【BiSH】Episode68 アユニ ・D「6人が無作為に何をやってもBiSHになる」
2018年3月発売のメジャー3rdシングル『PAiNT it BLACK』がオリコン・ウィークリーチャート1位を獲得、日本レコード大賞新人賞を受賞し、幕張メッセ9・10・11ホールにて1.7万人を動員した単独ワンマン公演〈BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL “THE NUDE”〉を成功させた"楽器を持たないパンクバンド”BiSH。2019年11月6日に、6作目となるシングル『KiND PEOPLE / リズム』をリリースし、現在〈NEW HATEFUL KiND TOUR〉を開催中のBiSHに10周目となる個別インタヴューを敢行。第5回は、アユニ ・Dの声をお届けする。
BiSH、待望のメジャー3rdアルバムをハイレゾ配信
INTERVIEW : アユニ ・D
彼女と取材以外の場所であった時も、格段に明るくなったように感じるアユニ・D。2019年夏。〈LiFE is COMEDY TOUR〉とPEDROを並行させる怒涛の日々は、アユニ・Dに大きな変化をもたらしたようだ。詳しくは以下で語っているが、それによるBiSHの変化も、さらに大きなものになると予想している。メンバーが口を揃えて途上であることを言うBiSHが新たに見せる変化を想像しながら、〈NEW HATEFUL KiND TOUR〉に向かってもらえたら幸いだ。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 井上沙織
写真 : 大橋祐希
人生で1番情緒不安定な夏だった
──PEDROのツアーを振り返ってみていかがですか。
アユニ ・D(以下、アユニ) : 学んだことは数えきれないほどあるんですけど、1番大きいことは性格が変わったなって。
──どう変わりました?
アユニ : 今までは根本が暗くて、ライヴとかは楽しいですけど、楽しいことがあっても心の底から素直に喜ぶことがあんまりないというか、そもそもそんなに意識もせず淡々と過ごしてたんです。でも今年の夏、楽しいってこういうことなんだって生まれてはじめて気づけて。物心がついた感じですかね。
──最高が更新されたということですね。逆に低いほうに落ちたこともあったんですか?
アユニ : もともと低いのがデフォルトなので、高いのを知ってしまって感情の起伏が激しくなってしまったのかな。ほぼ毎晩、制作期間とかも泣いちゃってたんですよ。悲しいからじゃなくて、楽しすぎて自分の気持ちについていけなくて怖くなってきて。初めてのことだったからコントロールできなかったんですよね。人生で1番情緒不安定な夏だったと思います。
──ツアーのセットリストや演出は自分で考えたんですか?
アユニ : はい。学校とか犬が出てくる案とか、最初の映像とか、やりたいことをたくさん話して。それを実現できるように色々案を出してもらえて嬉しかったですね。
──同時期に行われていた〈LiFE is COMEDY TOUR〉はどうでしたか。
アユニ : 最近「BiSHらしさって何ですか?」って訊かれることが多くて考えたんですけど、1人ひとりが独特な個性を持っていて七変化できるのがBiSHにしかないことなのかなって。〈LiFE is COMEDY TOUR〉のコントから始まる謎構成のライヴもそうですけど、BiSHがやれば全部BiSHになってしまう。6人が無作為に何をやってもBiSHになるっていうのはすごく感じました。
──アユニが加入して3年が経ちますが、そこからメンバーは変わることなくやってきていますよね。
アユニ : 自分の中ではメンバーが変わらないことが普通ですけど、”普通”ができていること、自分含め誰も失踪していないところが本当に偉いと思います。
──30分コントするのは嫌じゃなかったですか?
アユニ : 最初から最後まで爆笑の渦だったかっていうと全然そうじゃなかったんですけど(笑)、ハシヤスメはハシヤスメなりに自分の個性を研ぎ澄ませたのではないかなと思うし、お客さんは仕事とかで30分遅れても絶対楽曲は聴けるので、結構いい役割をしてたんじゃないかなと思いました(笑)。あとは、初めて観にきた方にとっては歌とダンス以外でそれぞれのキャラクターが分かりやすかったんじゃないかなって思います。
──僕は毎回楽しみにしていますよ、コントコーナー。BiSHってMCもバラードも少ないじゃないですか。激しい曲をワーッとやってる中であれ位の尺のコントはちょっとした休みにもなって。
アユニ : そうなんですね。謎の時間を挟むことによって曲が来たときのブチ上がり度が増すみたいな感覚もあるのかな。
BiSH特有の七変化できる姿が全面的に出せた
──『CARROTS and STiCKS』はなかなか挑戦的なアルバムでしたが、アユニにとってはどんなアルバムになりましたか。
アユニ : 過激で尖ってる曲も明るい曲もあって、BiSH特有の七変化できる姿が全面的に出せたんじゃないかな。できることの限界はないなって思いました。「I am me.」とかキラキラした楽曲も、やらなかったら絶対できないままだったと思うんです。でも、できたなって。まだまだ枠を超えていけるのかなって思えたアルバムでした。
──アユニが好きな曲は?
