Nils Frahm、Peter Broderickの2人が作るoliveray『wonders』の音は、しみじみと深く染み渡る曲が満載。これぞ正統派な美しい演奏で始まる一曲目から、Peterのつま弾く、土着的で、朴訥な雰囲気がある歌とギターに、Nilsのピアノがそっと絡むことで軽さと洗練さを兼ね備えた、なにとも区別できない新しい音楽になっている。一言では言い表すことが出来ない程、豊かな表現が沢山詰め込まれ、ど派手ではないが、長く長く愛聴できるアルバムとなった。
oliveray / wonders
美しい旋律と、音の隙間から生まれる一瞬の緊張感が、聞くものを新たな音の世界へと引きずり込む。様々な楽器を操り、情景やその場の空気感を表現する二人の音の表現者、Peter ray BroderickとNils oliver Frahmが提示した新たな音楽。ジャンル無確定の傑作!
【Track List】
01. growing waterwings / 02. the book she wrote and in the time / 03. piano in the pond!
04. harmonics / 05. hiding hydration / 06.you don't love / 07. just resign / 08. dreamer
美しい旋律と生々しい音像が見せる桃源郷
ポスト・クラシカルというのは、とても不明瞭な言葉だ。クラシックをベースに、ミニマルやエレクトロニカなどの要素を加える方法は無数にありすぎて、はっきりとした定義づけをするのは難しい。それに対して、oliverayのデビュー作『wonders』は、極めてシンプルな編成、ピアノとアコースティック・ギター、バイオリンで構成されている。サンプリング音が入っているわけでもないし、電子音が多用されているわけでもない。この作品は、音楽的な目新しさよりも、どうやって多くの人たちに、その音楽を届けるかに重点を置いて作られている。
『wonders』は、ポートランドのマルチ・プレイヤーPeter ray Broderickと、ベルリンのピアニストNils oliver Frahmによる共作のアルバムである。お察しのとおり、oliverayというバンド名は、2人のミドル・ネームを足したものだ。実は2人の共作はこれが初めてではない。2009年には、Nilsの即興演奏を収めたアルバム『the bells』を、Peterがプロデュースしている。同作品では、Peterが「僕が頭からぐるぐる巻きにされているところを想像して曲を作って」という注文をしたり、ピアノの弦の上にPeterが横たわって「peter is dean in the piano」という曲を作ったりと、クラシックの型から解き放たれた曲作りがされている。
そんな2人が組んだ今作では、一体どんな奇抜な方法で曲を作っているのか、とあなたは思うかもしれない。しかし、今作にそうした制作時の情報は与えられていない。先入観を与えるような事前情報を必要以上に出すことなく、純粋に作品だけを聞かせようという工夫がされている。全編を通して、レコーディング時の空気感を生々しく捉えた音像と音の隙間に、音に対する二人の張りつめた緊張感を感じることができる。また非常に人間味溢れる柔らかな音が作品全体に広がっている。1曲目の「Growing Waterwing」では、悲しみや冷たさを纏ったNilsのピアノに、Peterの扇情的なバイオリンが絡むことで、音に深みが出て絶妙な美しさが生まれている。また、4曲目「Harmonics」では、Peterの柔らかなギターと歌声に、Nilsのピアノとコーラスが加わることで、見事に親しみを抱かせる曲に仕上がっている。おそらく、今回も何かテーマを設けて作曲をしているのだろうが、音だけに焦点を当てているわけではなく、メロディーやハーモニーをしっかり意識した曲作りがなされている。そのため、彼らの活動を知らない人にとっても、非常に親しみやすい作品となっている。
この音楽は日本でも年齢を問わず、受け入れられることは間違いない。2人の間には、驚くようなテーマがあるかもしれないが、聴き手はそれに縛られず、彼らの音楽に耳を傾けることができる。その音を聞いて、2人の間でどんな驚きのテーマを持って作ったのかを想像するのも、また楽しみの一つであろう。NilsとPeterの異なる才能が交わることで、万人に向けた奥行のある味わい深い1枚が完成した。(text by 西澤裕郎)
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PROFILE
oliveray
Nils Frahm
1982年、ドイツ生まれ。幼少よりピアノを学び、チャイコフスキーの最後の門下生の一人、Nahum Brodskiに師事していた。Peter Broderickがニルスの才能にほれ込み、プロデュースしたソロ・ピアノ作、『The Bells』はヨーロッパで高く評価された。その後、『Wintermuzik』をリリースする傍ら、同シーンのアーティスト達と多くの共同作品を発表している。2008年、ベルリンに自身の活動拠点となるDurton Studioを設立。ベルリンの映像・音楽・アート・シーンを担う若きアーティストを中心に、スタジオ提供やCM作成など様々な活動を行っている。2011年10月には新作『Felt』を発表。卓越したピアノは、更に大胆に、時に静寂な表現へと成長を遂げている。
Peter Broderick
1987年アメリカ生まれ。2007年ソロ・ピアノ・アルバム『Docile』リリース以降、多数のリリースを続けている。ピアノやギターが主な使用楽器だが、ヴァイオリンやミュージック・ソウなど幅広い楽器を使いこなすマルチ・プレーヤーでもある。現にデンマークのバンド、Efterklangにはviolin奏者としてサポート・メンバーに加入している。2010年にリリースしたソロ・アルバム『How They Are』は優美と形容できるほど音に艶のある名盤となった。驚くほどシンプルで、時に激情的な旋律を紡ぐ彼の曲は深く響き、染み渡る稀有な音である。