sleepy.ab、7年の眠りからの目覚め──第3期のはじまりを告げる新アルバム『fractal』をリリース
1998年に結成し、現在も北海道を拠点に活動する3ピース・バンド、sleepy.ab。彼らが実に7年ぶりとなる新作『fractal』をリリース! 結成当初からのテーマでもある“眠るための音楽”を表出するような、優しさ溢れる成山剛の歌声や、綿菓子のようなふわふわとしたものに包み込まれた暖かみのあるサウンドは今作でも健在。とは言いいつつサウンド的な進化はしっかりと詰め込んだ、新たなsleepy.abの魅力を引き出した作品にもなっている。初期sleepy.abの作品でも共同制作をしていた〈Chameleon Label〉田中一志との共作となった今作で、どのようなサウンドの変化を遂げたのだろうか。今回sleepy.abのフロントマンである成山剛と〈Chameleon Label〉田中一志にインタヴューを行った。『fractal』を聴きながら7年ぶりのインタヴューをお楽しみください。
実に7年ぶり! 眠りから覚め、フル・アルバムをリリース
INTERVIEW : sleepy.ab
“眠るための音楽”を作り続けるsleepy.ab。彼らの音楽をどうしても欲しくなる時がある。音像に包まれる喜びを、成山剛の声がこだます安心感を必要とする時がある。そのためにsleepy.abは続いていかなければいけない。僕らsleepy.abを愛する人たちのために。
インタヴュー : 飯田仁一郎
構成 : 東原春菜
写真 : 作永裕範
自分ひとりだけでは辿り着けないものはひしひしと感じていた
──今作の資料には「sleepy.ab結成20周年・第3期始動」と書いてありましたが、“第3期“というのは?
成山剛(以下、成山) : 〈Chameleon Label〉の(田中)一志さんと一緒にやっていた1stから4thアルバム『fantasia』、もしくはベスト・アルバム『archive』を作るまでが第1期かなと。そのあとメジャー(ポニーキャニオン)にいって『paratroop』と『Mother Goose』をリリースしたのが第2期。そのあとポニーキャニオンを抜けて、8thアルバム『neuron』とソロ・アルバム(『novelette』)を作ったんですけど、久しぶりに一志さんと一緒に作って。やっぱりsleepy.abにもこの音が必要だということを再認識したというか、またバンドでも一緒に新しいアプローチをしていきたいなと思っての “第3期”ですね。
──ソロで活動している中、メンバー3人でまた活動したいと思ったのはなぜですか?
成山 : ソロの活動に満足して「バンドはもういいんじゃないかな……」と思ってしまう不安もあったんですよ。だけど、ソロで活動をしたことによって自分ひとりだけでは辿り着けないものはひしひしと感じていました。sleepy.abの音楽はぼーっと聴いていられるような感じがあると思うんですけど、山内(憲介 / Gt)のギターはそこを広げてくれる感じがあるから山内のギターはsleepy.abにとっても大事だなと。
──なるほど。今回7年ぶりの新作リリースということですが、結構時間がかかりましたね(笑)。
成山 : 7年前に事務所を抜けたとき、ライヴを減らしていこうという話になったんですね。そのタイミングで山内が函館に住むことになって。いまはデータでやり取りができるから昔よりもラクになったとはいえ、札幌から函館までは車で5時間かかるのでやっぱり大変でしたね。
──田中(秀幸 / Ba)さんはどこで生活していたんですか?
成山 : 岩見沢ですね。僕が札幌にいたから、みんなバラバラで生活をしている感じでした。
──ということはライヴをするのも難しいですよね。
成山 : そうですね……。それでやっぱり制作も難しくなってきて。『fractal』が半分くらい完成した段階で制作もパタッと止まりましたね。
──普段、楽曲制作はどんな感じで進めているんですか?