アユニ : 「遂に死」が好きです。ベースの音がよく聞こえてかっこいい。
──「STiCKS」の方は破壊力がありますよね。もはやアートの世界に行ってるような気がしますけど。
アユニ : リンリンが椅子に座る「FREEZE DRY THE PASTS」とか。いまのリンリンは現代アートって言葉が1番合ってると思うし、それを活かした振り付けを作るアイナちゃんもすごい天才的だと思います。個人的には、私は本当に作り笑いができなくて、ポップな楽曲だと表情も作らなきゃいけないから難しくて。でも激しい曲だとダンスを魅せる振り付けを考えてくれることが多いので、勝手に感情が込み上げてくるし、私は激しい踊りを踊るのが好きですね。
──なるほど。ライヴをたくさんしても笑顔を作るのは慣れないですか。
アユニ : こっち見んなって未だに思います。なんでこんないっぱいの目が! って思いますもん。やっぱりにらみ倒す方が自然にできますね。
──ははは(笑)。ちなみに腹抱えて笑うときってあります?
アユニ : ありますよ! 普通にゲラなんでめっちゃ面白いことがあれば笑いますけど、ステージ上って面白いことって無いじゃないですか。
──どちらかというとピリピリしてますもんね。でもコントのときのアユニの顔は本当に嫌なんだろうなっていうのがちゃんと出てますよ(笑)。
アユニ : あれは演じてるというより「マジで何言ってんだこの人」って本気で思ってるので、それが表情に現れてます。
6兆点の中の100点
──初めての大阪城ホールはどうでしたか。
アユニ : ひとつの集大成として急激にパワーアップしたBiSHをみせるというより、もっと地続きの道のりの上というか、ツアーを経て力強くなったそのままの姿を見せられたんじゃないかなと思っていて。やっぱりBiSHチームがすごくて、ライティングも山田(健人)監督の映像もかっこよくて、生バンドの音圧もすごかったですし、異世界でライヴをした感覚でした。
──今回の大阪城ホールに点数をつけるとしたら何点ですか?
アユニ : 6兆点の中の100点。全部やりつくせたのかなとは思うんですけど、BiSH自らの創作部分が幕張に比べたら少なかったなと思って。
──100点だけど、もっとクリエイティブな部分を出したかった?
アユニ : そうですね。今回も自分たちでアイデアを出したり考えた部分はたくさんあるんですけど、怒涛のスケジュールの中で迎えた公演だったのでBiSHとしての時間が本当にとれなくて。そのときできることは最大限したので悔いはないですけどね。
──あの日、みんなめちゃくちゃ忙しい中で初めて地方のアリーナ会場でのライヴを迎えることになって大丈夫かなって思っていたんです。でもそんな心配をよそに圧巻のパフォーマンスをしていて。杞憂だったなと。
アユニ : 大阪城ホールに向けてみんないろんなものを備えてきていたんです。ツアーから大阪城ホールまでの間は表には立てなくても毎日忙しくて。部活で言うとずっと体育館で練習の日々を過ごしてきて、やっと大会に出れた! みたいな気持ちでしたね。
──前のインタビューでアイナが「一人ひとりの表現力が伸びたことによってBiSH全体がもっとすごくなるから期待しててください」と言っていて。大阪城ホールでの姿がアイナには見えていたのかもね。
アユニ : チッチはいろんなヒーローが集まったアベンジャーズになりたいって言っていて、すごいことを言うなと思いました。私はアベンジャーズを見たことがないので分からないですけど、個々の力が強くなって1人ひとりがヒーローになって集まったときにもっとすごいものになれたらいいっていうのは全員思ってることだと思います。
──新曲の「リズム」はアイナ作曲で、また新たな一面を覗かせていますね。
アユニ : 「リズム」も「KiND PEOPLE」もきれいなメロディで、歌詞も強気な心がなくてセンチメンタルで。アイナちゃんはこういう音楽が好きなんだって思いました。BiSHの良さって人間臭いところも全部出すところだと思っていて。私もそうですし、人間誰しも心の底にはマイナス思考の部分があると思うんですけど、それを表に出すのって上手く伝わらないから普段は出さないじゃないですか。でもBiSHはそういうことを出すから、受け取ったときに共感しやすいというか、救われる曲になるんじゃないかなと思いますね。
曲を作るという行為が本当にすごいなって思います
──〈NEW HATEFUL KiND TOUR〉が始まりました。今回もバンドセットですよね。
アユニ : 生バンドです。セットも衣装もコンセプトがあって絵本の世界みたいで、目で観ても楽しめるようになってると思います。やってて楽しいですね。
──最近はどんな音楽を聴いていますか。
アユニ : FugaziとかELASTICAとか、昔の音楽ばかり聴いていますね。
──やっぱり田渕(ひさ子)さんの影響は大きいですか。
アユニ : そうですね。まあNUMBER GIRLは自分の中で原点であり頂点である音楽なので。
──NUMBER GIRLのライヴはLOFT以降も観ました?
