サウンドの秘密を探る制作環境秘話──eufonius、新作から4曲をDSD 5.6MHz独占配信
2016年6月6日にリリースされたeufoniusの16枚目のミニ・アルバム『ソラフルハテ』。美しく繊細なriyaのヴォーカルと生楽器 & エレクトロ・サウンドを統合させた透明感溢れる菊地創の“eufonius”印サウンドメイクがきらりとひかる1枚。OTOTOYではこちらを10月7日から、24bit/96kHzのハイレゾ+ボーナス・トラック「メグメル 〜spieldose〜 」付きで配信中だが、さらにOTOTOY独占で、この『ソラフルハテ』から、「ファノス」「sefar」「いつか」「空降る涯」の4曲のみをDSD 5.6MHzで配信開始します。トップ・ミュージシャンたちも参加し、ヴォーカル、生楽器、エレクトロニクスが三位一体となって迫ってくる様をぜひとも繊細なDSD 5.6MHzでお楽しみください。
OTOTOY独占で『ソラフルハテ』から4曲のみをDSD 5.6MHz配信
eufonius / ソラフルハテ(5.6MHz dsd)
【Track List】
01. ファノス
02. sefar
03. いつか
04. 空降る涯
【配信形態 / 価格】
DSD 5.6MHz
アルバムまとめ購入のみ 1,601円(税込)
24bit/96kHzハイレゾ+ボーナス・トラック付きで配信
eufonius / ソラフルハテ(24bit/96kHz)
【Track List】
01. APSIS
02. nadeje
03. ファノス
04. ミラコリット
05. sefar
06. いつか
07. 空降る涯
08. メグメル 〜spieldose〜 (アルバムまとめ購入のみのボーナス・トラック)
【配信形態 / 価格】
24bit/96kHz) WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 399円(税込) / アルバムまとめ購入 2,500円(税込)
INTERVIEW : eufonius
インタヴュー中にもあるように、その音のこだわりから、eufoniusは早くからハイレゾ / DSDに取り組んできたアーティストである。新作『ソラフルハテ』もまた、さまざまなミュージシシャンによる生楽器の演奏とriyaのヴォーカル、そして菊地創によるサウンド・プロダクションが高い次元でひびきあい、そしてeufoniusの音としてまとめられている。まさにハイレゾで聴くことを念頭に入れて、今回は『ソラフルハテ』から4曲のDSD 5.6MHz版のOTOTOYでの配信に際して、彼らのスタジオに潜入、そのサウンドの源泉たるレコーディング、そしてスタジオのセッティングに関して話を聞いた。
インタヴュー : 飯田仁一郎
構成 : 椿拓真
eufoniusの美麗なるサウンドを司るスタジオへ
──このミニ・アルバムを出そうと思ったきっかけを教えてもらえますか?
菊地創(以下、菊地) : アニメやゲームのタイアップの合間に、自主レーベルならではの自由度の高い制作をルーティン・ワーク的に行うんです。1年や2年に1回、自然に作り始めます。そしてなんとなく作った2、3曲のデモをriyaに送って歌詞を書いてもらいます。
──riyaさんは、歌詞の世界観をどのように描くんでしょう。
riya : 送られてくるデモには世界観のヒントが少し文字で添えられているので、それを汲みつつ。でも私が聴いて違和感を抱くと自分の世界に書き換えたりもします。
──例えば、1曲目の「APSIS」はどんな世界観に落とし込みました?
riya : 「APSIS」に関してはゼロから私の世界観ですね。天文用語を用いて、自分と「心の中の宇宙」にいるもう一人の自分について描きました。
──そのような歌詞を読み解く手助けになる歌に込めた意味をそれぞれ教えていただけますか?
riya : 実は、なるべくそこは出さないようにしてるんです。聴いてくれた人がそれぞれに合うように受けとって欲しいので。私はこういうつもりで書いたんだけれども、みんなはどうだろうって。
──なるほど。では今作は、新しく歌の面でトライしたことってありましたか?
riya : そうですね。マイクの種類が増えました。とてもナチュラルに録れるやつを取り入れてレコーディングをしたので気分も新鮮でした。
──それはなんていうマイクですか?