田中一志(sleepy.abのプロデューサー / 以下、田中) : 打ち込み中心の曲に関しては、データでのやり取りをして、ほとんど僕のスタジオ(カメレオンスタジオ)で作成しています。なので3人が集まるのは1か月に1日あればよくて、僕がデータを集めるというか、みんなの発想をまとめています。
──スタジオに入って作っていくというよりかは、デモ・データを広げていく感じなんですね。
田中 : いまのsleepy.abってドラムがいないからリズム・パートに関しては、僕がリズムを入れた状態の音を作って、その時点で「こんな感じの曲はどう?」っていうアイデアを出すところからやっていますね。方向性が良ければ成山に連絡してギターを録ってもらいます。(山内)憲介はめったに来れないので、自分のツールでギターを録音したものをデータで送ってきますね。それで十分だったらそのままだし、やっぱりアンプに流したほうがいい音は最終的にスタジオに入って録ってます。
成山 : ポニーキャニオンのときは、先にまとめてもらってから音源を渡されるやり方でやってましたね。それが逆にセルフっぽくなっていたので、また初期のころの形でやってみたいなと。
──なるほど。sleepy.abは初期からそんなやり方していたんですね。すごいなあ。
成山 : いい素材がいっぱいあるんだけど自分たちの中でまとめきれないところがあって。
──そういうやり方だと必然的に時間もかかりますよね。1曲ができる時間もものすごい長いんじゃないですか?
成山 : 本気でやるまでグダグダしているというか(笑)。あとやっぱり出したくないっていう気持ちがあったんですよ……。
──それはなんでですか?
成山 : 2006年から2013年までポンポンポンと出し続けていたから、また作らなきゃいけないなという不安と焦りで怖くなっていた部分がありましたね。さっきも話したんですけど、3人で集まって制作をすることも難しくなったので、そのスピードをゆるめようとしていたんです。だけど、いままでのスピードの流れの中で評価されたとしても「数字的には下がってしまうんじゃないか」とか「一旦休んじゃったら下手なものを出せない」みたいな精神的な部分でピリオドを打つような気持ちになってしまっていて。
──精神的なところが大きかったんですね。
成山 : 出したい気持ちはあるけど出したくない気持ちもあって、心の中での葛藤がありました。
──でも出そうとなったきっかけは?
成山 : さすがに今年出さないと終わりかなっていう(笑)。お客さんとの距離もソロで持続していたけど限界を感じてきましたね。
1人になれる音楽を作りたい
──それをどうやってまとめた感じですか?
成山 : 各々曲を作ってくるので、とりあえず曲を集めて、そこから収録曲を絞りましたね。歌詞の部分が大きいですけど、今回のアルバムのなかで、次元とか時間とかそういうものを考えて順々に歌詞を書いていました。
──アルバム・タイトルの“fractal”はどういう意味を持っているんですか?
成山 : 今回作成している中で「sleepy.abは、なにをやってもsleepy.abだな」とも思って。歌詞は本当に過去のことを書いているんだけど「あ、これは未来のことだったんだな」ということが結構多いんですよ。「このテーマだからこう書こう」というよりは、後から導かれている不思議な感覚がありますね。
──成山さんの見てる景色として、sleepy.abのメンバーのことを書いたのかなと思ったんですけど、そこを意識しているわけではない?
成山 : sleepy.abというものに関して書いた感じはちょっとあったかもしれないです。その未来を見越してというか、バンドがいつか離れていってしまうことを想像して書いた曲もあります。21年くらいの付き合いなので、どうしてもメンバーのことはテーマになっていきますね。
──このアルバムで表現したかったことはどんなことでしょう?
成山 : 毎回言いたいことは同じようなことなんですけど、1人になれる音楽を作りたいなというのはあります。
──それは初期からのテーマですか?
成山 : sleepy.abは「眠る前に聴く音楽を作ろう」というコンセプトからはじまっていて。自分でもいろんな音楽を聴くときは1人で聴いていて心地よい音楽を選んでしまうので、自分たちもそういう音楽でありたいなと。
──サウンド的に今回のアルバムでトライしたことは?