アユニ : 野音と京都音楽博覧会も行きました。バンドってかっこいいって思わされますね。音楽を何十年も続けられるって本当に素敵だなって感じてから、いままではBiSHが終わってしまったら失踪したいとか山に逃げるとか言ってたんですけど、もしBiSHが終わっても音楽をやれたら幸せだなって思うようになりました。
──今後やりたいことはありますか? BiSHでもPEDROでも、もしくは個人としてでも。
アユニ : 曲を作りたいです。この世に音楽をやってる人が数えきれないほどいるじゃないですか。その事実が信じられないというか。全員頭おかしい人だなって思ってて。なんで曲を作れるの? って不思議に思います。例え有名でもそうじゃない方でも、曲を作るという行為が本当にすごいなって思います。
──この3年を振り返ってみて、いまの自分に満足していますか?
アユニ : 満足してます。あ、満足してるからもういいやっていう意味ではないですよ。何十回も言ってることなんですけど、「続けるって無意味じゃない」ってことはいますごく実感しているし、続けてきて本当によかったなって思うんです。たった3年間でこう思えるんだったら、この後の年月もそう思えるんじゃないかっていう謎の希望も自分の中で出てきたし、最近物心も付いたので。継続は力なりではないですけど、いま、すごく楽しいです。
──もっとプライベートがほしいとか、そういうことは思わないですか。
アユニ : 休日をもらえるならほしいですけど、BiSHはもう生活の一部なので。衣食住と同じ感覚でやってますね。
前回の記事はこちら
LIVE INFORMATION
NEW HATEFUL KiND TOUR
2019年11月14日(木)@東京 オリンパスホール八王子
2019年11月16日(土)@山口 周南市文化会館Z
2019年11月17日(日)@広島 上野学園ホール
2019年11月23日(土)@石川 本多の森ホール
2019年11月24日(日)@長野 ホクト文化ホール・大ホール
2019年11月29日(金)@神奈川 相模女子大学グリーンホール
2019年12月4日(水)@東京 東京国際フォーラム
2019年12月7日(土)@北海道 札幌文化芸術劇場 hitaru
2019年12月13日(金)@宮城 仙台サンプラザホール
2019年12月14日(土)@岩手 盛岡市民文化ホール(大ホール)
2020年1月10日(金)@兵庫 神戸国際会館こくさいホール
2020年1月11日(土)@大阪 オリックス劇場
2020年1月18日(土)@栃木 宇都宮市文化会館
2020年1月22日(水)@東京 NHKホール
2020年1月23日(木)@東京 NHKホール
※ダイブ・リフト・サーフ禁止
チケット料金(税込)
通常チケット :
S席 7,000円(税込)
A席 3,500円(税込)
年齢制限/ 未就学児童入場不可
受付URL
PROFILE
アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人からなる楽器を持たないパンク・バンド。BiSを作り上げた渡辺淳之介と松隈ケンタが再びタッグを組み、彼女たちのプロデュースを担当する。ツアーは全公演即日完売。1stシングルはオリコン・ウィークリーチャートで10位を獲得するなど異例の快進撃を続けている。