっているはずだ。

2019年5月13日月曜日

ギガビット社会、その次は?

■ギガビット社会、その次は?
メディア・ソフト研究会報告書「ギガビット社会」。
93年10月。25年前。
10円で売ってました。
座長は月尾嘉男東大教授。マルチメディア委員長に浜野保樹さん。
ナムコの岩谷徹さん、吉本興業木村政雄さん、作曲家三枝成彰さん村木良彦さんや吉田直哉さんらレジェンド。
ぼくが事務局(課長補佐)。

メディア・ソフト研の下に置いた「マルチメディア委員会」の報告はCD-ROM。
これが世界初の政府CD-ROMだということで海外から取材が来たものの実はこっそり通産省の予算で作った代物でして、郵政省には内緒だったので、物議をかもしました。
通産省のカウンターパートは岸博幸という名前でした。

「メディア・ソフト」は「コンテンツ」を示す造語。この年にアメリカ産のコンテンツなる用語が市民権を得て、死にました。この報告は「コンテンツ政策」を立ち上げる奮闘記なのです。
政府の仕事がハードやインフラしかなかった当時、コンテンツ政策、さらには知財戦略を立ち上げるクーデターでした。

「ギガビット社会」は報告を出版するに際しての命名。
インターネット商用化は翌年のこと、せいぜい2400bpsだった、1.5Mは夢の世界、ADSLが始まるのは7年後、でもいずれメガはギガになる。それを展望し、コンテンツ政策を立ち上げる挑戦でした。

本文はわずか14枚、全部ぼくが書きました。
参考資料は200枚の絵・写真。
本文だけ省内協議にかけました。
大事なことは全部、参考資料にしました。
省内協議を通らないので。

メディアの方向性は、超広帯域デジタルネットワークに統合、ハード・ソフトが分離する、と図示しました。
とんでもないことです。
通信・放送融合も、地デジも、まだタブーでした。
危険思想でした。
でも、書いて発信しました。


五感通信、VR通信、サイバー通信。
情念ネットワーク、盆栽対話システム。
とんでもないことです。
まだ動画はおろか静止画も困難だったのに。
危険思想でした。
でも、書いて発信しました。

遠隔医療、テレイグジスタンスの利用。
CEATECあたりでテレイグがようやく実用サービスとして登場しています。
25年前、なかなか見えていたと思いません?
郵政省内 医務室の先生に協力いただきました。
服を脱がされた係員は無事出世しております。

インターネット前の時期に自分が書いた報告書を読み返し、これからネットワーク社会が来るという高揚感と、若い官僚が暴れられた時代感と、それを許した組織の余裕とが臭います。
今はどうでしょう。
AIにブロックチェーン、より大きな技術の波が来ています。
若い官僚がより大胆に暴れられんことを。

2019年5月9日木曜日

さらに東京を想う。

■さらに東京を想う。

東京のことを想う つづき。
海は絵になる。
ル・アーブルでモネは日の出を描き、印象派という名を残した。
そこで生まれたラウル・デュフィは南下し、鮮やかにニースを彩った。
(Molilloのパスタ)


その近くの海岸で、ジャン=リュック・ゴダール「気狂いピエロ」、顔にペンキを塗ったフェルディナンが爆死する。
最後に、ランボーの太陽に溶け込む地中海が広がった。
(白身魚の黒パスタ)

気狂いピエロの海は、溝口健二監督「山椒大夫」、厨子王が盲人となった母と再開するラストシーンへのオマージュだ。
佐渡の「達者」が舞台である。
世界の映画史に輝くそのラストシーンは宮川一夫キャメラの芸術。
2018年、京都国際映画祭で宮川一夫特集を組み、映像の系譜を世界に問うた。
(ピスタチオと生エビのスパゲティ)


フェリーニ「甘い生活」のラスト、疲れたマルチェロが砂浜で見るのは、醜い怪魚の死骸。
マルチェロは対岸で叫ぶ美少女に「チャオ」と背を向ける。
「8 1/2」、同じ海岸で、同じくマストロヤンニ扮するグイドは、ルンバを踊る怪女サラギーナに「チャオ」と別れを告げられる。美しい。
このローマ郊外、オスティア海岸は「ソドムの市」撮影後にパゾリーニが殺されたことでも知られる。
(エビとチーズのパスタ)