菊地 : 日本のメーカーの三研の「CO100K」という、おそらく世界で唯一100KHzまで録れるマイクです。それをメイン・マイクで数曲録りました。
──なんやこれ、変な形。
菊地 : そうなんですよ。結構変わった形だし、メイン・ヴォーカルで使う人はまずあまりいないと思います。オーケストラのトップ・マイクとかで使うのが主流なんですがポップ・ガードもなしで口元に当てて使いました。
──確かriyaさんは吹き音があまりない人だから、このマイクの形でも大丈夫なんですね。
菊地 : そうなんですよ。このマイクは、すごいクリアで、自然な感じで録れます。最初歌いにくいって言ってましたけど(笑)。
──どこを狙って歌ったらいいかわからないみたいな?
菊地 : そうなんですよ(笑)。ただriyaは高域に魅力があるヴォーカルなので、このマイクはすごく効果的でした。ドラムのトップ・マイクにも使っています。
──今回は32bit/96KHzで録音したのでしょうか?
菊地 : 32bit/96KHzと、あと、オトトイさんに渡すDSDです。昔はそのフォーマットで出せると思ってませんでしたし、「CO100K」を導入したスペックを活かしたかったのでDSDで配信できて嬉しいです。
──菊地さんは先進的にDSDとかハイレゾをやっていますが、いつからはじめたのでしょうか?
菊地 : デビューした2004年頃からです。ProToolsもまだ不安定な時もありましたが、最初から24bit/96KHzでやってました。昔はパソコンのスペックなどが問題で作業に難があったんですが、明らかに聴き比べた感じの音が違うので、その音でマスターを残しておきたい一心で頑張っていました。パソコンがヒーヒー言いながら(笑) 。
──2004年って…。それはヒーヒー言いますね。
菊地 : そうなんです。ProToolsでも48KHzまでしか録れないスタジオもまだあったので、96KHzのマルチを持っていって怒られたりしました(笑) 。ここ数年で最新版のProToolsを導入して、そのままDSDに行きましたね。
──改めてそのDSDの良さを言葉にしてもらっていいですか?
riya : 私はスタジオの機材を替えて聴いた時、「音の密度感が違うなぁ」と真っ先に気づきました。マイクを試している時もそうだったんですけど、やっぱりぎゅっと詰まっている感じの音だったんで。
──菊地 さんはどうですか。
菊地 : 24bit/96KHzとDSDを今回配信させていただくんですけど、不思議ですが、聴き比べると明らかに違うんですよね。アナログ盤が一番ナチュラルな録音媒体だと思うんですけど、DSDはそれにすごく近い。そしてノイズがなく、クリア。とてもナチュラルでいいフォーマットだと思います。
DSDレコーディング術
──菊地さんがDSDに落とし込む流れを教えてもらってもいいですか?
菊地 : DSDネイティヴのマルチ・レコーディングでは無いのですが、ProToolsの中で32bit/96KHzでマルチ・レコーディングしたものを、アナログのアウトボードでミックスし、Millennia NSEQ-2でハイレゾ用にマスタリングしたものをKORG MR-2000SにDSD 5.6MHzで録音しています。ちょっと面倒くさくてもその方法を取っています。
──32bit/96KHzでも、eufoniusの曲は相当チャンネルを使いそうだし、スペックが持たないように思えますが、ちなみに何トラックくらい使うんですか?
菊地 : 僕がトラックを重ねるのが好きじゃないので、意外とeufoniusは少ないです。多くても30個くらいには収まってますしどんどんまとめちゃいます。
──曲によってAVALON AD 2055、Chandler TG Channel mk2等を使い分け、コンプはChandler LTD-2を軽めに通して録る以前教えていただいたeufoniusの基本パターンでしょうか?
