毎朝、福島市内からマイクロバスに子どもを乗せて隣の山形県まで連れて行き、夕方にまた帰ってくる。福島市の保育園「たけの子」の代表辺見妙子さん(52)がこの二年、往復を続ける「サテライト保育」だ。 原発事故の後、放射能の影響を気にしながら室内でばかり過ごす保育に苦悩を深めていた。子どもに泥んこ遊びもさせられない。田んぼや土手の散歩にも連れていけない。花や草木の名前も知らないで大きくなっていく。限界だ。その年の秋、約五十キロ離れた米沢市の幼稚園を間借りした。 自然の中で再び過ごせるようになり、子どもに笑顔が戻った。時には福島市や周辺の別の園の子も連れて行く。二年も散歩していなかった子、ススキやコスモスを知らなかった子。歓声が上がるたび、原発事故を起こした大人の罪を思う。園舎の家賃や運転手の手当などにかかる二十万円は寄付に頼るため心配だが、踏ん張る覚悟を決めている。