無駄を感じること。それは、人間を優しくするんだ と、おもった
ギューン・カセットの須原敬三さんをベーシストに向かえ、今や東京&大阪&福岡の混合バンドとなった埋火から最新作が届きました。しかも、トクマルシューゴ・二階堂和美に続いてのP-vineレコーズから! 唄もの界もびっくりのニュー・カマーの登場です。めちゃくちゃ優しい歌声と日常をそのまま表現した楽曲は、故・高田渡さんとかを思い出しちゃいました。インタビューでの彼女の言葉にはびっくりする程ぶっとい筋が通ってて、歌声は人柄をあらわすって事を再認識。いっぱいの素敵な言葉をありがとう。
インタヴュー&文:JJ
INTERVIEW
そこにあり続けるわけじゃなくて、ずっとそのまま続いていくもの
—Profileに2003年1月にジュリー・ドワロンの前座で出演、痛々しい演奏が....と書いてありますが(笑)
見汐麻衣(以下、見汐):いやっ、もう最悪でしたね。緊張しすぎてコードが「ぽーーーん!」となって。歌もうたわないけんし、ギターもひかないけんし、でもコードが全く出てこなくなったんですよ。いやもう、演奏が成り立たない! 音がスコスコで演奏も下手やし、何やってるんだろうって感じで。終わってから誰からも何も言われないライブってのを始めてしました(笑)。
—その後一念発起して活動を活発化させ、2ndアルバム『恋に関するいくつかのフィルム』のレコーディングを福岡でして、発売までの間に大阪に移住しましたね。それは何故ですか?
見汐:旦那さんの転勤がきっかけです。当時、結婚しようと思ってて。でもメンバーは福岡にいたから、半年間めっちゃ悩んだんですけど。でも、選ぶって言う考え方をやめて、なるようになるって言う考え方にしたんです。だから大阪に出れたんだと思います。
—ミュージシャンは、音楽で生計を立てることは本当に難しいから、生活することに素直でいる方が良いですよね。
見汐:「あの時、ああしとけば良かった!」という生き方が嫌なんですよ。
—関西に移住してから、須原敬三(ギューンカセット)さんと一緒にやり出したの?
見汐:そうですね。関西に出てきたは良いけど、どうやってライブをしていいかわからなかった。全てがゼロになった感じで、しばらく落ち込んでいる時期があって。当時、旦那さんが「渚にて」に参加してて、LIVEをベアーズに見に行った時に須原さんを紹介してもらいました。「ライブせぇへんの?」って言われて、「やりたいんですけど...」って言ったら、「じゃぁ僕がベースを弾くから、やろうよ」ってなったのがきっかけです。ほんとに、何でも言ってみるもんだなって。
—須原さんのベースはもうめちゃくちゃ良い。見汐さんの発した声が、途中でシャボン玉みたいにはじけるのは、須原さんのベースが大きい。
見汐:須原さんと一緒にやって、はじめて「うわぁっ!」って言う体験をしました。自分がこうしようと思った以上のうねりを簡単に越えてくるんです。聴いている人にはわかりにくいかもしれないけど、自分の中ではビッグ・バンみたいな。粒がたっているんですよね。ドラムの志賀さん(志賀加奈子)とかは、柔軟なほうではなく結構ジャスト。私はアルデンテみたいに真ん中はしっかりしてるけど、周りはやわらかい。その違った2人に須原さんが入ると、めっちゃ良いバランスになるんですよね。
—埋火は、九州の歌ものと、大阪の例えばラブクライや羅針盤のような、その両地方の匂いを感じる事が出来ます。そんな中、2007年の11月頃に、東京に移ってきて心境は変わりましたか? 埋火からは、東京の匂いはあんまりしないけど(笑)
見汐:東京は一番良くわからないです。福岡にいた時は、自分の範疇でやる事が出来た。何をやってて、どういう人が聴いてたかが明確だった。大阪は、それが少し大きくなった感じだった。でもこっちに来てライブをやっていると、「なんのためにこれをやっているの?」 って考えてしまう事がありました。顔がありすぎて顔がみえないというか「何処にもとどかないのか?」って思う事があるんです。
—音楽に関わる人だけでも、色んなスタンスの人がいるもんね。
見汐:音楽だけをやっている人は、それはそれで凄いと思うんだけど、私はものを書くとか、映画の配給の人と呑みにいって話を聞いたりとかコラムを書いたりとか、いろんなことに携わる事でメインの音楽活動が成り立ったり、立ってきたりすると思うんです。だから、寄り道は多ければ多い方が良いと思う。無駄を大事にする精神と言うか、無駄は多ければ多い方が良い。無駄の中にこそ意味がある。そういうのが、自分の中にしっかりあるんですよ。
—この作品は、それが表れてます。最初に『わたしのふね』を聴いた時に、「10年10作目まで聴き続けたいアーティストだな」と思いました。
見汐:ありがとうございます。ずっと続けていく事をフラットに考えられれば、その人が悩んでいる物事はたいした事ないのにって思う。「どうやったらお客さんが入るんだろう」とか、「どうやったらCDが売れるんだろう」とかに意識を持っていかれるよりは長く続けることをブレずに考えていれば、結果として付いてくるものがあると思いたい。
音楽って、具体的な答えがあるものじゃないから。そこに在り続けるわけじゃなくて、ずっとそのまま続いていくもの。聴かれる世代によって色や捕え方もきっと変わっていくだろうし、ずっと生ものを扱っている、そんな感じ。だからすぐ結果を求めるのは、私にとっては気持ちよろしくないなぁ。
理由付けされるもののためだけに、自分が営みをやっているんじゃない
—この作品で埋火は、やふちがみとふなとさんのように、しっかりと自分達のスタンスを持った一歩秀でたアーティストになったのではないですか?
