『細雪』文庫版解説 音楽雑誌ではときどき「無人島レコード」というアンケート企画を行う。「無人島に一枚だけレコードを持っていってよいと言われたら何を選ぶか」という究極の選択である(私も一度このアンケートに回答したことがある)。 無人島レコードの条件は「何百回、何千回繰り返し聴いても飽きず、つねに高い水準の悦楽をもたらすこと」である。難しい条件だ。そのときはずいぶん悩んでアンケートに回答したことを覚えている。しばらくして、アンケート結果が掲載された雑誌が届いたときに、他の回答者はどんな音源を選んだのか気になってぱらぱらと頁をめくった。すると大瀧詠一さん(この人をどういう肩書きで呼んだらいいのか、よくわからない。私にとっては私淑する「師匠」である)が選んだのはレコードではなく『レコード・リサーチ』というカタログであった。それも1962年から66年までの分でいい、と。その理由を大瀧さんはこう述べて