成山 : 僕が2004年までずっと洋楽を聴いていたのもあって、1〜2枚目のアルバムを出したときは洋楽を聴いている層に落ち着いていたんです。けど2005年から邦楽も聴きだして、自分の楽曲の中に音楽の幅が広がったんですね。そのタイミングで3rdアルバム『palette』をリリースしたんですけど、ちょっとポップな感じに広げすぎたなって思っていたんですよ。だから今回のアルバムでは、サウンドより歌詞の内面的な部分をもっと掘り下げることにトライしました。
──今回新しく取り入れてみようと思ったジャンルはあるんですか?
成山 : 僕たちはそこまで「あれを聴こう、これを聴こう」と、新しく取りいれるタイプじゃないんですけど、今回はリズムに関してもブラック・ミュージックへのアプローチは率先して入れていく感じがありました。
──なるほど。音像としてはどうですか?
成山 : 最近はインストから作る曲が多くて、3曲目の“サンクチュアリ”は山内のインスト曲だったんですよ。だけど、レコーディングのときに僕が勝手に歌詞を追加したんですよね。なぜかこの曲はすぐに歌詞が書けました(笑)。
田中 : これに関してはおもしろくて。もともとデータが全くまとまってないものだったんですよ(笑)。トラックもまとまってないし、変更したデータがどこに入っているのか分からないくらいの量のデータが届いて。
──えぇ!!!
田中 : この曲の母体があって「なんで30分あるんだろう?」と思って進めていったらポッと30秒くらい曲が入っているんですよ。作っていく過程での「これはやめた」みたいなものなのかもしれないんですけど、それを聴いたらすごくよくて(笑)。
──その30秒の音が?
田中 : そう。俺的にはすでにこの曲は完成していたんだけど、この曲の間奏にボーンとわざと入れ込んだんですよ。その音を入れても自然な感じになったのがおもしろくて、歌を入れて全部繋げてみました。(山内)憲介は一種の天才ですよ(笑)。
sleepy.abの音は誰にも負けてない
──成山さんは楽曲を作るとき何から音作りをするタイプなんですか?
成山 : 完全にフォーク・ギターです。
──フォークなんですね! フォークから作る人、インストから作る人、それからトラック。最後にそれをミックスするのは田中さんだと。
田中 : 自宅スタジオだから「またあとで録ればいい」という風になるのはしょうがないんですよね。でも、別の仕事もやりながらsleepy.abのこともやってるので「この日しかないんだよ! お前!」みたいなこともありますね(笑)。
成山 : 一志さんはsleepy.ab以外にも大泉洋さんなどCREATIVE OFFICE CUEのタレントさんの音楽制作やヒップホップのトラックメイクなどもやっていたりして。10個ぐらいの制作を平行している中で時間を割いてもらったけど間に合わなかった……。
田中 : リミットが決まっていて無理やり完成させるものより、さらに突っ込んだ音の方がいいことは分かっているから許せましたね。外のスタジオを借りちゃうと、スケジュールも飛んじゃうしプレッシャーにもなるから、歌は必ず自宅のスタジオで録るという方法でやってます。あとは、いままでのヴォーカル処理を今回あえて変えた部分があって。昔はダブっぽくしたり、エコーをかけたりして使うことが多かったんですけど、今回はそれをかなり減らしたよね。
成山 : そうですね。sleepy.abの音は誰にも負けてないつもりですけど、昔のsleepy.abをストリーミングのプレイリストとかで他の音楽と並んで聴いたときに、リヴァーブやエコーの影響で、引っ込んで聴こえたんですよね。いまの時代、MP3で聴く人もいるし、硬い音像が正解みたいになっている雰囲気を感じていて。その音を弱いと思われるのが単純に嫌だなと思ったんですよ。ただ音質を下げるのは嫌だから、ダイレクトに強いヴォーカルであってほしいというのは思っていましたね。
──なるほど。今回、田中さん的にミックスするときsleepy.abの楽曲に対して挑戦したことはありますか?
