この記事の写真をすべて見る 昭和の銀幕スター原節子は、日本人離れした美貌と高い演技力で、数々の巨匠作品に登場した。しかし、人気絶頂のなかで突然、表舞台から去り、95歳で生涯を閉じるまでその姿を見せることはなかった。『あの時代へ ホップ、ステップ、ジャンプ! 戦後昭和クロニクル』(朝日新聞出版)から一部抜粋し、謎めいた大女優の軌跡を素顔とともに紹介する。 * * * 8月15日の敗戦は、さまざまな“変化”を女性たちにもたらした。女優の原節子もその例外ではなかった。 当時、原は25歳。女手で大家族を支えていたため、住まいのあった東京・笹塚から京王線に乗り、多摩川あたりまで野菜の買い出しに出かけた。沿線には大映(現・KADOKAWA)の撮影所があり、たまたま同じ電車に乗り合わせた女優たちは泥まみれの野菜を抱えた同僚の姿を見て「気の毒に」と気兼ねしたのだろう。原がいくら話しかけようとしても、