※本稿は、和田秀樹『女80歳の壁』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
夫婦仲とホルモンとの関係
幸齢期に夫婦の溝が深まるのは、生理学的に見れば仕方ないかもしれません。
理由のひとつは、夫の男性ホルモンが減ってくるからです。
男性ホルモンの減少によって、意欲が低下したり、人づきあいが億劫になったりします。幸齢期はただでさえ思考や意欲を司る脳の前頭葉が縮んでくるのに、意欲低下があると、さらに脳の働きが悪くなります。
いっぽう、妻は、更年期が終わりを迎えるころから、男性ホルモンが増えてきます。意欲も増進し、アクティブになります。すると脳も活発に働くので、幸齢期に見られる前頭葉の縮みもカバーできるのです。
つまり、男性は気持ちが内向きになり、女性は外向きになる傾向がある。これを放っておくと、夫婦の溝は大きくなってしまうのです。
原因は夫かもしれない
「夫源病」という言葉をご存じでしょうか?
夫の言葉や行動が大きなストレスになり、妻が病気になってしまうことです。
主な症状は、めまいや不眠、動悸、耳鳴り、食欲不振などの心身の不調で、うつ病になる方もいます。更年期外来を開設する故石蔵文信医師が命名しました。
夫へのストレスが原因で病気になるの? なんて思うかもしれませんが、本当になる人がいるのです。実際に、夫が定年退職し、家に居るようになって症状が出始める妻は多くいます。
ちなみに、タレントの上沼恵美子さんも、ご主人の退職をきっかけに、この病気になったことは有名な話です。あの活発な方でさえなるのです。ストレスを溜める怖さを、改めて教えてくれた例です。
男性ホルモンが減り、前頭葉が縮んできた夫のなかには、不安が募り、妻を束縛する人も多くいます。「ママ、ママ」と妻に依存する夫の例を話しましたが、それが強まるのですね。
夫に縛られ、家から出られなくなる妻は、ストレスを溜め込む一方です。こうなれば、心も体も悲鳴を上げるのは当然です。そうならないためにも、夫婦がおたがいに自立したほうがいいのです。