田中 : 僕はクラブ系、ヒップホップ系、パンク系も好きだったりするので、sleepy.abも1つのジャンルにこだわらないものとして作っていくというのは最初から思っています。次の時代の雰囲気を作るためのアプローチをして、何を入れればかっこいいのかというのは考えましたね。sleepy.abの初期のころはもっとローファイな感じを出していたんですけど、今回はもう彼らの音楽をローファイに聴かせたら違うなと思って少しレンジを広くしました。その辺も新しいと感じてもらえればと思っています。
──今回のジャケットは色使いもあって華やかな印象ですが誰が手掛けたんですか?
成山 : 絵自体はいつも書いてもらっている飯田キリコさんです。だけど今回は、コラージュのイメージがあったのでPANDEMIXXXというアパレル系のデザイン集団にやってもらいました。
田中 : 服飾関係の人って感覚が新しいというか、アーティストといろいろコラボなんかしながらかっこいいなって思って。
──最後になりますが、ライヴでは今回の楽曲をどうやって表現するんですか?
成山 : そこですよね(笑)。ライヴで表現するように曲を作ってなくてバンドは生で演奏すると、ある程度制限されるからこれから必死に考えるしかないですね。その点を踏まえて約4年半ぶりのライヴを楽しんでほしいです。
編集 : 鈴木雄希
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LIVE SCHEDULE
sleepy.ab アルバム発売リリース記念ライヴ
2020年2月11日(火・祝)@札幌 ムジカホールカフェ
時間 : OPEN 18:00 / START 18:30
出演 : 成山内(成山・山内によるユニット)
sleepy.ab「fractal」tour
2020年3月1日(日)@大阪府 Shangri-La
時間 : OPEN 16:00 / START 16:30
2020年3月15日(日)@北海道 cube garden
時間 : OPEN 16:00 / START 16:30
2020年4月18日(土)@東京都 UNIT
時間 : OPEN 17:00 / START 17:30
【詳しいライヴ情報はこちら】
https://sleepyab.info/live/
PROFILE
sleepy.ab (スリーピー)
北海道を拠点に活動する成山剛 (Vo.Gt)、山内憲介(Gt)、田中秀幸 (Ba)の3ピース・バンド。
“眠るための音楽”をテーマに1998年に活動を開始。バンド名の接尾語の“ab”が示す通り、abstract=抽象的で曖昧な世界と、繊細な旋律と声、内に向かったリリックとともに作り出すサウント・スケープで、多くの人達を魅了し続けている。
札幌の〈Chameleon Label〉から7作 品を発表後、〈ポニーキャニオン〉よりメジャー・デビュー後10作品を発表。〈FUJI ROCK FESTIVAL、〈SUMMER SONIC〉、〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL〉、〈COUNTDOWN JAPAN〉、〈RISING SUN ROCK FESTIVAL〉、〈JOIN ALIVE〉、〈ARABAKI ROCK FEST.〉などの全国の大型フェスに出演。
バンド形態に加えアコースティック編成(sleepy.ac)の作品制作や、成山・山内によるユニット(成山内)、成山によるソロ活動、他のアーティストへの楽曲提供やコラボ作品に参加するなど幅広く制作活動も行う。
2014年、自主レーベル〈nem records〉を立ち上げ自己マネージメントで活動するとともに10年ぶりに再び〈Chameleon Label〉との音源制作をスタート。2016年成山剛のソロ・アルバム『Novelette』を発表。2019年6月結成20周年ワンマン・ライヴ@東京・渋谷WWWにて超満員SOLD OUTで成功させるとともに新曲2曲を発表。7年ぶりにバンドとしてのアルバム制作を開始する。2020年3月よりアルバム発売ツアーをスタート予定。
【公式HP】
https://sleepyab.info
【公式ツイッター】
https://twitter.com/sleepyab