見汐:恐縮です。上の方がどんどんフェイドアウトしていく中で、突き抜けた所で活動している、自分達もそうなっていけたら、とっても嬉しいです。続けるために必要な事はいっぱいあるし、その流れの中で今回のようにリリースの話を頂いたり、逆に凄く良くない時期もあるだろうし。でもその中で周りとどう交わるかだと思うんです。自分にブレがなければ、どう対応するかとか、チャンスと思えるかどうかだと思うので、無理をしない事が大事だと思う。
—この音源を聴いて、埋火から凄いロック的な匂いも感じました。いきなりFAZZ踏んじゃったりとか。
見汐:普通にロックン・ロールも大好きなんですけど、自分がやるってなった時は、外に向けて発するエネルギーは、ロックン・ロールみたいにはないんだなって気づいて。埋火は最初ラモーンズが大好きで、私もガレージ・バンドが大好きだったので、元々そう言うコピー・バンドをやってたんですけど、凄い静かなんです(笑)。わーってなっても、みんなが興奮するのとは違う場所で盛り上がってる。だから嘘くさくなっちゃって表に出て行かないんですよ。でも出来る事しか出来ないって腹をくくってからは、今のスタイルになって楽になった。これしかないもんって思った瞬間、それの一番高い所に行こうと思って。だから見る方ではロックン・ロール大好きで「うわぁー」ってなるけど、やる方では全然違う自分が出てくるんです。
—どっちが本音なんでしょうね?
見汐:どっちも本音だと思いますよ。
—あの音源のブリブリのFAZZはなんなの?
見汐:ロシアンマフと普通のビッグマフ。あと、須原さんが持っているエフェクターがいちいち良くて、レコーディングの時に色々試させてもらって、こっそり持って帰ろうとしたらおこられちゃいました(笑)
—見汐さんが出すFAZZの音は本当に素敵ですね。良い意味であえて腰がない感じと言うか。
見汐:それは、私が男の人が弾くギターの方が繊細って思うのと一緒ですよ。女の人がひくおおざっぱな良さもあるけど、男の人の方が繊細な気がするんですよね。男の人のギターを聴いてると、「こんなのできねぇよ」って思う時があって。フレーズではなく、質感とか、音の出し方とか。
—じゃぁ、見汐さんにとってのあこがれのギタリストは?
見汐:THE STARSやDamon & Naomiの栗原ミチオさん。あと、ジェシ・エド・デイヴィス。エフェクターの使い方とかも、私が思っている以上に細かいと思うんです。私は、この音を出したいと思った時に、じゃぁどのエフェクターを使おうって考えるんだけど、男の人って、こういう音をどうすればもっと出せるかを考える。つまみ一つでも、全く妥協しないこととか尊敬してます。まぁ、そこがむかついたりするとこでもある。レコーディングのときとか特に(笑)。
—何故うたうのですか?
見汐:私は以前、人に聴かせようと思って音楽を創る事に疑問を持った事があって。生活の中で鼻唄を歌ったりとか、何かをしながらその都度の感情の波によって出てくるものが正しいというか、そういうもんじゃないのかなって思っている時があって。でも最近は、毎回、最初で最後だと思ってやってるんです。音楽って「わーっ」て口にした瞬間で、おわりじゃないですか。だけど、その「わーっ」て言ったものをキャッチしてくれる人が、オーディエンスの中に何人かいる事で、在るものになると思うんです。歌なんて、生きていく中で一番補欠でしょ。だけど、その補欠みたいなものにこんなにも一生懸命時間を費やしているその無駄を磨く事が、たぶんすっごい好きなんだと思います。必要な事だけに時間を費やす事が、しんどいんです。理由付けされるもののためだけに、自分が営みをやっているんじゃないって事を提示したいんです。おこがましいけど。
—凄いわかります。歌詞についてはどう考えてますか?
