青森県の女性霊媒師「イタコ」は、死者の魂を自らに憑依(ひょうい)させる「口寄せ」を通じて、生者と死者を媒介する。集落の女性たちの身近な相談に乗るカウンセラー的な存在でもあった。その技能は修業により習得するが、今日、師弟関係に基づく伝統的なイタコの系譜は途絶えつつある。イタコを生んだ社会背景と日本人の霊魂観を考察する。 自然崇拝と先祖供養 日本人は無宗教──。そう思い込んでいる人は少なからずいるのではないだろうか。だが、日々の暮らしを見れば、日本人は世界の中でも信仰心のあつい国民と言ってもいい。 お盆の帰省がいい例だ。新型コロナウイルスの影響もあり、ここ最近は帰省を控える傾向が強いが、それまでは毎年お盆の時期になると、墓参りのために高速道路の渋滞も気にせず帰省した。ご飯の時に「いただきます」と手を合わせるのも、八百万(やおよろず)の神々に対する感謝であり、「一切衆生」(いっさいしゅじょう=生