海底に潜んでいた「ゴジラ」は東京に上陸してくる。
「崖の上のポニョ」は福山の鞆の浦からやってくる。
海は異界である。
(みみたぶパスタ)


だが川島雄三「幕末太陽傳」は、居残り佐平次のフランキー堺が「地獄も極楽もあるもんけえ。俺はまだまだ生きるんでえ。」と捨て台詞を吐き、品川の海沿いの道を走って逃げていくラスト。
海は地獄であり、海は極楽であり、海は生であり、海は未来だ。
(タコの巣窟という店で食べた焼きタコ)


どうもすみません。
東京は広く、おもしろい。
変化し続けている。
世界とつながっているようで、孤高。
まだまだ手つかずの鉱脈であり、料理人が腕を振るえる食材です。
東京をもっとおもしろくして、つなげる。
CiPはその役に立ちたい。
それが言いたかったのです。
(タコチーズサンド)

さて、東京で消耗しようかな。

2019年5月6日月曜日

海の東京を想う。

■海の東京を想う。


東京のことを想う つづき。
なにしろ、海がある。
海を持つ首都だ。
ワシントン、ロンドン、パリ、ベルリン、ローマ、オタワ。
他のG7は首都に海はない。
防衛上、当然であろう。
北京にもモスクワにもない。
常任理事国の常識であろう。
(ポリニャーノ・ア・マーレ)

ニューデリー、マドリード、ブラジリアにもない。
大国はみなそうだ。
なのに東京は海を持つ。
海を持って輝く首都はシンガポールと北欧などわずかだ。
(オストゥーニ)

日本は海洋国家だった。
陸路より海路を活かすため、江戸を首都にした。
水に集い、水が中心だった。
物流や漁業の仕事の拠点だった。
そこに商売があり、賑わいがあり、文化があり、生活がある都市だった。
(レッチェ劇場)

今、東京は海を活かしていない。
埋め立てて埋め立てて、亡き者にしてきた。
川もそうだ。
蓋をして、首都高を通して、亡き者にしてきた。
江戸の水運インフラ日本橋川の上に、昭和の陸路インフラ首都高をかけた。
平成が済んで次の五輪を経て、首都高を埋めてまた川を開けようという議論となっている。

東京湾の、埠頭がある竹芝はどうする。
東京の陸から見れば、西から東に行き着いた端っこだが、海から見れば入口。
外への玄関だ。
羽田から品川を通り、竹芝から湾をまたいで晴海、豊洲、台場という輪をなす。

このあたり、オリパラで賑わうが、その後に何をどう残す。
海ならではの賑わいがあろう。
湾の上をドローンもエアカーも飛び交おう。
いまは倉庫ばかりが目立つホワイトスペース。
だからこそ絵が描けるはずだ。
 (バーリの元祖サンタの聖ニコラの墓があるところ)

世界には、海の都市がある。
これまであちこち巡った。
首都なら北欧、コペンハーゲン、ストックホルム、オスロ、ヘルシンキ、タリン。
いずれも海。
でも寒すぎる。
ギリシャ・アテネ、スリランカ・コロンボ。いい。
でも暑すぎる。
(チョキしてソフトクリームみたいなものもってる元祖サンタ)


アイルランド・ダブリン、マルタ・ヴァレッタ、アルゼンチン・ブエノスアイレスの海辺が印象深い。
重要なモデルはシンガポール。
海を活かし、賑わいを作る。
(未納税者を縛っていた棒のヨコにドラえもんが寝ている)

フランス地中海、マルセイユ、ニース、モナコ。
物流、漁業、観光が海を頼る。
フランス北部はノルマンディのオンフルール、ル・アーブル、ドーヴィルの港がいい。
イギリスはリバプール。
海沿いの再開発に目を見張る。