菊地 : そうですね。その他のアウトボードも結構使ってます。今回もマスターEQにしたMillenniaのNSEQ-2が割と効いてます。ProToolsから音を出して、簡易版マスタリング的にEQしてDSDに落とす時に使いました。本当は、マスタリング・スタジオで使ってるようなマスタリングEQなんですよ。
──『ソラフルハテ』の作曲的な制作過程を解説してもらってもいいでしょうか。例えば「APSIS」はriyaさんに送る前に原曲を作ったというような。
菊地 : 「ミラコリット」っていう曲は霜月はるかさんのコーラス参加ありきで考えました。作る時から、riyaの声とは対極にあるような声の少し民族音楽的な要素が欲しくてすぐに霜月さんにお願いしました。あと実はSchool Food Punishmentとかが好きで、「APSIS」はそれ系なこともやりたくって。
──菊地さんは曲の原型を作るタイプだと思うんですけど、それはどういう風に浮かび上がるんですか?
菊地 : どうですかね。アップテンポがあればバラードも、ミディアムテンポのものあって、ちょっと変わった系のも入れようという風に、アルバム全体のバランスは考えます。コンセプトなどはなく、鍵盤の上で手が動くままできたのをriyaに送って、OKだったらそれでよし、ちょっと違ったら戻ってきたりとか。
──でも、それって、グループとして年季がないとできないことかなって思うんですよ。
菊地 : 割と、趣味や好きな音楽が最初から似ていたりして、お互いのことは信じきっている感じがします。与えたものとか、くれたものに関しては何も言うことないですね。
eufoniusの背後に広がる芳醇な音楽体験
──共通の好きな音楽ってどんな音楽だったんですか?
菊地 : 新居昭乃さんや菅野よう子さんとか。でも趣味で聴く音楽は違いもあって、riyaの方がマニアックなんです。音楽は僕より全然詳しいですね。
riya : 日本の音楽はそんなに聴かないかな。ちっちゃい頃からちょっと変わった感じで、小学3年生くらいの時に初めて買ったCDがT-SQUAREで、フュージョンばっかり聴いていたんですけど、吹奏楽部に入ると吹奏楽のオリジナルの音楽が好きになり、短大に入るとオーケストラを聴くようになりました。
──完全にエリートコースですよ。
菊地 : あはは。本当に。
riya : でも卒業してからは、テクノやエレクトロニカが好きになりました。
──歌はいつから目覚められたんですか?
riya : そもそも歌手をやるつもりはなくて、成り行きで始めました。eufoniusをやる前、今劇伴や提供で活躍しているmyuちゃんという子と2人でユニットを組んでいたんです。お互い何かやりたくて、「私が曲作るから(riyaさん)歌ってよ」という話になったのがはじまりです。だから、その時逆だったら私は作り手側になってたのかなぁって思うんですけど…。
──そうなると 菊地さんと出会うことはなかったですね。
riya : そうですね(笑)。
──菊地 さんはどんな音楽を聴いていていたんですか?
菊地 : 僕は子供の頃から綺麗なメロディのJ-POPとか歌謡曲が好きで、高校卒業して専門学校に入った頃くらいから菅野よう子さんとか坂本龍一さんなどの和声が美しくアカデミックなものに移っていきました。中学くらいはTM NETWORKばかり聴いててワーッて感じでした(笑)
──でも、いわゆるロックバンドではなかった?
菊地 : そうですね。バンドをやろうと思ったことはなかったですね。シンセ1台で全部できるのがすごいなと思って、すぐ高校でシンセを買って打ち込みを始めましたね。
ハイレゾにこだわる理由
──高校から打ち込みとかしていたんですね。おふたりの制作作業はどうされているんですか? 歌録りとかは菊地さんのスタジオで?
菊地 : そうですね。曲を送って歌詞ができたら、お互いが空いてる日にスタジオで録ります。
──結構歌い直ししたりするんですか?