見汐:歌詞は、その人に行き着くと思うのです。凄く有名な芸能人が「あなたを好きです」って言うのと、山本精一さんが「あなたを好きです」って言うのでは、同じ言葉にしても、ニュアンスや伝わり方は、その人のフィルターを通っているから届き方が違う。喋ったりつづったりする言葉は、同じようで全然違うと思ってる。言葉って不思議なもので、自分があえて使わないでいた言葉も、実際に口にすると景色が変わる瞬間がある。考えている事、今まで見てた景色がワンランク上に行く時がある。コミニケーションのツールとして、人に何かを説明するためだけの言葉じゃない言葉もあると思うんです。だから、歌詞は良いものを書こうと思った事がなくて、全部を通して聴いた時に裏側からにじみ出てくるものを大事にしたいなと思って書いています。
生きてて相手に言えないことのほうがいっぱいある。必要な会話をしてても、あっこれは言わない方が良いなって思う事がいっぱい。で、そんな人が書いたにじみ出てくる部分を捕えて欲しいと思います。
—最後に埋火の名前の由来を教えて下さい。
見汐:立原正秋っていう作家さんの短編小説に『埋火』っていう作品があるんです。たまたまバンドを組んだ時くらいに読んで、バンド名どうしようかってなってた時だったから、いいんじゃないかなぁって思って。俳句だと冬の季語ですね。
—どう言う短編小説なんですか?
見汐:人の業みたいな。 あんまり感情の起伏が激しく書かれてないのに、熱い感じです。
「わたしのふね」購入者特典について
アルバム「わたしのふね」の曲をDLをして頂いた方には、それぞれの曲の歌詞付き画像が特典としてつきます。曲をダウンロードした後、下記の曲名をクリックして下さい。
LIVE
12月31日(Wed)@阿佐ヶ谷LOFT A 見汐ソロ
Loft A countdown Festival 「Asagaya L.A.F 2008→2009」
open/start 18:30/19:30〜close4:00
adv/door 1200/1500 振る舞い酒付き
act: 宮城マリオ / 丹羽秀樹(まぼろしのみぎ) / 水中、それは苦しい / ジョン(犬) / バイナリキッド / 安部たかのり / ふたりwbs / ラ・サプリメントビバ! / 見汐麻衣 / 他
2009
1月12日(Mon)@秋葉原club GOODMAN
P-Vine Presents-Ground-3
open/start 18:00/18:30
adv/door 2500/2800
act: 佐々木匡士 / 村岡充gt(f:TestPatturn) / 村井英晃ba(f:猿股茸美都子) / 山本達久dr(f:NATSUMEN) / ひょうたん / 灰緑 / 埋火
1月15日(Thu)@新宿Motion 見汐ソロ
Motion presents“ICHIGOMUSIAM” at Shinjuku
open/start 18:00/18:30
adv/door 1500/1800
act: とうめいロボ / SEBUTIN X / あだち麗三郎 / 他
1月24日(Sat)@難波BEARS
『oblique mirrors』
open/start 18:30/19:00
adv/door 1500/2000
act: jenny on the planet / にく / コウセキラヂヲ / 埋火
1月25日(Sun)@心斎橋FUKUGAN GALLERY
open/start 18:30/19:00
Charge 1500yen
act: 中山双葉 / 見汐麻衣
1月31日(Sat)@秋葉原CLUBGOODMAN
SPECIAL EDITION
open/start 18:00/18:30
adv/door 2000/2300
act: ヨシュアカムバック / ビイドロ / cero / YOMOYA / 見汐麻衣(from:埋火)
2月10日(Tue)@吉祥寺STAR PINE'S CAFE
open/start 18:00/19:00
adv/door 3000/3300
act: 山本精一+須原敬三/埋火
2月15日(Sun)@難波BEARS
uzumibi presents watashinofune release live
open/start 18:30/19:00
adv/door 1800/2300
act: えでぃまぁこん / 渡辺勝と松倉如子 / 埋火
2月22日(Sun)@public space四次元
uzumibi presents timeless melody3
open/start 18:30/19:00
adv/door 2000/2500
act: JOJO広重 / ミラーボールズ(名古屋) / 埋火
DJ)ミヤガワエレクトリック808
VJ)越出健治
LINK
埋火 ホームページ http://uzumibi.fc2web.com/
埋火 MySpace http://www.myspace.com/uzumibi
「と、おもった」のライブ映像 http://jp.youtube.com/watch?v=47rRj5EecOs&eurl=http://video.google.com/videosearch?client=safari&rls=ja-jp&q=埋火&ie=UTF-8&oe=U
みしおとすはら「コーヒーブルース」のライブ映像 http://jp.youtube.com/watch?v=cW_aaDk9KKY&feature=related
埋火の所属レーベル P-vineのサイト http://uzumibi.fc2web.com/index1.html
見汐麻衣
2001年結成、埋火(うずみび)のVo&G。その他、ソロを始め、neco眠る森君とのユニット、毎日寿司。剣樹人(あらかじめ決められた恋人達へ.B)、弘中聡(GeGeGeGe Quartet.Dr)とのトリオ編成、コドモアズ(休止中)などでも活動。サンプル・フレーズの妙味とダンス・ミュージックを内包した3ピースBAND、アナの『FLASH』収録曲「LAZY」「FRASH」へのコーラス参加。『サイプレス』収録曲「血沸き肉踊る」へのコーラス参加。2009年は自主でソロ・アルバムを作りたいと思案中。