スペインは地中海バルセロナと北部バスクのビルバオが海のコンパクトシティ。
イタリアはジェノバもナポリも港町だが海辺に集うイメージは薄い。
むしろアマルフィやポジターノ、あるいはカプリ島の海を資源とした観光スポットが参考に
なる。
(つづく)

2019年5月2日木曜日

イタリアのかかとで、東京を想う。

■イタリアのかかとで、東京を想う。

イタリアのかかとでこれを書いています。


トゥルッリの中はあたたかいけど、大雪で外は東京よりうんと厳しい。

左から
1.ブッラータと地ワイン。
2.チーズと辛いサラミのオレキエッテ。
(ヘビーな絶品。トスカーナのサンキリコでたべたアヒルのラグーのうどんPICI、モンテプルチャーノでたべた猪ラグーのうどんPICIを思い出させる。)
3.ブタの首。

アッピア街道の終点を示す古代ローマ円柱の眼前にはアドリア海が紺に広がる。
森鴎外「舞姫」はここから船に乗って始まる。


対岸はアルバニア、少し下ればイオニア海に出る。
地中海を抜けて紅海、アラビア海、インド洋、フィリピン海、東シナ海。
その先にようやく東京が見える。
東京のことを想う。

「69、エロティックな年」。
セルジュ・ゲンズブールがジェーン・バーキンとこの曲を歌って半世紀。
前年の1968年、パリは五月革命に燃えていた。
プラハの春、中国文化大革命、ベトナム戦争泥沼化。
世界も燃えていた。

69年、日本もプチ炎上した。
東大の安田講堂攻防戦だ。
入試が中止となった。
だが5年前の東京五輪から後も高度成長は続いていて、翌年の大阪万博に向け槌音が響いていた。
「サザエさん」のアニメが始まった。
平和だった。

当時の人気番組に「東京ぼん太ショー」がある。
全国から東京に集まる田舎者を代表する東京ぼん太は唐草模様の背広を着ていた。
その衣装はバカボンが着物として受け継ぐ。
東京は世界の辺境で、巨大な田舎だった。

五輪の頃の東京をルポした開高健「ずばり東京」。
駅、刑務所、トルコ風呂、祭り、飯場、戦後がまだ残り、急激に膨張し、日常が騒がしくヒリついていた雑踏で、大量の田舎者が息荒くあえぎながら、濁った眼で明日を見ていた。

東京はたくさんの歌をもつ。
1936年、東京ラプソディー。
1946年、東京の花売り娘。
1957年、東京だョおっ母さん。
1961年、東京ドドンパ娘。
1965年、東京流れ者。
東洋の片隅に咲いた楽園に、全国から娘もお母さんも不死鳥の哲も夢を描いて流れてくる。
流れ者の街。


流れ流れて東京は。
夜の新宿花園で。
藤圭子はキッと目をみて「命預けます」と言った。
そんなこと言われても、と思った。
(娘の宇多田ヒカルさんが婚礼をあげたポリニャーノ・ア・マーレの教会です。)

東京が東京に決別し、TOKIOに生まれ変わるには、80年代を待つ必要があった。
速水健朗「東京β」は1980年、沢田研二「TOKIO」が「西洋の視点、つまり異文化として見た東洋世界を自らが演じるといった屈折したオリエンタリズムとでもいうべき東京=TOKIOの再解釈」だとする。
スーパーシティが舞いあがる。

同じころYMOも「テクノポリス」でTOKIO、TOKIOと世界につぶやいた。
東京ではなくTOKIOと記すことで、西洋から見た日本という読み替えを行う必要があった。
西洋に追いついた日本を自己規定する行為がTOKIOだ。
速水さんはそう言う。

岡崎京子「東京ガールズブラボー」。
80年代前半、北海道から上京した主人公のセリフ「ふしぎふしぎ東京タワーって みてるだけで元気になっちゃう」。

それからバブルに至り、弾けて、落ち着く。
クールジャパンが海外からやってくるのは20年後のことである。
その後、東京は最も創造的と海外から見られるようになった。

(つづく)