菊地 : いや、あんまりないです。レコーディングはすごく早いです。ふたりで録ったりすると、riyaが気になったところは歌い直しするくらいでテイク選びも全部riyaにお任せです。逆に僕じゃないレコーディングとかは全然勝手が違って大変なのかなって思いますけど。
riya : そうですね。ドキドキしますよね。自分では選べないし、録音室の向こうでは誰が何言ってるかわからないので。自分たちの時は歌は自分管轄でやってるので、多くて録るのは5回くらいかな。何回歌っても劇的に変わったりはしませんから。
菊地 : 楽曲提供した際も僕が録りに行くんですけど、それでもやっぱり早いです。何回も歌わせるのも申し訳ないし。
riya : せっかちなんで。
──生楽器にはどれくらいこだわっていますか?
菊地 : もともと打ち込みの人間とはいえ、あくまでシュミレートのためであって、実は生演奏が大好きなんです。まずリズムがあって、ちょっと周波数的に他のヴォーカリストよりは上にあるriyaのヴォーカルの下の空いた中域をベースに動いてもらって、そして弦とかで綺麗にラインを書いて飾るのが好きなんです。クリアなヴォーカルなのでレンジを広く使ってきらびやかにしたいし。
──今ってDTMでなんでも音出せるじゃないですか。それでも生音は違いますか。
菊地 : そうですね、やっぱり。耳で聴いた感じの生音は違います。ハイレゾにこだわってる理由はそこです。シンセはエッセンスとして足したりエディットで加えたりするだけで、基本的には生重視なんです。
自主レーベルのコンセプトからくる新作の聴きどころ
──今作の聴きどころはなんでしょうか?
菊地 : 普通はこうするところをそうしないみたいな、曲の構築的な遊びも取り入れたりしてます。タイアップと違い、あえてポップにする必要はないっていうのが自主レーベルのコンセプトなんで。個人的には「sefar」が大好きです。表題曲の「空降る涯」も。
──少し前にトクマルシューゴさんにインタヴューしたんですけど、彼も同じく制作系の仕事で彼なりの売れる曲を求められることが多いそうで、オリジナルのソロ・アルバムがとてもマニアックなんですよ。
菊地 : タイアップ系は、みなさんによく聴いてもらうことを意識してそこにeufoniusらしさを詰め込んだ作品。自主レーベルでは、どう評価されてもいいし何のストレスもなく作ろうっていうコンセプトで自由に作ります。毎年1枚ペースの息抜きみたいな独自企画です。
riya : タイアップものだと、あらすじとかももらっちゃうから世界観が決まっちゃうんですよね。あと、以前手がけた作品と重複した世界観の案件が来たりして、少し変えようとするんですが、大筋では似たような楽曲になることもあるんです。
──eufoniusは今後どういうモードになっていくんですか?
菊地 : タイアップで作品が使われるのは嬉しいのでもちろんそこもやりつつ、今までとは違ったこともしたいです。eufoniusを軸にしながら2人がそれぞれ広く手を出すのもいいと思います。riyaが他の人のコーラスでツアーを回ってもらったりとか、そういうのもアリかなと思ったり。
riya : eufoniusが手がけた曲でコーラスってことはあったんですけど、全くeufoniusが関わりないところでの機会はなかったので、別件のコーラスとして関わっていくのもいいなって思います。
菊地 : 僕は、今までeufoniusで培ってきた能力を活かして、いろんな人とコラボしたり、色んな楽曲制作をできたらいいなと思っています。
──なるほど。なんかワクワクしてきますね。
PROFILE
eufonius profile
ヴォーカル、riyaとサウンドプロデューサーの菊地創による音楽ユニット。2004年のメジャーデビュー以来「CLANNAD」「true tears」「ヨスガノソラ」等、数々のアニメ&ゲーム主題歌、BGMを担当。透明感溢れるヴォーカル&サウンドメイク、ドラマチックでオリジナリティ溢れるメロディ・メイクが魅力。