「歌壇」2002年7月号 穂村弘の文体を語るのに少女言葉の問題は避けて通れない。初期穂村の世界の少女は対話のなかに生きていた。そして現在、穂村の歌はこの少女言葉に語りの全てを預けている。短歌は主題を選んでから文体が決まるより、文体が自ずと主題を選ぶことが多いのではないだろうか。 穂村の場合、典型的にこの少女言葉が少女という主題を選び、創造し、さらには少女の発想が穂村を代弁するという過程を辿っている。それではこの少女言葉とは何なのか?その働きを詳しく見てみよう。 体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ 『シンジケート』 「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」 「クローバーが摘まれるように眠りかけたときにどこかがピクッとしない?」 一首目。体温計を銜えているため、「雪だ」が「ゆひら」になってしまう。この奇妙な音と化した言葉は、二人の会話の親密